ショートショート「富士山を干す」
「干物は星を越えて」
「富士山が……う、浮いてる……。」
その光景は全世界同時生中継されていた。
日本一の山、富士山が地面から引き剥がされ宙に浮いている光景を。
中継当初はタチの悪いCGを使ったドッキリかと思われたが
あまりにも深刻にニュースキャスターが原稿を読み上げている姿に
徐々に現実であると皆が現状を把握し始めた頃、空から漫画のような円盤が
現れた。
「干っしっしっし。我々はドライッシュ星から来たホシ。
今日は、この地球で目についたこれを干物にして持って帰るホシ。」
宇宙人だ。しかもかなり交戦的な。よりにもよって富士山を干物にするなんて。
日本人が悲嘆に暮れる中、静岡漁港の干物店が宇宙人に向かって叫んだ。
「何がドライッシュ星だ!そんなに干物が欲しけりゃなぁ!
ウチの干物を持って帰りやがれ!」
「なに!?この星にも干物があるホシ!?わがドライッシュ星だけの文化かと
思っていたホシが他星の干物は興味があるホシ。
よかろうホシ。その干物の出来次第では、富士山の干物を諦めていいホシ。」
富士山干物事件。
これは、人類が初めて他の惑星の知的生命体と接触し
干物と言う星を超えた文化で繋がった初めての事件として
歴史に名を残すことになったのだった。
その名残は、少しずれた富士山の麓に残っており
今では新たな観光資源として、富士の麓を賑わせている。
*
「プロフェッショナル 干物の流儀」
藤星三郎(ふじほしさぶろう)59歳。
室町時代から続く「富士山干し」一族の15代目。
———あなたにとって富士山干しとは?
あんたそりゃ、呼吸をどうするのかって聞いてるのと同じだぜ。
おいらは、物心ついた時から富士山を干してんだ。
富士山を干してるなんて、考えたこともねぇ。
———では、どうして今日まで富士山干しをつづけられたんですか?
それしかねぇからさ。
富士山を干す。室町時代の一代目「藤干物守星親」が富士山を干した。
そこからウチは富士山干し一筋600年。
今更、投げ出すわけにはいかねぇのよ。
———富士山干しの魅力は?
富士山を干してるとよ、ふと考えちまうんだ。
もしかしたら、おいらが干しているんじゃなくて
富士山がおいらを干しているんじゃねぇかってな。
どっちがカラカラになるかの命をかけた干物合戦。
これが富士山干しの魅力なのかもしれないね。
———本日はありがとうございました。最後に、富士山干しの未来を一つ
そうさねぇ。富士山干しの未来ねぇ。そんなもん、こっちが知りてぇよ。
真面目に考えちまったら、富士山干しなんてやってれねぇからよ!
そう言うと藤は笑顔で富士山干しに戻っていった。
結局我々は富士山干しの内容については何一つわからなかった。
最後に藤が渡してくれた「富士山の干物」。
一体これは何なのか。
とある研究所に解析をお願いした結果は次週の
「プロフェッショナル 干物の流儀 富士山の干物の正体スペシャル」
でその正体をお届けしたい。
*
「干物取りが干物になる。」
富士山は大きな干物であることは、あまり知られていない。
初冠雪は富士山の趣が凝縮され結晶化したものが冬に現れる現象なのだ。
大沢崩れは乾燥した際に縮んだ時のかけらが麓に落ちていて、
それを富士山のふりかけとして食され、地元では朝の定番メニューだ。
けれど、富士山は日本のシンボルとして広まるとこの事実は隠匿された。
富士山の干物があまりにも美味しいからだ。
和の趣がぎゅっと詰まった干物富士は地元でも限られた人しか食べられない
伝説の食材となっているのであった。
もし、あなたが干物富士を口にする機会に恵まれても
そのことを広めてはいけない。
もし広めてしまったら…命の……
この手記はここで途切れている。
富士山の干物なんてものが存在するはずがないと思いながらも
興味が湧いた私は今大沢崩れからこぼれ落ちた富士山の干物を食べている。
この趣は病みつきになる。手記を書いた人物がどうなったかはわからない。
この味を楽しむためには私も干物富士一族に入るしかなさそうだ。
*
・田丸雅智さん
の「物語の発想法を学ぶ」講座の第3回を視聴していました。
最後に講座中に視聴者のコメントで即興ショートショートを作り上げるのがおもしろくて、その時に出た「富士山の干物」で3つのショートショートを書いてみました。いかがでしたでしょうか?一回でもクスッと笑っていただけていれば幸いです。
講座は終わってしまいましたが、これからも
#物語の発想法を学ぶ
でショートショートをかけるところまで書いていこうと思っています。
宜しければお付き合いいただけると嬉しいです。
それでは、本日はこの辺りで。
失礼します。
bow
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