ショートショート「キツネとタヌキのオセロ」
「令和狸狐合戦」
とある山深く。
そこに日本中から代表に選ばれたキツネとタヌキ達が集まっていた。
今日は一年に一度、互いに化かし合いどちらが優秀かを競う
「ポン・ポ・コ・コン」であった。
「今年の勝ちはわしらがいだたきますぞ。」
「なにをおっしゃいます。今年もこちらが勝たせていただきますよ。」
一触即発。
早くも火花を散らす、タヌキとキツネ。
お互い睨み合うと、キツネ側の代表が口を開いた。
「タヌキさん。今年は一つ、趣向を変えようではありませんか?」
「ほう。キツネさん、それはどういったものですかな。」
「こちらでございます。」
すると、キツネ達がオセロを持ち出した。
「これは?」
「人間どもが遊びで使うおもちゃのオセロでございます。」
「オセロ?」
「おや、タヌキさんはご存知ではない?」
「いやぁ、わしらは人間どもの暮らしに疎くてなぁ。はっはっは。」
「では、遊び方をお教えいたしましょう。」
そう言うと、キツネはオセロの遊び方をタヌキ達に教え出した。
「なるほど。この黒い石と白い石を使って、遊ぶのか。」
「ええ。で、今年はこれで化かし合いの勝敗を決めると言うのは如何かな?」
「ふむ。面白いですな。それでよろしいか、皆の衆。」
うおおおお!と関の声をあげるタヌキ達。
「オセロ勝負、決定。ですね。」
「喜んで。わしらはルールを今知った故、お手柔らかにお願いしますぞ。」
「ええ。それでは、オセロ一番勝負と参りましょう。」
これは、完全な出来レース。
キツネ達が用意したオセロ盤には、キツネが勝てるように
イカサマが仕組まれていたのだ。
(くっくっくっく。すみませんねぇ、タヌキさん。
化かし合いはもう始まっているのですよ。)
終始、キツネリードで盤面が黒く染まっていく。
「おやおや。盤面が真っ黒に。オセロとは難しいものですなぁ。」
負けが見えてきそうな局面でも何一つ動じないタヌキ。
「おっと、次はわしの番ですな。えー、挟めるところは……。」
(くっくっくっく。次にそこへ置けば、タヌキさん。あなたの敗北ですよ。)
「ここじゃな。お〜、たくさんひっくり返せたぞ。これで五分かのぉ。」
「何をふざけたことを、そんなわけ……!?どうなっている!?」
オセロ盤の横に一匹のキツネが倒れている。
「どうなっているも何も、黒を白で挟んだだけですぞ、キツネさん。」
「タヌキ!貴様、何をしたぁ!」
「何をした?タヌキ聞きの悪い。それとも、キツネさんは何か心当たりでも?」
これは、完全な出来レース。
キツネ達が用意したオセロ盤は、山に入った時点でタヌキ達に抑えられ
運搬係のキツネはタヌキ達が化けた姿だったのだ。
「キツネさん。」
「くっ!なんですか、タヌキさん?」
「化かし合いは、とっくに始まっていたのですよ。」
「タヌキィィィィィィィィィィィイイイッッッ!」
ここから、全力の化かし合いオセロが始まった。
減らない手石。
入れ替わる黒と白。
盤面の上で増減する石。
一進一退の攻防は夜が明けても勝敗がつかなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ……やりますね、タヌキさん………!」
「キツネさんも、なかなかどうして……!」
「では、この一手で、勝敗を決めましょうか!」
「望むところ!」
一閃。
キツネが黒石を置いたと同時に、盤面が全て白くなる。
タヌキが勝利を確信した瞬間。オセロ盤がひっくり返る。
「なにぃ!」
「油断したな!タヌキさん!!この勝負もらったあああ!」
静寂。
一回転した盤面は黒と白、半々に分かれていた。
「引き……分け………?」
「その様ですな……。」
タヌキ、キツネ。両陣営が勝敗を確かめるように目を合わせる。
すると、誰からとなく笑い声が起きる。
「わっはっはっは。楽しい勝負でしたな、キツネさん。」
「くっくっくっく。ええ、今年は最高の勝負でした。」
引き分け。
数千年と渡って行われてきた、タヌキとキツネの化かし合い初の結果の前に
どちらも勝ち負けを忘れ、大いに笑い合う。
「では、キツネさん。この勝敗は来年に持ち越しということで。」
「ええ、よろしいですとも。来年こそ、我らキツネがこのオセロを制します。」
「またオセロですか。どうぞお手柔らかに。」
「くっくっくっく。まだその様なことを申される。
次も全力で挑ませていただきますよ。」
それからと言うもの、キツネとタヌキの間でオセロは大流行。
もし、あなたが山に入って葉っぱの山を見つけたら
それは、タヌキとキツネがオセロを遊んだ跡かも。
bow
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