マガジンのカバー画像

短編小説

17
ちょっと不思議な短編を集めました。
運営しているクリエイター

#小説

浜田広介「泣いた赤おに」(オマージュ短編)

浜田広介「泣いた赤おに」(オマージュ短編)

「ひろすけ童話」と呼ばれ、今もなお親しまれる、美しい童話の数々。
代表作「泣いた赤おに」の、続きの物語を書きました。

どのくらいの間、赤おには、そうしていたでありましょう。
朝つゆにぬれていた、やまゆりが、日ぐれのひかりにてらされました。
赤おには、ついに、とぼとぼと、がけの下のじぶんの家に、帰って行きました。

次の日も、その次の日も、村人たちは、赤おにの家に、やってきました。
赤おには、おい

もっとみる
【短編小説】公園の海に、ボートをうかべて 後編

【短編小説】公園の海に、ボートをうかべて 後編

数時間前の恭介には、今の自分が想像できただろうか?
見知らぬおじいさんと猫と一緒に、公園の小さな海原に、ボートで漕ぎ出しているなんて。

ボートは静かにゆっくりと進んでいき、やがて公園の端にある銀色のジャングルジムの下に着いた。
おじいさんはロープをすばやく結びつけると、ジャングルジムによじ登った。そして上から二段目のちょうど段になっていて座りやすい位置に、バランスをとって腰掛けた。

「お前さん

もっとみる
【短編小説】公園の海に、ボートをうかべて  中編

【短編小説】公園の海に、ボートをうかべて  中編

公園の中は「海」だった。

恭介は今までの人生で、こんなに驚いたことは無かった。
人間はあまり驚いたときはそのままのポーズで固まるようで、恭介は階段の最後の一段に足を駆けたまま静止していた。

すぐ向こうに見える住宅や道路は、いつもと何の変わりも無かった。公園の中だけが箱庭のように、小さな海になっていた。
大きさは池のようでもあったが、しかし海だった。その証拠に潮の香りがしたし、打ち寄せる波は、海

もっとみる
【短編小説】公園の海に、ボートをうかべて 前編 

【短編小説】公園の海に、ボートをうかべて 前編 

すぐ向こうに見える住宅や道路は、いつもと何の変わりも無かった。公園の中だけが箱庭のように、小さな海になっていた。
大きさは池のようでもあったが、しかし海だった。その証拠に潮の香りがしたし、打ち寄せる波は、海そのものだった。(本文より)

夜の住宅街はとても静かだ。

真冬のしんと空気の冷える日、星がいつもより美しくはっきりと見える夜は、特に静かに感じる。そんな夜にはいつもの見慣れた住宅街でも、見知

もっとみる
短編小説「銀河ステーション」後編《銀河鉄道の夜》オマージュ作品

短編小説「銀河ステーション」後編《銀河鉄道の夜》オマージュ作品

※宮沢賢治「銀河鉄道の夜」をオマージュし、賢治の文章を時折ちりばめて書いたものです。

『銀河ステーション、銀河ステーション…』

突然、暗い夜空に不思議な声が響き渡りました。

次の瞬間、賢一はあまりの眩しさに目が開けられなくなりました。
空はもう明るいなんてものではありません。まるでよく晴れた日の雪景色のように、しかしそれの何倍もの明るさで、辺り一面が真っ白になりました。

そして気が付くと、

もっとみる
短編小説「銀河ステーション」前編《銀河鉄道の夜》オマージュ作品

短編小説「銀河ステーション」前編《銀河鉄道の夜》オマージュ作品

※宮沢賢治「銀河鉄道の夜」をオマージュし、賢治の文章を時折ちりばめて書いた、短編小説です。

中学校の休み時間にクラスメートが言いました。

「賢一、お前今日の花火、来れるか?」

クラスの男子数名で、近所の公園で花火をやろう、と前々から計画していたのです。

「あ…うん、行かれれば。あっ行きたいんだけど…でももしかして母さんの仕事が…」

「やっぱ、どうせ来ないでしょ。まあ、一応言っとくけど、集

もっとみる
【連載小説】ぼくは、なつやすみの『すきま』に入った。(第5章)…最終章

【連載小説】ぼくは、なつやすみの『すきま』に入った。(第5章)…最終章

「まあ、ないもんはしょうがねえな。見つけりゃいいんだからさ」

一郎が何でもないことのように言ったので、僕は少し落ち着きを取り戻した。

「うん…でも…」

「一緒に探してやるからさ、とりあえずここ、片付けようぜ」

僕たちは秘密基地を片付け、火の始末をした。崖の入り口を木の枝や雑草で隠すと、すっかり元通りになり、ここに洞窟があるだなんて誰にも分からないだろうと思った。

「じゃ、探しながら行こう

もっとみる
【連載小説】ぼくは、なつやすみの『すきま』に入った。(第4章)

【連載小説】ぼくは、なつやすみの『すきま』に入った。(第4章)

「わあ…」

薄暗い洞窟にいきなり入ったので、最初は目が慣れなかったが、見えてくると僕は驚いた。

中は天井は低く、まっすぐには立てなかったが、思ったより広さはあり、子供なら五、六人くらいは入って遊べそうだ。
足元には古いゴザが敷いてあり、丸いテーブルもあった。奥には大きなカゴがあり、中には、缶詰めなどの食料、ハサミやナイフなどの道具やマッチ、小さな鍋や、少し欠けた古い食器などが無造作に放り込まれ

もっとみる
【連載小説】ぼくは、なつやすみの『すきま』に入った。 (第3章)

【連載小説】ぼくは、なつやすみの『すきま』に入った。 (第3章)

川の水は、さっきみたいに押し流されるような感触はない。ただ、足元だけひんやり寒い場所を歩いているみたいだった。
振り返ると、パパは網を構えたまま、夏乃はよろけた姿勢で止まっていた。足元の水しぶきも空中で固まっていて、細かな粒が小さなガラスの欠片のようで、きれいだった。

「こっち、こっち!」

少年が立ち入り禁止のロープをくぐり、滝壺の方に泳いでいった。
川は、しぶきは立たないが泳げるようだったの

もっとみる
【連載小説】ぼくは、なつやすみの『すきま』に入った。(第2章)

【連載小説】ぼくは、なつやすみの『すきま』に入った。(第2章)

「おにいちゃーん!!おにいちゃんってばーー!!」

そのとき、夏乃の声がして、浅い川をよろけながら登ってくる姿が見えた。

「ママが、おべんとうにするってーー!!」

僕は、お腹がペコペコなのに気がついた。
「じゃあその石、そこの岩の影に隠しておきな。弁当食ったら、またここで待ち合わせしようぜ。」
少年が言った。

「あ、魚!えっと、オイカワは?」
僕は、透明なケースに入ったきれいな魚に、顔を近づ

もっとみる
【連載小説】ぼくは、なつやすみの『すきま』に入った。 (第1章) ※「水の中の時計」から、改題しました。

【連載小説】ぼくは、なつやすみの『すきま』に入った。 (第1章) ※「水の中の時計」から、改題しました。

あらすじ
【川底に沈む石の力で、自分以外の人々の時が止まった。
夏休みに家族で川遊び、というありふれた一日。しかし五年生の冬里にとって、それは木陰のまだら模様の日差しとともに、キラキラとした忘れられない一日になった…】

「キラキラしてる川、久しぶりにみたなあ」

パパが、魚とりの網を振り回しながら、子供みたいな口ぶりで言った。

小学校五年生の夏休み、僕は家族で川遊びに来ていた。
家から車で二時

もっとみる
【短編小説】風をあつめる

【短編小説】風をあつめる



「僕、風をあつめてるの。」

 
仲の良かった小林君が僕に教えてくれたのは、小学四年生のときだった。

「えっ、カゼ?くしゃみとか出るやつ?」 

「違うよ、ひく風邪じゃなくて、吹く風。」

「えっ、でもさ、そんなもん、あつめられないでしょ」

「できるよ。あつめたの僕んちにいっぱいあるもん」

「うそだあ。」

「うそじゃないよ。じゃあ、見に来る?」

「うん。いくいく!」

 

次の日の

もっとみる
笑い袋(短編小説)/ 倉田そら

笑い袋(短編小説)/ 倉田そら


笑い 特価 590円

ある日、スーパーのすみっこに、こんなものが売られていました。

二年生の しょうた君がそれを見つけたのは、夕方のことです。お母さんと一緒に、お買い物に来ている時でした。

「笑い…って?」
 
それは、奥のほうの棚に、ぽつんと一つだけ置かれていました。

ごく普通の茶色い紙袋で、口の部分は二回ほど折り曲げられ、ホチキスで無造作に留められています。
袋には手作りの値札が貼っ

もっとみる
うすっぺらな街 【短編小説】

うすっぺらな街 【短編小説】

【駅のホームで出会った不思議な少年にいざなわれ、『俺』は冬の夜空へ飛び立った。

渋谷のスクランブル交差点、上空。俺は足元の光景に目を奪われていた。
多くの人が紙でできているかのように、厚みが無かった。

気付けば街の雑踏に混じって、ぺらんぺらんという音が辺りに響いていた。かさかさ、紙の擦れ合うような音も聞こえてくる。
その軽い音は、枯葉を踏んで歩く音に似ていた…】

***

俺は、まだ薄暗い駅

もっとみる