#超短編小説
【短編小説】桜の降る昼は
先週まであんなに満開だった桜は、もうかなり葉桜に変わってしまった。桜並木だった公園の一角は、夏に向かって準備しているように、太陽をさんさんと浴びていた。天気も良くて、正直暑い。桜の花びらの絨毯がそこかしこにあるけど、体が春と夏の間で困惑している。
声が聞こえたので目を向けると、花見をしそびれてしまった人たちが写真撮影をしている。かくいう自分も、そこに混ざりたいくらいだった。仕事が忙しくて、この公
【短編小説】ポニーテールを眺めるだけの夜があったっていいのに
頭のてっぺんに近いあたりで髪を結んでいる、華奢な体が目に入った。ポッキーみたいな足がショートパンツから生えている。
体の線とは裏腹に快活そうに、少女は親らしき男性と喋りながらアイスを選んでいた。羨ましいとまでは思わなかったけど、選べば誰かが買ってくれるのってすごいことだよな、と改めて感じる。
少女はこっちの視線にも気が付かず、一瞥もされなかった。父親(多分)との距離が近く、仲の良さそうな雰囲気
【短編小説】にじむ空
センチメンタルが襲ってくるから年度末は嫌いだ。
好きな人だけが課から居なくなって、嫌いな人だけが課に残ってしまった日の帰路、寄り道したくて知らない道路をうろうろしている。
あと一週間後の四月の自分が想像できなくて嫌になる。
落とし穴でもあって、気がついたらその穴に落ちてくれたらいいのに。
そう思いながら、にじんだ空を仰いだ。
おわり
【短編小説】この世に無駄な事なんてない
ラジオを聴いていると、「この世に無駄なことはない!」と聞こえてきた。
それを実感するためには自分の足で歩いていくしかないということを知っている僕は、心から絶望する。
希望のある言葉が嫌いだ。
目の前に、人参のように光をちらつかせて、いざ手を伸ばしたら、どうせすぐに消えてしまう。
誰も担保してくれないから、だから僕は、奈落で探している気分になるんだ。
誰か教えて欲しい。
この屹立する現実