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【短編小説】はしる

走るのが苦手だと言う人は多いが、私は大好きだ。小学生の頃、ヒエラルキーの上の方には足の速いやつがいた。つまり私だ。それが中学校高校と上がるごとに、どんどんとそのランクは下がっていき、頭の良いやつ、顔の良い人が、結局最終的には山頂に立っていた。旗を持っていたはずの右手は、いつのまにか空を握っていた。
私は見上げるしかない人生に落ち着いた。

足が速い事は良いことではある。別に普通に褒められるし、うらやましがられる。
しかし披露する場所が、圧倒的にないのだ。だから、結局1人でストレス発散をするだけにこの健脚は利用される。思春期の頃はやきもきしていたが、今はもうこれでいいと思っている。
昔から素直に好きだったのだ。風を横に仰ぐ感じ。どんどん息が荒くなっていく。呼吸が全身に混じり合って行く。身体中から自分のはっはっ、というリズムが踊り、一人の世界に没入する。悩んでいたことが次第に頭の中から消えていく。

走り終わった後の爽快感は格別だ。
だからまた今日も走る。

おわり

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