そらこ

何回か同人イベントに参加しているだけの一般人です。小説家になりたい。だいたいずっと何かから逃げてる。 BOOTHhttps://sososorako15.booth.pm/items/4328534

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最近の記事

【短編小説】くだらない軋み

自分が気にしすぎただけなんだろうか? 「ごめん、今日遅くなる」 さっき妻から来た連絡だった。たった1行のその文章が、自分を小さく包み込んで、突き放す。脱力感が体を襲う。どうでもよくなってしまう。今日が記念日だということも。リビングにある、丸い3人座れるテーブルには、今できたばかりのパスタがあった。ひき肉とトマト缶を買ってきて、ソースを作った。湯気が出ている。幸せの象徴みたいだった。今からこの湯気は、放置されて、ゆるゆると消えてなくなっていく。 今日は、お互い早く仕事を終

    • 【日記】いぬの瞳

      なんで犬の目って、ビー玉みたいに綺麗なんだろう。本当に不思議だ。 暗がりのなかでも、膜を張った表面が動くたびにきらきらと輝く。明るい場所だとさらにすごくて、たまに圧倒してしまう。 気分屋なので、正面からじーっと見せてくれる事はあんまりない。こっちが顔をずいっと寄せると、もう絶対に顔を背けられてしまう。 お腹が空いている時やおもちゃを投げてほしい時は例外で、そういう時は、大抵こっちの準備ができてない。本を読んでたり、スマホをいじってたり、食事してたら、とととーっとやってきて

      • 【日記】いぬのこと

        晴れた日の室内に一匹と一人でいると、この世界にふたりだけみたいになる。 少しいびつになったまあるいクッションの上で犬が足を揃えて座っている。わたしは床にじかに座って、その隣でぼんやり過ごす。 ふと犬の背中をなでてみると、さっきまであんなに触られたくなさそうだったのに、すんなりとわたしの手を受け入れてくれて、そのまま、ゆっくりとまばたきをする。 辛い日があるからいま幸せをより感じているのも、この時間が永遠じゃないことも、全部知ってるけど、今だけは分からないふりをしていたいと

        • 【短編小説】決めつけ

          感情移入されたくない時の、それなのにこちらの心に勝手に侵入されてしまったときの、あの不躾なくせに、心配そうにのぞいてくる表情が耐えられない。 「気に病んでないといいけどねえ」 先輩の声が聞こえて、またわたしの想いが勝手に抜き取られ、心配ですねと言われている。わたしは別に、気に病んでなんかいない。なにも感じていない。それなのに彼女たちは、「わたしが傷ついている」事を勝手に作り出して、自分たちの話の種にして、育てて愛でている。気色悪い。 わたしは元々、細くてもろい体をしてい

        マガジン

        • 短編小説
          54本
        • 日記
          8本
        • 4本
        • おしらせ
          5本

        記事

          【短編小説】散々だちくしょう

          3年日記を持っている。 同じ日付の中に3つ書き込めるエリアがあり、どんどん書き進めていくと2年前、3年前になにをしていたかがすぐにわかる日記だ。3年前の今日に、今まで日記なんて書いたことがなかったのに買ってみたのだった。 多分、恋人と付き合い始めたばかりでいろいろ思い出を残したかったのかもしれない。さらに言うと、デート中に購入したので、『ていねいな女』とか思われたかったのかもしれない。 案の定日記は続かなかった。 改めて開くと、1年目の一ヶ月間でびっしり埋まっていた文字が

          【短編小説】散々だちくしょう

          【日記】紀元前

          数日前までの、あの汗をつたう風のない太陽が嘘みたいな夕日! あんなに早く涼しくなってほしいって願っていたのにね。 夏も秋も地続きの世界で、あとどれくら過ごせるかなあと、健康なくせに怯えながら考えている。

          【日記】紀元前

          【短編小説】赤ちゃんとパン

          赤ちゃんの手とパンを並べて写真を撮る、というのを、一度はやってみたかった。 午前3時20分という、人によって朝なのか夜なのか、そんな秒針あったっけ?なのか、感覚がくるっと変わる時間。我が愛娘はやっとすんなり眠ってくれていた。夫は夜勤で、家には私と赤ちゃん、母と娘の二人しかいない。 半日前に夫がスーパーで購入してくれた「やさいパン」を、そっと取り出してくる。 そこまでは良かった。 シャッター音がしないカメラのアプリを起動して、娘の手の周りにやさいパンを並べていく。 そこで

          【短編小説】赤ちゃんとパン

          【短編小説】おいしそうな入道雲だったのに

          空を見上げて手を伸ばす。 届くわけがないと知っているのに、それでも指でつまんで、口にふくむ想像をした。 夏が終わってほしくなくて少しだけため息を吐く。耳の奥に遺る蝉の残響だけが、わたしの手を引いてくれるはずだった。 その残響の奥で、フジファブリックの「赤黄色の金木犀」が、ぬかるんで待ち構えている。 おわり

          【短編小説】おいしそうな入道雲だったのに

          【日記】決めつけるんじゃねえ

          誰かが亡くなった時、最後の言葉をみんな見に行くあの感じが割と耐えられない。SNSで、亡くなった報告だけが恐ろしい閲覧数を叩き出している。こう言いながら見に行ってしまう自分はもっと耐えられない。5分後くらいに一人でへこんでいる。 見に行くという行為自体が耐えられないというよりは、急にその人の気持ちを皆が勝手に想像しだす、それが、蹂躙されている感じがしてつらい。悲しんでいるだけの人はまだいい。 勝手に気持ちを想像して勝手に怒ったり暴走している人は、心から怖い。なんであんなにわ

          【日記】決めつけるんじゃねえ

          【短編小説】弱いとかじゃないよ

          「弱いとかじゃないよ」 ひとしきり私が話して、沈黙がバスの停留所のようにやってきた所で、堀田さんがそう呟いた。独り言のようにも聞こえたけど、私が黙って堀田さんを眺めているともう一度同じことを言われたので、やっと私に話しかけていた事に気がついたふりをする。 飼っていた金魚が死んだ。 私が昔々に地元の祭りの出店でとってきた金魚だった。 最初、朝起きて、いつも通り鉢の中を眺めようと横から見た。なにもいない、うすく汚れた水中だったのであれ、と思って近づいたら、水面にぷか、と浮

          【短編小説】弱いとかじゃないよ

          【短編小説】挨拶せえ

          個人の居酒屋だから、コンビニやスーパーよりもいい加減かもしれないと思いながら一週間前眺めた、入口のポスターを思い出す。あの時引き返していればと今警鐘を鳴らしても仕方なかった。 「まず、だれか入ってきたら口の端をぐっと上に上げる!で、いらっしゃいませエ!」 はい、と言ったつもりだったけれど、返事は?と聞かれたので腑に落ちないままもう一度はい、と言った。店主のさみしい頭が、きらきらと光っている。ちらほらとしている毛根から、地肌がのぞく。顔は思ったよりも、般若のようにはなってい

          【短編小説】挨拶せえ

          【短編小説】ころす

          「なにそれー」 太陽に照らされた入道雲がそびえたつ朝、ざわついた教室についた瞬間、昨日ガチャポンで取った、通学カバンにひっつけていたお気に入りのキーホルダーを指差された。 「かわいいでしょ」 私がそういうと、れ、の続きのまま、さゆ子が眉をひそめて、内緒話をするみたいにくっと近寄ってきた。にやにや。 「全然かわいくなーい」 その言葉に、会話に参加していなかったはずの、周りにいた数人が振り返ってきた。こちらを見ていないフリをして、キーホルダーを横目でみたそうにしている。

          【短編小説】ころす

          【短編小説】怒る優しさ

          あの二人は自分のことを喋っている、とすぐに気がついた。背中に緊張が走り、絶対に見つかってはいけなくなった。 エレベーターから事務所までの動線にある自販機。背が高い、小さな物だけを置くためのこじんまりしたテーブル。そのかたわらに先輩たちは立っていた。背の高い二人は、足が長い。とても。後ろ姿を見て自分は、何かに気圧されたように壁に隠れた。 「お前さあ、よくあんなに怒れるね」 a先輩が笑って、d先輩に話しかけている。 自分は最近、d先輩に怒られすぎて、会社に来るのが心から嫌

          【短編小説】怒る優しさ

          【短編小説】いつか思い出になるとか知らねえよ

          夢のなかみたいな夕日と、世界がこれから終わりますと言われたら納得してしまいそうな雲が迫ってきている。空が近い。どこかで見た気がする景色を、ずっと思い出せずに帰路につく。 海辺に住んでいると、よくいいなあ、と言われる。絶対大人になっていい思い出になるよって。 そんなこと知らねえよ。悪態をつきながら、毎日船に乗っている。自転車を押して、たいして便のない時刻表を横目に歩く。 Iターンが流行っているらしく、最近中途半端に都会から来た人間を見るようになった。何が面白くてこんなへん

          【短編小説】いつか思い出になるとか知らねえよ

          【短編小説】おーしまい

          「さな、死んだんだよ」 写真におさめたら白く光って色が飛んでしまいそうな空が、窓にうつっている。 カウンターの席しかない牧歌的な喫茶店に似合わない言葉だったので、私はまず、聞き間違えた、と思った。口を開いていた光代のほうを眺め直した。思ったよりも深刻な表情に確信して、身体が固まった。 「え」 「去年。事故で」 ひとつひとつ駒を置くみたいに、そっけなく光代が教えてくれた。 「知らなかったんだ」 光代にそう言われて、羞恥のような、怒りのような気持ちが、ふくふくっと張

          【短編小説】おーしまい

          【短編小説】お久しぶりです恋人さん

          手を繋ぎたいです、と急に言われて、最初は分からなかった身体が、首の付け根からぐぐぐーっと熱くなって反応する。 「なに、きゅうに」 自分でもどんな顔をしているかわからないまま聞くと、 「たまにはいいでしょ」 と表情を変えずに返された。 指をからめることなく、握手みたいにしっかりと手を繋ぐ。 そのまま土手沿いを歩くと、ちらほらとスーツ姿で自転車をこぐサラリーマンや、大きなスポーツバッグを持った学生たちとすれ違う。目は合わない。けど、意識されているような気配を感じる。

          【短編小説】お久しぶりです恋人さん