そらこ

何回か同人イベントに参加しているだけの一般人です。小説家になりたい。だいたいずっと何か…

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何回か同人イベントに参加しているだけの一般人です。小説家になりたい。だいたいずっと何かから逃げてる。 BOOTHhttps://sososorako15.booth.pm/items/4328534

最近の記事

【短編小説】赤ちゃんとパン

赤ちゃんの手とパンを並べて写真を撮る、というのを、一度はやってみたかった。 午前3時20分という、人によって朝なのか夜なのか、そんな秒針あったっけ?なのか、感覚がくるっと変わる時間。我が愛娘はやっとすんなり眠ってくれていた。夫は夜勤で、家には私と赤ちゃん、母と娘の二人しかいない。 半日前に夫がスーパーで購入してくれた「やさいパン」を、そっと取り出してくる。 そこまでは良かった。 シャッター音がしないカメラのアプリを起動して、娘の手の周りにやさいパンを並べていく。 そこで

    • 【短編小説】おいしそうな入道雲だったのに

      空を見上げて手を伸ばす。 届くわけがないと知っているのに、それでも指でつまんで、口にふくむ想像をした。 夏が終わってほしくなくて少しだけため息を吐く。耳の奥に遺る蝉の残響だけが、わたしの手を引いてくれるはずだった。 その残響の奥で、フジファブリックの「赤黄色の金木犀」が、ぬかるんで待ち構えている。 おわり

      • 【日記】決めつけるんじゃねえ

        誰かが亡くなった時、最後の言葉をみんな見に行くあの感じが割と耐えられない。SNSで、亡くなった報告だけが恐ろしい閲覧数を叩き出している。こう言いながら見に行ってしまう自分はもっと耐えられない。5分後くらいに一人でへこんでいる。 見に行くという行為自体が耐えられないというよりは、急にその人の気持ちを皆が勝手に想像しだす、それが、蹂躙されている感じがしてつらい。悲しんでいるだけの人はまだいい。 勝手に気持ちを想像して勝手に怒ったり暴走している人は、心から怖い。なんであんなにわ

        • 【短編小説】弱いとかじゃないよ

          「弱いとかじゃないよ」 ひとしきり私が話して、沈黙がバスの停留所のようにやってきた所で、堀田さんがそう呟いた。独り言のようにも聞こえたけど、私が黙って堀田さんを眺めているともう一度同じことを言われたので、やっと私に話しかけていた事に気がついたふりをする。 飼っていた金魚が死んだ。 私が昔々に地元の祭りの出店でとってきた金魚だった。 最初、朝起きて、いつも通り鉢の中を眺めようと横から見た。なにもいない、うすく汚れた水中だったのであれ、と思って近づいたら、水面にぷか、と浮

        【短編小説】赤ちゃんとパン

        マガジン

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          【短編小説】挨拶せえ

          個人の居酒屋だから、コンビニやスーパーよりもいい加減かもしれないと思いながら一週間前眺めた、入口のポスターを思い出す。あの時引き返していればと今警鐘を鳴らしても仕方なかった。 「まず、だれか入ってきたら口の端をぐっと上に上げる!で、いらっしゃいませエ!」 はい、と言ったつもりだったけれど、返事は?と聞かれたので腑に落ちないままもう一度はい、と言った。店主のさみしい頭が、きらきらと光っている。ちらほらとしている毛根から、地肌がのぞく。顔は思ったよりも、般若のようにはなってい

          【短編小説】挨拶せえ

          【短編小説】ころす

          「なにそれー」 太陽に照らされた入道雲がそびえたつ朝、ざわついた教室についた瞬間、昨日ガチャポンで取った、通学カバンにひっつけていたお気に入りのキーホルダーを指差された。 「かわいいでしょ」 私がそういうと、れ、の続きのまま、さゆ子が眉をひそめて、内緒話をするみたいにくっと近寄ってきた。にやにや。 「全然かわいくなーい」 その言葉に、会話に参加していなかったはずの、周りにいた数人が振り返ってきた。こちらを見ていないフリをして、キーホルダーを横目でみたそうにしている。

          【短編小説】ころす

          【短編小説】怒る優しさ

          あの二人は自分のことを喋っている、とすぐに気がついた。背中に緊張が走り、絶対に見つかってはいけなくなった。 エレベーターから事務所までの動線にある自販機。背が高い、小さな物だけを置くためのこじんまりしたテーブル。そのかたわらに先輩たちは立っていた。背の高い二人は、足が長い。とても。後ろ姿を見て自分は、何かに気圧されたように壁に隠れた。 「お前さあ、よくあんなに怒れるね」 a先輩が笑って、d先輩に話しかけている。 自分は最近、d先輩に怒られすぎて、会社に来るのが心から嫌

          【短編小説】怒る優しさ

          【短編小説】いつか思い出になるとか知らねえよ

          夢のなかみたいな夕日と、世界がこれから終わりますと言われたら納得してしまいそうな雲が迫ってきている。空が近い。どこかで見た気がする景色を、ずっと思い出せずに帰路につく。 海辺に住んでいると、よくいいなあ、と言われる。絶対大人になっていい思い出になるよって。 そんなこと知らねえよ。悪態をつきながら、毎日船に乗っている。自転車を押して、たいして便のない時刻表を横目に歩く。 Iターンが流行っているらしく、最近中途半端に都会から来た人間を見るようになった。何が面白くてこんなへん

          【短編小説】いつか思い出になるとか知らねえよ

          【短編小説】おーしまい

          「さな、死んだんだよ」 写真におさめたら白く光って色が飛んでしまいそうな空が、窓にうつっている。 カウンターの席しかない牧歌的な喫茶店に似合わない言葉だったので、私はまず、聞き間違えた、と思った。口を開いていた光代のほうを眺め直した。思ったよりも深刻な表情に確信して、身体が固まった。 「え」 「去年。事故で」 ひとつひとつ駒を置くみたいに、そっけなく光代が教えてくれた。 「知らなかったんだ」 光代にそう言われて、羞恥のような、怒りのような気持ちが、ふくふくっと張

          【短編小説】おーしまい

          【短編小説】お久しぶりです恋人さん

          手を繋ぎたいです、と急に言われて、最初は分からなかった身体が、首の付け根からぐぐぐーっと熱くなって反応する。 「なに、きゅうに」 自分でもどんな顔をしているかわからないまま聞くと、 「たまにはいいでしょ」 と表情を変えずに返された。 指をからめることなく、握手みたいにしっかりと手を繋ぐ。 そのまま土手沿いを歩くと、ちらほらとスーツ姿で自転車をこぐサラリーマンや、大きなスポーツバッグを持った学生たちとすれ違う。目は合わない。けど、意識されているような気配を感じる。

          【短編小説】お久しぶりです恋人さん

          【短編小説】のぞく

          目に入ったのは本当にたまたまだった。電車で偶然隣だった初老の男性が、スマホを開いていた。車両が全部埋まるくらいの混み具合だったので、肩が触れるのは仕方のないことだ。むしろ座ることができない混み具合のなか、こうして席に座ることができたのはありがたいくらいだった。 メモ帳らしきアプリに入れている文字を、改めて打つでもなく、男性は眺めていた。自分は背もたれにしっかりもたれて、男性はスマホを胸の前に置いて眺めていたので、自然と見えてしまった。その画面を見て、あ、と口を開けてしまった

          【短編小説】のぞく

          【短編小説】指先が眠る街

          ニトリで買った、あの時は確かにおしゃれだと思っていた壁掛け時計を見上げる。秒針がカチ、と無機質な音を立てて動いていた。 眠りたくて仕方がない。それなのに、目を瞑ってもう、何時間も経っている。明日はいつもより早くから出掛けないと行けなくて、そのせいで寝付けないのは分かりきっていた。いっそ徹夜をと思ったけど、正直、一日耐えられそうにない。夕方…いや、昼過ぎには意識を失う予感がする。おじさんなんて、すぐ眠くなる生き物なんだから。そこに「徹夜」が複合されたら、もう起きている方が不思

          【短編小説】指先が眠る街

          【短編小説】まだそこにいてね

          「みゆきちゃんはすごいね」 ゆうりに、手に入らない宝石を見つめるような瞳を向けられて、私は謙遜した。 「そんなことないよ。いつも周りに着いていくのに必死で」 「ついていっている時点ですごいよお」 ゆうりはいつも褒めてくれる。学生時代から、子役として活動している私を誇りに思って、いつも励ましてくれる。ただ、学校が一緒だっただけのゆうり。席が隣だっただけのゆうり。ゆうりのおかげで私は、特別でいられる。だから私はゆうりが大好きだ。 久しぶりに会ったカフェの中で私たちは向か

          【短編小説】まだそこにいてね

          【短編小説】翼をくれよ

          ピアノの旋律が美しくはじまりを奏でる。 興味がなくて半開きのままの目をなんとか閉じないように気をつけながら、口を開く。 「今私の願い事が叶うならば、翼が欲しい…」 歌に乗せると無くなる違和感は、文字で考えると、やけにわがままに、俺には映る。 この歌がどんな風に作られたのかなんて知らない。だからこんな風に残酷に思えるのかもしれないけど、だからって誰かに責められたとしてもそこには何の責任も伴わない、と思う。 この歌の主人公は、やけに利己的だなあとずっと考えていた。 富

          【短編小説】翼をくれよ

          【短編小説】「無理しないでね」という言葉の難しさ

          「まあ、無理せず」 課長からそう肩を叩かれた。窓の外は真っ暗になってもうしばらく経つ。 とりあえず、ありがとうございます、と返事をしたけど、無理ってなんだよと口内で悪態をついた。 パワハラなんてされたことも無く、評判も良い課長なので、別に心から嫌がっているわけじゃない。課長自身もこの部署に赴任してきたばかりで、たまに自分の方が『先輩』とからかわれるくらいだった。そんなこと知らねえよ、という先方からの連絡にも誠実に返事をしている。すごいと素直に思う。 無理しないって、ど

          【短編小説】「無理しないでね」という言葉の難しさ

          【短編小説】桜の降る昼は

          先週まであんなに満開だった桜は、もうかなり葉桜に変わってしまった。桜並木だった公園の一角は、夏に向かって準備しているように、太陽をさんさんと浴びていた。天気も良くて、正直暑い。桜の花びらの絨毯がそこかしこにあるけど、体が春と夏の間で困惑している。 声が聞こえたので目を向けると、花見をしそびれてしまった人たちが写真撮影をしている。かくいう自分も、そこに混ざりたいくらいだった。仕事が忙しくて、この公園にきたのは久しぶりだった。 あいにく、3才になったばかりの娘にスマホを奪われ

          【短編小説】桜の降る昼は