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【短編小説】散々だちくしょう


3年日記を持っている。
同じ日付の中に3つ書き込めるエリアがあり、どんどん書き進めていくと2年前、3年前になにをしていたかがすぐにわかる日記だ。3年前の今日に、今まで日記なんて書いたことがなかったのに買ってみたのだった。

多分、恋人と付き合い始めたばかりでいろいろ思い出を残したかったのかもしれない。さらに言うと、デート中に購入したので、『ていねいな女』とか思われたかったのかもしれない。

案の定日記は続かなかった。
改めて開くと、1年目の一ヶ月間でびっしり埋まっていた文字がどんどん減っていき、最後は一言になり、それがしばらく続いて、1年目の8月あたりでしっかりと空白になっていた。

と、思っていたら、2年目の10月8日に、ひとことだけ記されていた。

『散々だちくしょう』

見た瞬間にわあ、と言っていた。別れた日だ。これだけは、という怨念を感じで、一人で笑ってしまった。夕日が綺麗な日に、びっくりするくらいあっさり別れたんだよな。なつかしい。
なつかしい、と思えるだけ、今はまだマシかもしれない。指輪があったはずの薬指を静かになでた。なにもない指先を蛇行する。

日記に挟まっていた、買った時のレシートを眺める。目を細める。これからまた寂しい季節になっちゃうけど、ここから相手を探す元気はない。仕方ないから、ぼーっと見てるだけのYouTuberの、クリスマスにあるっていってたイベントでも参加してやろうかな。そうしてゴミ箱に日記を捨てた。

めくれて見えたページは、ぜんぶまっしろだった。


おわり


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