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『N響』演奏会撮影の舞台裏に潜入

ソニー広報部のRTです。皆さんは、NHK交響楽団(N響)がYouTubeでコンサートの模様を配信されているのをご存じでしょうか。最近では大河ドラマのテーマソングを取り上げたコンサートも配信され、多くの人を魅了しています。

実は、N響のコンサート撮影にソニーのカメラ、Cinema Lineが活躍しているのです。今日は撮影の舞台裏に迫ります!N響の演奏会撮影を手掛けるAMANEQ株式会社様にもお話を伺いましたので、最後までお付き合いください。


コンサートの撮影とは

ストリーミング配信、アーカイブ配信、記録用などの目的にあわせて、撮影に適したカメラや収音マイクを綿密にセットアップします。有人無人の固定カメラをどのように配置するのかが重要で、協奏曲や交響曲、室内楽など、編成によって撮影の体制が変わります

ここからは2023年10月と2024年3月に横浜みなとみらいホール・大ホールで開催された「N響オーチャード定期」の撮影プランを元にご説明していきます。

ステージ上のカメラ配置の例をあげると…

独奏楽器とオーケストラが共演する協奏曲(コンチェルト)の場合、ソリストの表情、手元をしっかりと狙うアングルがポイントになります。

ピアニストの手元と表情をいくつものアングルでおさえます。

独奏楽器がない交響曲(シンフォニー)は、指揮者と代表的なソリストパートを演奏するプレイヤーをしっかりおさえます。

金管・木管奏者、指揮者、コンサートマスターをしっかり。

観客席からも、数台のカメラでステージをおさえます。
曲の流れや演奏の迫力を、映像を通じて表現するため、1曲ごとに入念なカット割りが準備されていて、そのカット割を各カメラオペレーターが台本として使うのもコンサート撮影の特徴です。

インカムで連携もしながら、タブレットに表示したカット割(台本)通りに撮影をすすめます。

貴重なカット割りを公開

カット割は、NHK交響楽団の芸術主幹・西川彰一氏が作成。貴重な資料を特別に見せていただきました!

一曲を通して、どのカメラで何を撮影するのか、秒単位で事前に決められます。FS=フルショット、Cond=指揮者、TGS=タイトグループショットなどの略語も、クラシック愛好家にはたまりません。ブラームス/大学祝典序曲 ハ短調作品80。

新たなチャレンジ

2023年10月と2024年3月の「N響オーチャード定期」では、合計9台のCinema Lineのうち2台、フルサイズセンサー搭載のレンズ交換式旋回型カメラ「FR7」を導入。PTZ(パン・チルト・ズーム)機能で、シネマのような印象的で高品位な映像表現がリモート操作で可能なカメラです。

実際のカメラ配置図。ステージ上の1&5camが、リモート操作のFR7です。

2023年10月「N響オーチャード定期」ベートーベン/ピアノ協奏曲第5番変ホ長調作品73「皇帝」のカメラ配置図

1cam FR7+E PZ 18-110mm F4 G OSS(リモート、ステージ左)
最広角18ミリで金管最後尾~チェロ2プルト目まで、最望遠で指揮者をクロースアップします。

以下8台のカメラも、広角から望遠まで、事前に考え抜かれた構図を撮影するためのセットアップです。

2cam FX3 + FE 70-300mm F4.5-5.6 G OSS(有人、2階スタンド)
3cam
FX30 + E PZ 18-110mm F4 G OSS(有人、1階正面)
4cam
FX30 + E PZ 18-110mm F4 G OSS(有人、1階右)
5cam
FR7+E PZ 18-110mm F4 G OSS(リモート、ステージ右)
6cam
FX3 + FE PZ 28-135mm F4 G OSS(無人、ステージ中央)
7cam
FX3 + FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS(無人、ステージ右袖)
8cam
FX3 + FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS(有人、1階正面)
9cam FX30 + FE 24-70mm F2.8 GM II(無人、2階スタンド)

6cam:オーボエ首席とフルート首席の間から、FX3が指揮者の表情を捉えます。「NHK Symphony Orchestra」の文字がある楽譜台紙を目の前に感無量なのは、クラシックファンの筆者です。

準備は入念に

すべてのカメラを同時にチューニングする様子は圧巻です。撮影デビューのFR7は、設計担当が直に調整。笑みがうかんでいます。
ステージに椅子が並べられる前から、FR7はスタンバイ。

音出しもはじまる中、FR7もリハを継続します。

本番直前のオペレーションデスクの一角。「FR7」2台をリモート操作する準備が整いました。

そして本番

N響西川氏のディレクションで撮影が進行。
各カメラマンは、担当カットの数秒前に構図をびしっと決めて構えます。カット割のタイミングは西川氏が指示し、AMANEQ株式会社代表の渡部玲氏が統括ディレクターとして映像をスイッチングしていきます。

ここで、2024年3月2日に行われた第127回「N響オーチャード定期」から「ブラームス/ハンガリー舞曲 第5番」のスイッチングの様子をご覧いただきましょう。とても緊張感ある現場です!

AMANEQの渡部さまにお話を伺いました!

NHK交響楽団の撮影を担うAMANEQ社は、個人や企業のプロモーションからコンサート撮影のほかイベント運営まで、映像制作を中心に様々なコンテンツ制作を行っている会社です。AMANEQ株式会社

Q:手がけられている事業やこれまでのご経歴について教えてください。

直近は、オーケストラやクラシックのコンサート撮影を行うことが多いです。NHK交響楽団のほか、ショパン国際ピアノコンクールで日本人として半世紀ぶりに第2位に輝いた反田恭平氏が率いるジャパン・ナショナル・オーケストラのコンサート撮影や、海外制作のドキュメンタリーにカメラマンとして参加もしています。独立後にソニー・イメージング・プロサポートに入会し、現在はFX6、FX3、α7R Vをメインに使用。社員は現在私一人ですが、コンサート撮影などでは多くのスタッフを必要とするので、現場経験豊富なカメラマンらにお声がけし、チーム一丸となって臨んでいます。

2023年6月まで18年間、NHKに在籍しました。主に音楽・エンタテインメント番組のディレクターとして、ライブドキュメンタリーや、「ららら♪クラシック」「うたコン」「有田Pおもてなす」などの番組を演出。「紅白歌合戦」や「ライブ・エール」などの大型番組では、現場でアーティスト、演奏者、指揮者、アレンジャーの間に入り、音楽ディレクションを担いました。これまでの番組制作の経験を活かし、またユーザー視点に立ったコンテンツ制作をしていきたいという思いからAMANEQを創業しました。

ライフワークとして、水中撮影やシネマティックな映像作品の制作、ドローン撮影でも国家資格を取得(二等無人航空機操縦士)するなど約20年の撮影経験。去年春には大学院を修了(芸術学修士)し、バイタリティあふれる渡部さん。

Q:なぜオーケストラの撮影にCinema Lineを使われているのでしょうか。

オーケストラや室内楽などクラシックのコンサートでは、奏者がステージ上を激しく動き回らず、同じ位置でパフォーマンスを行うので被写体をしっかり捉え、被写界深度を活かしたシネマティックな映像表現はとても相性が良いと思います。弊社ではFX6、FX3、FX30などを中心にしたCinema Lineの構成でオーケストラや室内楽のコンサート撮影を行っています。

カメラやレンズの組み合わせ・配置は、毎回熟考します。客席のカメラは、主にFX3とFX30を使用。また、APS-CサイズのCMOSセンサーを持つFX30は、フルサイズと比べて撮影距離を稼げるため、アップを抜くカメラには積極的にFX30を使っています。FX6は、LANC端子なども備わっていて、できることが多々あるので長所を活かして積極的に使っていきたいカメラです。

ピアニストのすぐ近くで構える6cam(無人、ステージ中央)について、ステージマネージャーと相談しながらミリ単位で位置を探る渡部さん。

Q:FR7を使ってみたいと思われたきっかけを教えてください。

ステージに設置するカメラを検討する中で、たどりつきました。
欧米のオーケストラのコンサート撮影ではカメラマンがステージに上がって操作することも多いのですが、演奏者の皆さんに余計なストレスは与えたくないですし、日本ではあまりありません。
PTZカメラで撮影することも考えましたが、通常のものでは、FX3やFX30とは映像の質感が大きく異なります。そんな中でFR7の存在を知り、早速導入することにしました。全てのカメラをCinema Lineで統一したかったというのも大きいです。

FR7開発チームが渡部さんに操作のポイントを伝達

Q:FR7をつかって、良かったと感じた点はありますか。

たくさんありますが、ひとつは、FR7で撮影したい構図をWEBアプリにあらかじめ登録できること。N響の撮影はカット割をもとにスイッチングしていくのですが、舞台の上手と下手に設置した2台のFR7の出番が多く、スイッチング後、次の絵に向けて次々に準備をしなければなりません。
本番でサイズを探っていては間に合わないので、本番前にN響とサイズを確認しながらポジションを保存できたのは非常に良かったです。また、パンやチルト、ズームの操作の出だしがカクンとせず、粘り気のあるオペレーションができ、クオリティの高いカメラワークができました。

リモートコントローラー「RM-IP500」とタブレットを遠隔操作用に使用。黄色枠で囲んだ箇所は、事前にプリセットした構図。タブレット上でタッチ選択をすると、その構図に次々に変更できます。

Q:”ここを見てほしい”というシーンを教えてください。

意外かもしれませんが、お気に入りのカットは“演奏後”のシーンです。
全ての演奏が終わった後に、指揮者や演奏者の皆さんが観客の拍手や歓声に応えるカーテンコールというものがあります。指揮者の尾高忠明さんが指揮台ではなくオーケストラの真ん中あたりに立たれて、素晴らしい演奏をした団員の皆さんを称えていくシーン。指揮者がオケの中に入り込み、グッと距離が近くなる瞬間ですが、手前のコントラバスが前ボケしていることで、センターの尾高さんや周りの奏者の存在感が引き立っています

指揮者の尾高忠明氏のカーテンコール。コントラバスの存在が、人物をぐっと引き立てます。
団員をひとりずつ称えていきます。会場は拍手でいっぱいに。

オーケストラのコンサートを撮影するにあたり、一つのドキュメントとして記録することをいつも意識しています。演奏者が舞台袖から登場し、チューニング、演奏、アンコール、カーテンコール、そして退場。ここまでの全ての一連のアクションがまさにドキュメントです。そうした映像表現をする上でCinema Lineなどセンサーサイズの大きいカメラ、そしてステージで起こる出来事を的確に捉えられるFR7は、私にとって非常に心強い仲間といえます。

ソニーの担当からもひと言

ソニー株式会社の佐々木さんは、世界各国の映像制作のプロフェッショナルの方々に対して、Cinema Line/CineAltaなどの映画を撮影するカメラを使っていただくための施策推進やサポートを担っています。今回のプロジェクトについての想いを伺いました。

Cinema LineやCineAltaは、映画の現場を中心に広く活用が進み、シネマならではの描写力や現場での使いやすさ、機能性を多くのプロの映像制作者にご愛用いただいています。

今回、FR7をはじめとするCinema Lineのシリーズをコンサート会場での撮影で使っていただき、非常に興奮しました。コンサート撮影ならではの特性から難しい面も多くありましたが、ソニーのシネマカメラが映す映像で、N響ファンの皆さまに新しい感動をお届けできたと思います。現場で私が一番感動しました。渡部さん、N響の西川さん、ご関係の皆さま、ありがとうございました!!

佐々木 堅志さん(ソニー株式会社)

渡部さん厳選 Cinema Lineが描く珠玉の瞬間(YouTubeから)

第一バイオリンの一糸乱れぬ弓のうごき、奏者の表情も、シネマティックに捉えます。
まるでコントラバス奏者として演奏に参加しているかのような臨場感。
ピアニスト レイフ・オヴェ・アンスネス氏の表情をFX3が正面から捉えます。映画の1シーンのようです。
金管の美しさは、音色だけではありません。
ホールいっぱいに広がるオーケストラの音色が、この一枚からも聞こえてくるようです。

編集後記

コンサートの醍醐味は、その瞬間の音色をホール一体となって楽しむこと。加えて今の時代には、YouTubeでもその臨場感をたっぷり味わうことができます。奏者間のアインザッツや指揮者の表情、弦楽器のボウイングなど、振り返って聴いたり見たりできるのも配信の素晴らしい点ですね。

ソニーのカメラが、プロフェッショナルの皆さまとともに「感動を創り、多くの方に届ける」という重要な役割を果たしていることに、感銘を受けた1日でした。
ソニーはこれからも、クリエイターの皆さまとともに感動を創り出していきます!

3階席からみる、宴が始まる前のコンサートホール。荘厳なパイプオルガン”Lucy”が凛とした空間をみまもっているようで、気持ちが澄む想いがしました。ステージ上に、FR7が2台あることも確認できます。
執筆:広報部RT
「ピアノとチェロ、クラシックギターを趣味で弾きます。コンサートの直前、オーボエ首席に続いて、ふわーっと音色が広がっていくチューニングの時間は気分が最高にあがります♪」