「我々は消費者だ。ライフ・スタイルに仕える奴隷だ」

2023年7月4日 17:43

ナッジについて、Wikiにはこう書いてある。

ナッジは行動科学の一概念。人々の行動や意思決定に影響を与える。陽性強化と諷喩。

小難しい言葉で嫌だね。

陽性強化：褒めたり褒美を与えたりして、ある行動をさせること。
諷喩：それとなく導くこと。

行動経済学者セイラー氏と法学者サンスティーン氏が広めた概念だ。

ナッジ・ユニットは世界中に存在する。

環境省による説明（PDF資料）の一部 ↓

生活とは選択の連続である。

松：竹：梅は２：５：３の割合で購入されるという。安すぎることも高すぎことも嫌がる、極端性を回避したいという心理からだ。

これは、ゴルディロックス効果とも呼ばれている。

英国童話『ゴルディロックスと3匹のくま』。ゴルディロックスちゃんは、くまさんのお家で、熱すぎず冷たすぎないスープを飲む。

これをさらに操作的にすると。デコイ効果（おとり効果）になる。

ある物やサービスの売れゆきが悪い時。わざと質の悪いものを用意して付近に並べると。前より売れるようになる。

その他

階段が使われるように、わざと見つかりにくい場所に設置されたエレベーター。

誘導したい先へ向かって床に描かれた、足跡マーク。

「〇名がこの宿を予約しました」という、真偽不明の表示。

損失回避の感情を起こさせるために商品を一旦入れさせる、仮想ショッピング・カート。

キリがないため、このくらいにしておくが。世の中は、右も左もナッジだらけだ。

効果にはそれぞれ名前がつけられ、小分類は数えきれない程ある。つまり、一部学者も大いに加担している。本人たちに悪気はない。そのくらいの人らは、そこまで深く考えていない。

ナッジはそんなに悪いものではない。ナッジは悪いものであってはならない。“みんな” 口をそろえて、そう言う。

企業による使用はもちろんのこと、政府やWHOなどの組織も。行動変容の方法としてナッジを推奨している。

ナッジへの投資も莫大である。

ナッジの “勝利” を示すために、結果は選別されている。

ナッジが「効かないこと」を見い出した研究は、注目されない。

注目されないから、そもそも研究されないし。注目されないから、発表もされないのである。（これは出版バイアス）

それでも。一部の学者たちは、ナッジの有効性を真剣に疑問視してきた。ナッジングの「正しくなさ」について、今までコメントしてきた。

それらは、ほとんど無視され続けている。

一般大衆は、ナッジのことをこう思っている。酒を飲む量を減らそうとするだとか、ささいなことだろうと。

ナッジの暗黒面について、大して考えていない。

ナッジングがターゲットにしているのは、私たちの無意識に近い決断だ。コントロールの難しい本能や衝動の類だ。

企業は、わずかなコストで・人々に気づかれず・いとも簡単に、私たちの選択に影響を与えることができると。そう確信している。

そして、こう言い添える。「これは君たちのためにも良いことなんだよ」

このような商品を、おもしろグッズや便利グッズと呼んで歓迎してあげたい気持ちは、なくはないのだが。もっと言うと。自ら進んで盲目になりきることは、いくらでもできるのだが。

はたして、これらは、本当に必要な物なのだろうか。物やサービスが売れるということは、本当に素晴らしいことなのだろうか。

ナッジ理論の生みの親として、セイラー博士はノーベル経済学賞を受賞した。メディアからは大賛辞がおくられた。

ナッジに賞を与えるということは、「ナッジは優れたものである」と、世間にナッジングしたようなものだ。と私は思う。

セイラー氏の研究は、「人間は合理的な生き物ではない」という考えを軸に、展開されている。同じく人間であるナッジャーたちが、そんな私たちを代わりに導いてくれるそうだ。

なんとも、滑稽な話である。

ハンナ・アーレントの墓にでも行き、ナッジ理論にノーベル経済学賞が与えられたとささやけば、さぞ嘆くことだろう。

そういうことを繰り返してると、自分が選挙で誰に投票したいのかもわからなくなるのよ！とでも聞こえてきそうだ。