外国人技能実習制度改正に向けた最終報告書を読む【1】
もう何年だろうか。外国人技能実習生を取り巻く厳しい環境が取り沙汰されてから長い月日が経っている。そうした中、漸くといったところで国が重い腰を上げ、外国人技能実習制度改正に向けた取り組みを進めている現状に心から喜びの声を上げたい。
地方自治体の中には、地場の中小企業の声を受けて、今般の外国人技能実習制度の改正に否定的な声を上げている自治体もあるようだが、大元を正せば、そうした地場の中小企業によって外国人技能実習生の人権が踏みにじられてきた結果の改正である。
直近の令和4年の監督指導・送検の概要だけを見ても7割近い事業場において、法令違反が発生している状況である。重大・悪質な労働基準関係法令違反による送検がないと書かれているが、そもそも送検されるほどの事例とは死傷者が出るケース及びそれに近いケースである。
法令違反において多く見られた内容が使用機械等の安全基準や労働時間である以上、死傷者が出ていないのが奇跡と言って良く、本来は技能の実習に訪れている”労働者ではない”立場の外国人達にとんでもない労苦を強いている事実は揺るぎようがない。
そんな外国人技能実習生の人権を軽んじてきた企業群が、外国人技能実習制度の改正に反対する資格を持つかは甚だ疑問であるだけでなく、そもそもそうした企業群による外国人技能実習生の取り扱いは禁止するのが、本来在るべき形であろう。
今般の外国人技能実習制度の改正に否定的な声を上げている自治体についても、そもそも法令違反や人権侵害があったからこその改正である点を十重に承知し、それでも尚、改正に反対するかを今一度再考して欲しい。
現状を踏まえれば、外国人技能実習制度の改正に反対することは、無法者であった企業群を擁護するに等しく、自治体として到底許容される言動ではないと言わざるを得ない。
技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議 -最終報告書- を読む
最終的な法制度がどのような形で決着するかは分からない。しかしながら、その方向性は示されている。外国人技能実習制度の改正について、その方向性を知るには、いわゆる最終報告書を確認するのが良い。
https://www.moj.go.jp/isa/content/001407013.pdf
今回は、最終報告書の第1章と第2章を読んでいこうと思う。今後、何回かに分けて、大枠を知っていければ良いと考えている。
第1章 はじめに
多くの報告書がそうであるように、第1章では、本報告書に関する経緯がまとめられている。
制度改正については、法律に基づいて検討する時期に入ったことから実施されていること、そのための有識者会議が組成されている点が簡潔に書かれている。また、会議体が、どのような位置付けになっているか説明されており、本議論の責任主体が明確化されている。この文章の後、経緯として本最終報告書の前に中間報告がなされている旨が書かれている。
本報告書が提出されるまでに、計16回の議論及び計28回の関係者ヒアリングがなされた報告をしている。つまり、決して少ないステークホルダー間のみで議論されたものでなく、ある程度ヒアリングを重ねた上でまとめられた旨が伝えられている。
第2章 見直しに当たっての基本的な考え方
第2章では、技能実習制度及び特定技能制度の見直しにあたって、どのような考え方を基本としたのか、大きく以下の3点に分けて簡潔に説明されている。
見直しに当たっての三つの視点(ビジョン)
見直しの四つの方向性
留意事項
なお、それぞれについても2〜4点ほどに細分化された説明が付されている。
1.見直しに当たっての三つの視点(ビジョン)
前提として、とりわけ地方や中小零細企業を中心とした人手不足の深刻化があり、外国人が経済社会の担い手になっている現状が説明されている。恐らく本指摘に異論を唱える者は少ないと思われる。都市部のコンビニですら日本人では回せなくなっている。それ程までに高齢化が進んだ日本において、”人手”の確保が難しくなっている。
※あくまで低賃金・低待遇企業の話であり、高賃金・好待遇を出せればいくらでも確保は可能である
そうした環境がある一方で、現行の技能実習制度においては、①人材育成等の観点で転籍不可、②監理団体による監理・支援が不十分、となっており、それらを背景・原因とした人権侵害や法違反が指摘されている。つまり、今回の見直しの基本において、その根底には、やはり外国人技能実習生に対する人権侵害、監理における法違反の問題がある点が見える。
そうした点を踏まえて、①人権保護及び労働者としての権利性の向上、②キャリアップの分かりやすい仕組み作り、③共生社会の実現に資する、これら3点を基本として、見直しを実施する旨が説明されている。特筆すべきは、①で記載されている”労働者としての権利性”であろう。
これまで技能実習生という曖昧な位置付けであったが、事ここに至って漸く、外国人技能実習生は労働者であると指摘されたのである。つまり、労働関連法令の適用対象となる存在だと言われているようなものである。この点は、大いなる前進だと思われる。
2.見直しの四つの方向性
技能実習制度及び特定技能制度の在り方について、
技能実習制度を人材確保・人材育成を目的とした制度にするなど実態に即した見直しとする
キャリアパスを明確化して新制度から特定技能制度への円滑な移行を図る
人権保護の観点から一定要件下で本人意向転籍を認め、監理団体・登録支援機関・受け入れ機関の要件厳格化及び関係機関の役割明確化措置を講じる
日本語能力の段階的向上に資する仕組みを設けるなど受け入れ環境整備の取り組みと相俟って外国人との共生社会実現を目指す
上記4点が掲げられている。内容に鑑みて、現状の問題解決を主眼に置きながら、より前進させる非常に好ましい方向性が打ち出されているように思われる。少なくとも、これまで外国人技能実習生をぞんざいに扱ってきた企業側の声を踏まえた反対を自治体がして良いような内容ではないと思われる。
3.留意事項
見直しについては、留意事項が添えられている。
現行制度利用者等への配慮
地方や中小零細企業への配慮
つまり、見直しによって無用な混乱や問題を生じさせたり、不当な不利益や悪影響を被る者が生じないように配慮すること、技能実習制度及び特定技能制度は人材確保のための制度なので、企業の人材確保が図られるように配慮する必要があると書かれている。
これまで外国人技能実習生をぞんざいに扱ってきた者達への配慮を行う必要性は皆無であると見られるし、そうあるべきだと思われるが、一方で真っ当に外国人技能実習生を扱ってきた者達も存在するのは確かである。そうした者達への配慮は必要となるといった話だと思われる。
何より、法改正によって当の外国人技能実習生(や特定技能制度で働いている者達)が不利益を被ってしまっては本末転倒になってしまう。留意事項については、そうした意図しない被害が出ないように留意して欲しいという願いのような声なのだろう。さて、次章以降については、記事を改めて書いていきたいと思う。
以下、広告となります。ぜひ読んでください。