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5.介護がおわってから

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うしろからこっそり

うしろからこっそり

いつもと少しちがう道を通って
近くの商店街まで行く途中
ある細道のところに差し掛かった時に

よろよろと歩くようになった
今は亡き父が、転んだりしないか心配で
見つからないように、こっそりと
後ろから父を見守りながら
歩いた道だったことを思い出した

父の足腰が段々と衰えてきて
歩くスピードもゆっくりになり
はたから見てもハラハラするくらい
よろよろしながら歩いたり
自転車にも乗っていた時期で

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痛み

痛み

みんな
痛みを抱えていた

痛みを内に秘めて
ひとりで抱えていた

ずっと
毎日
苦しんでいるのに

そんなことは
見せようともしないから
気づくこともなかった

誰の責任でもない

これが自分でなくて
人の話だったら

それはしょうがない
十分よくやった
何の落ち度も感じられない
そんなことも

最善をつくせなかったこと
ベストな状態でないことが

最期の時だけは
絶対に許されない罪のように

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サイン

サイン

特に気に留めることなく
過ぎていったささやかな出来事

それは
もしかして
何か意味のある事
ではなかったのかと
後になってから思ういくつかのこと

いつものように
静かに座って
会社で仕事を片付けていると

トク、トク、トクと
自分の心臓の鼓動が感じられ
そしてそれが段々と小さくなって
次第に途切れていくのを
時々感じるようになり

1度医者に診てもらった方がいいかもしれない
漠然とそう思いなが

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認知症の現実

認知症の現実

先日
久しぶりに映画館で
認知症を扱った洋画を観た

認知症の人から見た現実は
ミステリーのような
ホラーのような
つじつまの合わない世界が

認知症ではない
周りの人には理解されず

認知症の本人と
認知症の人の周りにいる人達との
トラブルの要因となり
そこから始まる悲劇の物語

そのパターンは
最近では食傷気味になるほど
見聞きをするが

そのトラブルの要因への理解の不十分さや
向き合い方、扱

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夫が変なんです

夫が変なんです

まだ介護が必要になる前の
いつ頃だったか
はっきりとは覚えていないが

母がある時、急に
「夫が変なんです」
と言い出した

母が言っていたのを聞いたか
母が何かの紙に書いていたのを
見たような覚えもあるが

「夫が変なんです」

そう言われても
私からみたら父親は
特にいつもと変わらず
何が変なのか
全く思い当たることもなく

母が今までそんなことを
言っているのを
聞いたこともなかったので

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母の遺伝子

母の遺伝子

叔母から
母の初婚の相手は
背の高い人だと聞いていたが

時間より少し前に
待ち合わせた場所に着いて
あたりを見回すと
それらしき人は見当たらなかった

待ち合わせの相手である
母の最初の子供の
その人については

家にあったアルバムの中の
小さな子供の頃の写真と

名前については
母に送ってくれた
その人自身が編集に携わった
ある本から
知ったのだったかどうか忘れたが

ネットで検索をしてみると

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罪悪感

罪悪感

仕事以外で出かける
たいていの
自分が楽しむための外出

友人とランチに行く
ひとり旅をする
ライブに行く
ボディボードに行く
等々・・・

約束をしたり
計画を立てる段階から

楽しみな気持ちと
介護が必要な家族がいるのに
放って出かけるという罪悪感は
いつもセットになっていた

もちろん
自分がいない時に
何かあっても問題がないように
デイケアやショートステイや訪問介護は
必ず手配していたけれ

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ギリギリ

ギリギリ

精神状態を崩して
毎晩興奮して騒いで暴れて
手の付けられない状態になってしまった
母の入院が決まった時

父が炊飯器をガスの火にかけて
家じゅうが真っ白に煙った日から
毎晩1時間毎にアラームをかけて
何かやらかしてないか
父の様子を確認する日か続いたが
父が自力で立ち上がれなくなって
父の入院が決まった時

母が最初の入院で退院した日から
また始まった
毎晩の母の興奮状態との闘いが
かかりつけの内

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バナナ

バナナ

母の毎朝の朝食だったバナナ
母か亡くなってからは
あまり買うことがなかったが

久しぶりに
朝食にバナナを食べようと思い
スーパーで
何種類かあるうちの
少し高めの
美味しそうなのを選んだ

しかし
亡くなくなった母に
毎朝刻んで食べさせていた時には
一番安いバナナしか
買ったことがなかったことを思い出し

自分で食べようと思ったら
美味しそうな高い方をと
無意識に選んでいた事に気づいて
ハッとし

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小学生の時のパジャマ

小学生の時のパジャマ

小学生の時のパジャマ

認知症の母が機嫌がいい時に
よくそう言っていたのは

洗濯してもすぐに乾く
白地に色とりどりの
少し大きめの水玉模様の
ポリエステルのパジャマだ

もちろん
母が小学生の時から
持っていたものではなく

私が近所の大中で買ってきた
パジャマの中の一つだから

わりとポップで
一般的には
おばあちゃんより
若年層向けのもので

母がどう思っていたかわからないが

わりと明るい

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無力な存在

無力な存在

母の表情が乏しくなり
何もしゃべらないことも多くなってきた時に
ふとした拍子に
少しでも表情がほぐれて笑顔が見れると
嬉しくなった

母のおむつ交換の時に
おむつを取ったままベッドに座らせていたら
母が尿を漏らしてしまい
ベッドの下まで垂れて
床まで濡らしてしまったが

こんな格好のまま座らせておいて
身体が冷えてしまったのかもしれない
自分が母を世話して
しっかり守っていかなくてはいけない
と思

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つけ

つけ

母の身体の
脚力
体幹
腎臓・・・

見た目や
健診の数値で
少しずつ
衰えが増えてきて

さらには
片手だけグーにしたまま
指を伸ばすことが
出来なくなってきて

無理に広げようとしても
痛がって広げられなくて

お風呂上りなど
温めるながら
ゆっくり時間をかけると
やっと少し
握ったままの指がほぐれてくる

母の様々な身体の衰えを感じながらも
年のせいだから
仕方がないと
完治を目指すような治

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父のあしあと

父のあしあと

ご近所の家まで
町会費の集金に出かけて
玄関のインターホンを鳴らすと

鼻にチューブを入れたおじいさんが
玄関の横の部屋のサッシを開いて
顔を出した

自分の名前と町会費集金と用件を告げると
おじいさんは部屋の中を何かゴソゴソと探し始めて
のど飴の入った袋を
おじいさんが町会費を用意するまで
これを食べて待っててと
ニコニコしながら差し出した

そして昔うちの父が
おじいさん宅にお邪魔して
歓談し

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鉄の扉

鉄の扉

インターホンを押して
名前を名乗ると
職員の方が鉄の扉を
内側から開けてくれる

母が入院した病院や老健
そして最後に入院したICUでも
母は鉄の扉の内側にいた

鉄の扉は
扉の外の世界で
生きるのが難しい人や

扉の外の世界の
有害なものから
守らなくてはならない人の
ためのものだが

母が鉄の扉の内側にいることは
親しい人にも
容易に話せることではなかった