英国挿絵画家の世界 〜ベンジャミンバニーのおはなし〜
ビアトリクス・ポター
『ベンジャミンバニーのおはなし』
フレデリック・ウォーン社
1904年(初版)
ピーターラビット・シリーズの初版は、その人気と現存数の少なさから貴重書となっている。特に本書のようなポターの活動初期に発行されたものはピーターラビットの原点ともいえ、さらに稀少度が高い。
日本でピーターラビット・シリーズの初版を中身まで拝見できる場所は存在しない。だからこそ、紹介したいと思っている。これから挿絵とともにその一部を紹介していくが、完全に見開いた状態にできないことを了承してほしい。100年以上前に発行されたアンティークブックのため、開きすぎるとページが取れてしまうのだ。
原題は、"THE TALE OF BENJAMIN BUNNY"。この物語はポターのデビュー作『ピーターラビットのおはなし』の続編にあたる。マクレガーおじさんの畑で服を失ったピーターが、従兄弟のベンジャミンとともに服を取り戻しにいく話である。初版には発行年の "1904" が印字されているが、後発の書籍では印字されない。それでは早速、ピーターラビットのストーリーに入ってみよう。
ベンジャミンは、マクレガー夫妻が馬車で出かけていくのを見かけた。この感じだとおそらく一日中帰ってこないだろう。彼は従兄弟のピーターがマクレガーおじさんの家で服を落としたことを思い出した。そして、今日のマクレガー夫妻の留守が服を取り戻す好機であることをピーターに伝えることにした。
ベンジャミンはピーターのところに早速走っていた。マクレガー夫妻の留守を伝えたら、彼はきっと喜ぶに違いない。ピータはママと三人の妹とともに木の根元で暮らしている。だが、ベンジャミンはピーターのママとの会話がちょっと苦手だったので、彼女を避けるために家の正面玄関には近づかなかった。
幸いにもピーターは家の外に出ていた。服をなくした彼は冷えたのか風邪気味で、タオルにくるまっていた。ベンジャミンはピーターと木陰に座ってマクレガー夫妻の留守の件を話した。ピーターはついこの前マクレガーに追いかけ回されたばかりだったので、服を取り戻しに行くのはあまり乗り気でなかった。
けれど、仲良しのベンジャミンが留守だから絶対に大丈夫というもんだから結局、彼についていくことにした。ベンジャミンはマクレガーの畑のことを自分の庭と言っていて、得意げに入っていた。だが、ピーターはどこか不安げだった。この前立ち入った時、マクレガーの畑には危険がいっぱいだったからだ。
ピーターとベンジャミンの二人は、見晴らしが良い塀の上にのぼった。すると、ピーターの服が鳥よけのカカシに利用されているではないか。なくした服はすぐ目の前にある。見たところ、危険なものもなさそうだ。それに、服を取り戻せばママも安心するだろう。二人は服の奪還作戦を決行することにした。
ピーターとベンジャミンは、見事カカシから服を取り戻すことに成功した。そして、ついでに緑のオシャレな帽子まで手に入れた。これはちょっとサイズが大きいけど、せっかくだから持って帰ろう。ベンジャミンはカカシから取った帽子をかぶってみせた。ピーターはタオルを放り投げて服の袖に手を通した。
おーい、ピーター。さっきキミが包まってたタオルにタマネギを入れて帰ろうぜ。ちょっとした手土産になる。と、ベンジャミン。名案ではあったが、ピーターは不安な気持ちでいっぱいで、早く帰りたくて仕方がなかった。マクレガーがいつ帰ってくるかわからないし、それにこの畑には彼の猫がいるからだ。
ピーターとベンジャミン、死亡フラグ立てすぎでしょ(笑)というツッコミはさておき続けます。
ピーターとベンジャミンは、タマネギをタオルにたんまり包んでようやく帰ることにした。ピーターはまだ不安な気持ちだった。こんなに重い荷物を持った状態じゃ逃げられないし、荷物が大きすぎて違う出口からじゃないと出られない。それでもベンジャミンは、この畑には詳しいから大丈夫と進んでいく。
ピーターとベンジャミンは、五時間経ってもまだバスケットの中に閉じ込められていた。息子の帰りが遅いことを心配に思っていたベンジャミンの父は外に出かけており、二人を閉じ込めている猫を見つけた。ベンジャミンの父は猫が嫌いであり、容赦なく持っていた杖で猫を叩いて追い払った。
バスケットの中からピーターとベンジャミンが顔を出した。ベンジャミンの父は激怒していた。あれほどマクレガーの畑には危険だから近づくなと言いつけていたのに。彼は持っていた杖でピーターとベンジャミンの尻を何度も叩いた。お仕置きである。ピーターたちはべそをかきながら痛みをこらえ帰宅した。
ピーターが家に帰るとママは二人の妹を寝かしつけていた。ママはピーターがマクレガーの畑に立ち入ったことを聞いたが怒らなかった。すでにピーターは説教と罰を受けていたからだ。それに大事な服は戻ってきた。暖炉が灯ったあたたかな部屋でピーターは起きていた妹の一人とタオルを丁寧に畳んだ。END
ここで物語は終わりです。『ベンジャミンバニーのおはなし』(初版)でした。初版は四ページ毎に白紙のページが挿入されます。後発の書籍にはない特別な仕様ですが、今回はその部分は割愛しました。過去に『フロプシーのこどもたち』の初版で紹介していたので。まあ、白紙なので見ても白けるだけですからね。白紙だけに(笑)
と、冗談はさておき、ピーターラビットの初版はいかがでしたか?本作は本国でアニメ化もされているほどの人気ストーリーです。ビアトリクス・ポターの挿絵のオリジナルの世界観、彼女の類い稀なセンスと溢れる才能を感じていただけたら幸いです。
Shelk 詩瑠久