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煙草を吸う彼の話

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あのこのゆくえ

「好きじゃないならそんなことしないでくれた方がいいのに」

最近そんなことを思う機会が増えた。かわいいね、とかそんな何気ないひとこと。「今日会ってくれてありがとう」、思ってもいない癖に。謎のパフォーマンスで突然「いつもありがとう」とか、LINE payで送られてくる千円。そんなことのために自分のなけなしのお金を使わないで欲しい。

「彼は私のこと好きじゃないかもしれない」とかそんな不安ですらなくて

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これから

これから

高校2年の春、その後恩師となる数学の講師が、塾で、私のクラスを初めて持った日、私にこう聞いた。

「人生で一番大事なものはなんだと思いますか」

私は一言、忍耐、ですかね、と答えた。「悟ってますねえ〜」ほんのたわいもない戯れに真面目な返事が返ってきて優しく笑ったあの恩師は、彼の職場のある同じ新宿で私が今、性風俗産業に骨を埋めていることを知らない。

煙草を吸う。あの時の同期は同じ大学に進学したり、

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生活

生活

いろんなことがあって、1ヶ月ぶりに彼に会った。

前日の夜、母親が「明日は雨で、今年1番の寒さらしいよ」なんて言うから、きっと彼がめんどくさがってなんもしないだろうことは最初から予想がついていた。

彼の家の前に着いた時には気温は4度、当然のように彼は布団からまだ出てきていなかった。

あまりに寒かったので、約束の時間よりも早く、無理に彼に鬼電をかけておこし、無理に家に入った。今日洗濯物当番の彼は

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いちばんになりたい

いちばんになりたい

今回はちょっと毛色の違う話。

昔、まだ私が恋愛感情すら自覚できていなかったとき、彼との事後に、彼は私にある女の子の投稿を見せた。そのホス狂の女の子は、彼が紹介したNSソープで、5日間で70万近く稼いでいた。

「すごいでしょ」

お前の努力ではないのだが。でも彼は嬉しそうだった。まあスカウトとして女の子の力になれることは嬉しいだろう。さらに彼のお金にだってなる。ニコニコ嬉しそうにしている彼を見な

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night on the planet

night on the planet

私は映画を見るのが得意じゃない。そもそもが忙しくてADHDの私は、2時間もジッとして映画に集中していられない。ましてや隣に人がいる時に、その人ではなく、映画を観ているという事実に耐えられない。だから特に好きな男と映画は観ないということに決めていた。

でも先週会った時、彼は珍しく、私に何がしたいかとか一切聞かず、行為が終わるとおもむろに画面の前に私を連れて行き、prime videoを開いた。

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TAXI

TAXI

この半月ほどで何もかもが変わってしまった。綱渡りのように無自覚に淡い恋をしていた私は、竜巻のようにやってきて、私と彼の関係を乱して行った彼女の言葉に飲まれて、その自分の醜い嫉妬と恋心に気付いた。結婚まで考えていた彼氏と別れた。一つの愛に蹲っていられない自分の若さと愚かしさに気付いた。

私は現実という地面にべったり足をつけるほど、まだ成熟できていなかったのだ。

私がこの歌舞伎町に本当の意味で足を

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わたしはいい子

わたしはいい子

別に彼に他に女がいることなんて知っていた。朝モーニングコールするときに誰だか知らないけど電話のタイミングが被ることがあった。そんなの女しかいねえだろ、さすがあいつモテモテだなと思いながら、私は普通に授業を受けていた。彼に何人女が居ようとそんなのマジでどうでもいい。100億人女を抱いていようとあるいは男を抱いていようとそんなのマジでどうでもいい、知りたくなかった。

彼のよくわからん女が昨日の夜突然

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香水

香水

表側矯正中の私に、とうとう彼が在籍を見つけた。新宿の結構な人気店で、私は居心地のいい歌舞伎町で働けることになった。お礼に彼に香水を買ってあげる事にした。前に欲しがっていたのだ。本当は15ml 3000円のreplicaを買ってあげるつもりだったのに、表参道を歩いていたら、いつの間にか予算は私のデリヘル1本の給料より多くなっていた。まあ一回セックスしたら優にこの位払えるからいいや。どうせお金なんてあ

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秋雨

秋雨

しとしと雨が降っている。彼の安らかな寝顔が雨雲の光に当てられて柔らかく見える。

個性とは所詮自分が演じたい役のことだ、福田恆存はそう言う。私にはそれが本当なのか、実のところわからない。でも、私はよく、その役を剥いでみたいと思う。変だろうか?剥いだって結果見えるのは、本能という名の大したことない残滓かもしれないが。

昨晩、彼のお面をどうしても剥がしたくなってしまった。これは演技や表現を虚構だと責

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煙草

煙草

家に帰って来た。カバンを開けると赤マルとGUCCIの香水の香りがした。アフターピルの箱を捨てる。ジャケットを脱ぎ散らかして私は布団に横になった。

猛烈にラム酒が飲みたい。今すぐ酔ってしまって寝たい。しかしラムコークには寒すぎるし、ホットミルクにラムを垂らすには暑すぎる。

今すぐSGに飲みに行きたい。吸ったこともないくせに煙草か葉巻が無性に吸いたくなるようなそんな日だった。

昨日、死ぬほど馬鹿

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