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わたしはいい子

別に彼に他に女がいることなんて知っていた。朝モーニングコールするときに誰だか知らないけど電話のタイミングが被ることがあった。そんなの女しかいねえだろ、さすがあいつモテモテだなと思いながら、私は普通に授業を受けていた。彼に何人女が居ようとそんなのマジでどうでもいい。100億人女を抱いていようとあるいは男を抱いていようとそんなのマジでどうでもいい、知りたくなかった。

彼のよくわからん女が昨日の夜突然凸ってきた。「真実を話してください。」DMを送りつけてきた。彼の彼女だという。そうですか。それ以外の感情が出てこなかった。なら私は身を引くしか無い。彼に迷惑はかけられない。

そんなこと言われたら誠実に対応するしかない。きっと君らも私がそういう奴だとわかっていたんでしょう。電話越しで話した彼女の声は思ったよりも落ち着いていて、「きっとこいつは私の要求を飲んでくれる」そんな風に思われていたんだろうななんて思った。電話越しに甘えた声を出す女。所詮あいつもこういうのが好きなんだな。いつぞや誰かに言われた「お前のことは大好きだけど、普通の女の子じゃないから付き合えない」が耳の中に反響する。ちくちくした。

自分より身勝手で情趣を解さなくて愚かげなこの女に死ぬほど見下されている自分を感じた。惨めだった。

名前ってずるいなって思う。関係性で殴られたら私は抵抗出来ない。この女はそれをよくわかっている。私が真面目で誠実であることを逆手にとって甘い声で名前の暴力を奮ってきた。半分吐きそうになりながら、それでも携帯の画面を割らなかった私は偉いんだと思う。

別に私は彼に何を求めていたわけじゃない。だけどあのふたりだけの微妙な綱渡りをさせて欲しかった。ずっと綺麗でいられたわけはないが、私が手間暇かけて綺麗にしていたものを、わがままを言えるだけが取り柄の女に全部壊された。私はただ、ただ、私が綺麗だと思うストーリーを見ていたかっただけなのに。

多分わたしはいい子すぎるんだと思う。結婚して欲しいとか、あなたの子供が欲しいとか、そんなわがままなんてさらさらなくて、ただ、ただ、あのぬるま湯につかっていたかっただけなのに、居心地のいい居場所を私から取らないで欲しかった。きっと彼は戻ってくるとは思う、けど、私はまたその居心地の良さを取り戻せるほど強い人間だろうか。

赤マルを無造作に吸う。むせ返るほど彼の香りがした。




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