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「温故知新、温新知古」~情報の代謝④(2022.1〜4)
よく「本棚は人を表す」と言いますが、本棚以外の情報もその人の精神性を反映するものと言えます。
以前にも少し書きましたが、私は基本的に「情報源の格式・貴賎」のようなものにはこだわりはありません。漫画やアニメ、ライトノベルやゲームが古典文学や音楽を凌駕することだってあると思っています。社会的に格下の扱いを受けていても、その作品から心躍る体験を得たり、深い感銘を受けたり、生き方の指針が見つかることだってある。そんな経験は、少なからずあるのではないでしょうか。
情報の代謝①〜③でいろいろと書いてきましたが、今回はもっとコンパクトに複数の情報源をまとめてみました。
【情報源の名称/媒体(本・映画・アニメ・漫画、web等)】
①おすすめ度(5段階評価)
②その情報を選んだ理由や動機について一言。
「少し先の未来の社会情勢を読み解くヒント」になるか否か、それを基準に情報収集をしていますが、たまたまこの記事を読んでくれた方の「コンパスになるもの」があれば良いなと思い、記録を残していきます。
情報の代謝【本①】
【優しい時間/倉本聡】
①★★★★☆
②『北の国から』で有名な、倉本聡さんが手掛けた連続ドラマ『優しい時間』の脚本、その書籍版を古本屋で見かけたので購入しました。とある回での「森の時計はゆっくり時を刻む、だけど人間はどんどん速くなる」という言葉がとても印象的で、今でも心に刻みつけられているフレーズです。私が大学生の時に作った『COMPASS』という作品でも取り上げた内容で、いまだに忘れずに覚えているということは、自分でも驚きです。人間は時計を発明して、現代においては1万分の1秒などの “速く” “正確な” ものを作る技術は向上していますが、10年で1回転するような “ゆっくりとした時間” を刻むものは作れないままです。ドラマは2005年の作品。もう17年前になりますが、加速し続ける社会は止まりそうにありませんね。
【新大東亜戦争肯定論/富岡幸一郎 飛鳥新社】
①★★★☆☆
②昨今の日本が戦時中の一億玉砕、竹槍でB29を落とせと言わんばかりの状況に思えてきたので、それがきっかけで読み始めました。以下の『ダイアモンド』の記事も興味深い内容です。
大東亜戦争という言葉自体が義務教育の段階でタブー視されているために「ではあの戦争は日本人にとって何だったのか?」と考えないまま大人になる人が大多数だと思います。私もその一人です。
本書の「第四章 アジアのなかの日本」に著者の見解をまとめた総括があるのですが、以下の一文は “直接的な戦争” に限らず、比喩的にも日本の国民性を問われているように感じました。
六、東京裁判の結果と米国の占領政策によって、「あの戦争は自分たちが戦った戦争である」との痛切な自覚を十分に持ちえずにいた。それは戦争そして敗戦の「責任」を、いわゆる「戦犯」に転嫁し、主体的に問い直すことができなかったからである。今日の日本社会の倫理的な退廃の要因は、ここにある。
メディアの情報を見る限りでは、国際情勢がキナ臭い状況になっていますし、西側諸国に組み込まれた日本も国家として巻き込まれています。次の7月の参議院選挙は “日本の今後を決める分水嶺の一つ” だと私は思っています。たとえ物事のなりゆきはあらかた決められているのだとしても、選挙結果が引き起こす未来において、戦犯を探して責任転嫁するような人間にはなりたくありません。有権者の一人として後悔のない選択をしたいと考えています。
【中国の思想[Ⅹ]孫子・呉子/徳間書店】
①★★★★★
②一つは、中医学を勉強する過程で中国の古典にも興味を持っていたこと、もう一つが、現代におけるハイブリッド戦争、情報戦についても『孫子』の兵法は役立つのだろうかと思ったこと、この2点がきっかけです。いま現在、世界で進行中の「特別軍事作戦」について、インターネットで公開される情報のみを調べると “真偽不明なもの” や “感情的に偏りがちなもの” が散見されます。時間をかけて探せば良質な情報にたどり着くと思いますが、時間は無限にあるわけでもなく、素人軍事評論家になるつもりもないので、これらの情報から一定の距離を取り続けています。しかし、今年7月の参議院選挙にも影響があるものなので、有権者の一人としてどのような選択をするか、その考える材料の一つとして活用しました。
『孫子』の他には、一般教養として第二次世界大戦を理解したかったので『戦争を始めるのは誰か 歴史修正主義の真実』を読んでみたり、
そもそも特別軍事侵攻に関わる二国間、NATOの介入についての基礎知識が圧倒的に不足していたので、知見を深めるために以下のような新書も読んでいる最中です。
新書の良さは、基礎知識や周辺知識をいろいろな著者の視点から手軽に得られることですよね。専門書や学術書のような専門家向けのものではないので、本業を圧迫しない程度に、電車内などすきま時間で読み進めるにはちょうどいい内容です。
本題の『孫子』についても、戦場以外の生活のさまざまなシーンで活用できる内容です。組織で生きるふつうの社会人として、人それぞれ刺さるポイントは違うと思いますが、スルメのように噛めば噛むほど役立つ内容であると感じました。日本企業の経営者が長年愛読してきたことも頷けます。西洋的考え方ばかりありがたがって、東洋哲学をスルーするのはもったいないと思いました。
また、生真面目に考えずとも『三国志』の諸葛孔明を主人公にした『パリピ孔明』のように、ガチガチの古典をエンタメとミックスするような発想をしてみるのも面白いかもしれません。私はこうした古典や宗教を茶化してエンタメ化している作品も好きです(『聖☆おにいさん』『鬼灯の冷徹』等)。
中国古典は、まさに温故知新。読む人次第で汲み取れる内容も変化する “智慧の源泉” だと思います。
【順列都市 上・下/グレッグ・イーガン ハヤカワ文庫】
①★★★☆☆(惜しいのは一回読んだだけでは話の筋を追うのが難しい点)
②昨年、アーサー・C・クラークの傑作SF『幼年期の終わり』を読了して、SF作品の面白さに気づきました。
SFは作者の意図を超えて、現代に問題提起をする良作が多いと思います。『順列都市』もその一つです。物語の舞台は21世紀半ば、富豪たちが自身の記憶と人格をコンピューターにアップロードして〈コピー=不死の自分〉をつくりだした未来の話です。
私たちが生きる現実でも、VR技術、メタバース、日本においても内閣府もムーンショット計画を打ち出していますよね。
映画におけるCGやPS5等の美麗な映像、オンラインゲームのアバターなど、リアルとフィクションの境界線が曖昧になっていけば、『ソードアートオンライン』のような「VRMMO=仮想現実大規模多人数同時参加型オンラインゲーム」の世界も本当に実現してしまいそうです。私はアニメ視聴からハマった作品で、アインクラッド編の緊迫感が好きです(内容的に『順列都市』と関連が深そうなのは「アリシゼーション編」です)。仮想現実については、かつてフィクションだったものが現実化しつつありますよね。
インターネットの登場、携帯電話、スマートフォンの普及のように、個人がそれを好むか好まざるかは別として、国際社会全体が「仮想現実を肯定する方向」に進みつつあるのだろうな、という流れを感じます。正直なところ、どんな世界なのか体験してみたい気持ちはありますし、逆らわずに時代の流れに乗っていけば一番楽ですが、「それで良いのか?」という心の声も無視できません。数年〜数十年先、といってもそう遠くない未来にひと騒動起きるんだろうな、と予測しています。
興味深いことに、シンギュラリティ(技術的特異点)における2045年問題、AIが人類を超えるのか否かについても関係していて、『順列都市』の話も2045年から始まるんです。人間はどうなるのか、どうなりたいのか。自分から仮想現実を選ぶのか、それとも選ばされるのか。『火の鳥 未来編』『マトリックス』など、人と機械、人と仮想現実のありかたに問題提起する作品は数あれど、フィクションだと思っていたものが、案外ひたひたと迫っているのかもしれませんね。
本日は以上になります。長文をお読みいただき、ありがとうございました。