表現のための実践ロイヤル英文法 [書評]④:「第22章 一致」(前半)
これまで授業資料の記事中でいろいろな教材をご紹介してきましたが、特に丁寧にご説明しておきたい英語学習参考書の書評を個別に記事にしていきます。今回は「表現のための実践ロイヤル英文法」書評の4記事目で、私が特に重視している名詞シリーズの番外編「名詞(主語)と動詞(述語)の単複一致(呼応)」問題(以下、「SV単複一致(呼応)」と略)のご紹介。
情報量が多くて1つの記事ではとても書ききれませんので、2回に分けてのご紹介となります。まずは前半部分。
この問題は学校英語での扱いが小さく、まず多くの人が問題をほとんど認識していない、認識することすら難しいという特殊性があります。総合英語Evergreen/Forestとの比較を通して、この問題への理解を少しでも深めていただければ幸いです。
表現のための実践ロイヤル英文法
綿貫陽 (著), マーク・ピーターセン (著)
旺文社
ISBN-10 : 4010312971
ISBN-13 : 978-4010312971
徹底例解ロイヤル英文法 改訂新版
綿貫 陽 (著), 宮川幸久 (著), 須貝猛敏 (著), 高松尚弘 (著)
マーク・ピーターセン(英文校閲)
旺文社
ISBN-10 : 4010312785
ISBN-13 : 978-4010312780
では、英語のSV単複一致(呼応)問題のご説明を兼ねて、「表現のための実践ロイヤル英文法」を書評していきます。
以下に原文を引用または要約(多少アレンジしております)して、私からのコメントも入れていきます。著作権を考慮して必要以上の引用は避けておりますので、内容を詳しく知りたい方は原本を直接ご覧ください。
主語と述語動詞の「一致」の場合は、「呼応」とも言います。
「一致」と呼んだり「呼応」と呼んだり、名称が不統一な点もこの問題の理解を難しくしている一因かも。
「主語と動詞の一致」=SV単複一致(呼応)問題、「単数主語に対する述語動詞は単数、複数主語なら述語動詞も複数」で全てが済むと思っていたら実は大間違いで、その点をこの記事でご説明していきます。
この問題を扱う際には集合名詞から入るのが定番。学校英語でも集合名詞の項目では扱われていますが、扱いが小さすぎるのが難点(Forestもしかり)。
構成員を「意識」というよりも、私は単語の「意味」を厳密に区別することが重要だと教えています。実践ロイヤルは間違いなく良書なのですが、「意識」や「考え」という主観的・感覚的な説明が多い点は改善して欲しいと個人的には思います。
「動詞を単数で受けても代名詞は複数でかまわない」という説明は、この章の最後に出てくるものの先取りで、ここで言うのはややフライング。
それはさておき、この「動詞単数でも代名詞複数」現象は、厳しく言えば英文法のルール違反。本当に名詞の単複の違いが重要と言うのなら、代名詞を複数で受ける場合は動詞も複数にすべき(あるいは逆に、動詞を単数で受けるなら代名詞も単数にすべき)。
残念ながら、SV単複一致(呼応)はあくまで理想、現実はSV単複の不一致(非呼応)例が混在(理想通りだったら英語学習がどんなに楽だったか)。
私にはネイティブ感覚はありませんので、「形が複数形の名詞」を単数の動詞(is/wasや3単現のs等)で受けることに大いに疑問を感じますが、それが現実(繰り返しになりますが、SV単複一致(呼応)という理想vs不一致(非呼応)という現実)。理想論を言わせてもらえれば、単数の動詞で受ける「形が複数形の名詞」は単数形で表すべき。
「1が単数で、1より多いもの(more than one)が複数扱い」は、誰も否定できない真っ当な定番説明。しかし、英語で本当にこの原則が守られていると言えるのか、が問題。例えば、zero/ゼロ/0は単数か複数か、1より多いか少ないか?
「1.01でも複数」も、おっしゃる通り。しかし、0.2や0.8は? マイナスは単数か複数か、1より多いか少ないか?
日本語にもちゃんと複数を表す表現がありますが、英語ほど毎回のように単複を明示する必要はありません。逆に、英語ではyouに関して単複の区別がありません/できませんが、「あなたvs皆さん」のように、日本語では2人称に関して単複をしっかり区別します。英語でこれをするには工夫が必要。
「256C 単数にも複数にも扱う不定代名詞」の「数えられるものを指すときは複数扱い、数えられないものを指すときは単数扱い」という説明ですが、まず「可算名詞にも不可算名詞にも使える不定代名詞/形容詞についての話」という前提を説明することが必要。
some, any, all, noneは、どれも可算名詞にも不可算名詞にも使える便利な表現。だからこそ、こうしたSV単複一致(呼応)問題が発生。逆に、可算のmany、不可算のmuchでは、こうした問題はまず発生しません。
結局のところ、可算名詞にも不可算名詞にも使える不定代名詞(形容詞)は動詞の単複を左右することはできず、決定権は名詞にある、という当たり前の結論。
someだけ、ここでさらに深掘り。"How about some coffee?"のsomeは「幾つか」の意味ではありません。実は見た目が同じsomeでも、可算名詞を修飾する場合と不可算名詞を修飾する場合では意味が違い、それが動詞の単複にも影響します。
さらに、someoneとsomebody、いずれも人数は1人。特殊なケースでは、可算名詞の前のsomeでさえも「幾つか」の意味ではないことがあります(あくまで特殊なケース)。詳しく知りたい方は、辞書でお調べください。
257A (1)〈most [all, some] of B〉の「Bが単数なら単数動詞で受け、Bが複数なら複数動詞で受ける」は、「Bが単数なら不可算または可算で1個、Bが複数なら可算」と読み替えることがほぼ可能。この読み替えができれば、話はかなり簡単。
発展のdataはラテン語由来の複数形で、本来は単数形datumが存在します。そのdatumが死語となりつつあることから、dataを単複両方で使うこのような混乱(厳密には誤用ですが、言語は変化するもの)がほぼ一般化、と言う説明が欲しいところ。
改めて、単複両方に使えるdataはCかUか? CならSかPか単複同形か?
257A (2)は実に簡単な話で、oneがあれば迷うことなく単数で受けます。
「257B 分数が主語」の場合、257Aと同じように言うなら「ofの次の名詞が単数なら単数動詞で受け、ofの次の名詞が複数なら複数動詞で受ける」となり、これも「単数なら不可算または可算で1個、複数なら可算」と読み替えることがほぼ可能。この読み替えができれば、話はかなり簡単。
「257C①〈a [助数詞・単位] of 物質名詞A〉」の場合、[助数詞・単位]の中身が重要。これについて更なる深掘りを知りたい方は、私の別記事「助数詞&単位1-3」をご覧ください(下の方にリンクが貼ってあります)。
注意〈a group [flock, teamなど] of A〉の場合、要は単なる集合名詞と同じ扱い。
「257C②〈a lot of ~〉」の場合も、後から補足はあるのものの、256Cと同じく最初から「可算名詞にも不可算名詞にも使える表現」という前提を説明することが必要(可算のmany、不可算のmuchではまず発生しない問題)。
a large number ofは、文字通りnumber[数]なので可算。a lot of, plenty of, lots ofなどは、可算名詞にも不可算名詞にも使える便利な表現ではありますが、このSV単複一致(呼応)が絡んでくると、元の木阿弥(最初からmany、muchを使えば何の問題も発生しないのに)。可算と不可算の区別は実に面倒。
今回の書評(前半)は以上です。いかがでしたか?面白いと思った方は、コメントしていただけると、今後の励みになります。
以下は、総合英語Evergreen/ForestでSV単複一致(呼応)に対応する部分を書評したものです。残念ながら原本では解説が複数の章に分散して分かりにくくなっており、それを1つにまとめてご紹介しております。ご参考にしていただければ幸いです。
❶ご紹介した総合英語Evergreen/Forestは、表現のための実践ロイヤル英文法よりも高校生向きに簡素化されていて、学校英語における英文法参考書の最高峰と言っても過言ではない名著です。普通の中高生はまずこちらからお読みください。かつては中高生だった方も、学校英語の復習にはこれがベスト。実践ロイヤルと読み比べて、違いをチェックするのも面白いと思います。
総合英語Evergreen
川崎芳人・久保田廣美・高田有現・高橋克美・土屋満明・Guy Fisher・山田光 (著),
墺タカユキ (編集), 鈴木希明 (編集)
株式会いいずな書店
ISBN-10 : 4864607214
ISBN-13 : 978-4864607216
❷マーク・ピーターセン先生の「日本人の英語」三部作は改めてご紹介するまでもない有名な英語解説書で、英語好きなら読んでおくべき名著。有名な本ですし、気軽に読めて参考になる点も多いので、ご一読を強くお勧めします。
以下は、総合英語Evergreen/Forestと表現のための実践ロイヤル英文法の「名詞」と「冠詞」章の書評です。まだ読んでいない方は、ご参考にしていただければ幸いです。
以下をクリックして関連記事もご覧ください。学校英語では説明が足りない点を補ってもらうための教材です。
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