佐藤相平

英語を教えながら、いろいろ書いています/Mr. & Mrs. Abe Arts & Culture Prize金賞/第5回私立古賀裕人文学賞🐸賞/第二回かめさま文学賞受賞/第3回フルオブブックス文学賞エッセイ部門佳作

佐藤相平

英語を教えながら、いろいろ書いています/Mr. & Mrs. Abe Arts & Culture Prize金賞/第5回私立古賀裕人文学賞🐸賞/第二回かめさま文学賞受賞/第3回フルオブブックス文学賞エッセイ部門佳作

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    古賀コンに参加した作品や古賀コンの感想のまとめ

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英単語検定1級に挑んだ7人の男たち

会場にいる受験者は7人。なぜか全員男。 試験官もおじさん1人。 密室に閉じ込められた8人の男たちにより英単語検定はおこなわれた。 手渡された問題冊子。 紙が薄くて問題が透けて見える。が、見ないようにする。 時間ギリギリまで単語帳を見ていても何も言われない。 試験開始時間が電波時計と2分くらいずれていた気がするが、気にしない。 問題を解き終えたら、途中退出は自由。どんどん受験者が退出していき、試験終了時点では僕を含めて2人しかいなかった。 試験後、僕は1年ぶりに

    • 鳥籠

      「我が家のインコの英語の発音が悪いから、発音がいい人を雇いたい」  そう僕の妻がSNSに投稿している、と友達が教えてくれた。時給は二千円。アメリカ英語のネイティブスピーカーが希望らしい。  僕は妻に本気なのかと聞いた。 「だってほら。RとLも、BとVの区別もできてないじゃん」  妻は鳥籠の中のセキセイインコを見た。インコは首を傾げ、黙っている。妻が話しかけるとインコはやっと「デスイズ、アー」と鳴いた。 「直己の英語を毎日聞いているせいでしょ」 「オレだってRとLの区別くらいし

      • 古賀コン6(第6回私立古賀裕人文学祭) 作品全感想

        はじめに  佐藤の能力不足+時間不足により的外れなことを書いている可能性があります。どうぞご指摘ください。 1. 非常口ドットさん「私怨小説」  今回は今までの非常口ドットさんの作品と違って、介護ではない作品でしたが、いつも通り完成度が高かったです。作家としての基礎能力の高さを感じます。作品全体でこれでもかと「 架空 “☆1” レビュー 」というタイトルを生かしていたのが良かったです。  自分のために書いた作品が世間的にも評価されるというのは作家にとっては理想であるはず

        • 一つ星

           僕たちがバスの最後列の右端に座ると、バスはゆっくり動きはじめた。  前の席に座った男の子はコロコロコミックを読んでいる。男の子が「阪神タイガースって何」と父親に聞いた。父親は「阪神タイガースは、野球チームだよ」と答えた。  窓際の席にいる直也は外を見つめ、話しかけてほしくないという雰囲気を出している。目の細め方がわざとらしい。自分の顔の良さを自覚しているんだなといういやらしいさがある。実際、整った顔をしているんだけど。  バスを降りると、市松模様の布マスクをして、「love

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          6本

        記事

          参考書レヴュー『英語ライティングの原理原則――テストに強くなる、レポート・論文で評価される』山岡大基著

          『ドラゴン・イングリッシュ』の例文は覚えたのに、自由英作文が上手く書けない人のための一冊。 いい本だけどレヴューが少なかったので紹介。 基本的な英文はかける人が、さらに上を目指すための参考書。主に文章構成について学べる。1文1文は書けるけれど、文章のつなげ方がわからない人におススメ。 目次には、「パラグラフは最初に「着地点」を示す」「パラグラフは抽象から具体へ」など、他のライティングの参考書にも書いてあることが並んでいる。 ぶっちゃけ、ある程度ライティングを学んだ人に

          参考書レヴュー『英語ライティングの原理原則――テストに強くなる、レポート・論文で評価される』山岡大基著

          お昼寝(第三回イロカワ文学賞応募作)

           よく利用している、平らで寝心地のいい場所は、芝生がところどころはげて、土がむき出しになっている。僕はそこにポケモンのレジャーシートを広げると、シートの右端に体育座りをして、リュックを体の左に置いた。  風はなく、日光が顔に当ってすこし暑い。それでも僕はグレーのマフラーを首に巻いた。ふつうならまだ十月だからマフラーなんていらない。だけど風がよく通る大隈庭園で昼寝をしていると、寒くない日でもだんだんと体が冷えてくる。だから昼寝ができそうな天気がいい日には、僕はマフラーを、なる

          お昼寝(第三回イロカワ文学賞応募作)

          古賀コン5(私立古賀裕人文学祭) 作品全感想

          はじめに  佐藤の能力不足+時間不足により的外れなことを書いている可能性があります。どうぞご指摘ください。 1. 大江信さん「一●入魂 対 不撓不屈」  古賀コン5の開幕にふさわしい瑞々しい暴力に満ちた作品。古賀裕人さんと、「第一座右の銘」という書きにくいテーマに挑むんだ! という意気込みを作品から感じました。「負けねえ!」という叫びがよかったです。僕も頑張って感想を完走しようという力をもらえました。 古賀コンは投票期間が短いのでなるべく早く投稿して若い番号をゲットし

          古賀コン5(私立古賀裕人文学祭) 作品全感想

          第誤回 私立古賀裕人文学祭感想

          *テーマは「第一座右の銘」 「鶴だけど恩返しをもうやめたい」 佐藤昔話平さん  みなさんご存じ「鶴の恩返し」のパロディー。 「男に二言はない」が座右の銘のおじいさんは、恩返しにきた鶴との約束を守り、決して鶴が機を織る部屋をのぞこうとしない。一方で、鶴はだんだんと機織りに飽きはじめる。  おじいさんに気づいてもらうために、鶴が羽をバタバタさせ、最後には障子をくちばしで突き破ったのには笑ってしまった。着眼点がおもしろい作品だ。 「泳げ! 古賀裕人」 佐藤古賀裕人平さん 「

          第誤回 私立古賀裕人文学祭感想

          首の骨は誰が、何度折ったのか 坂崎かおる「私のつまと、私のはは」についての考察

          はじめに  坂崎かおるさんの短編集『噓つき姫』に収録されている「私のつまと、私のはは」の考察です。作品を読んでからこの記事を読むことをおススメします。 導入 初読時は「一人で世話するのに疲れた知由里が、ひよひよの首の骨を折りまくって、何度も初期化して上限に達したんだな」と思いました。 しかし、それなら二人が再会するまでに、ひよひよは大きくならない(成長しない)のではないか。 まず、作中の時系列を整理しておきます。 ひよひよが来てからはじめての〈集い〉は夏(「よく

          首の骨は誰が、何度折ったのか 坂崎かおる「私のつまと、私のはは」についての考察

          古賀コン4(私立古賀裕人文学祭) 作品全感想

          はじめに  佐藤の能力不足+時間不足により的外れなことを書いている可能性があります。どうぞご指摘ください。 1. 非常口ドット「無限ループ」  非常口ドットさんは介護福祉士として働いているようなので、ご自身の職場での体験を題材にされたのかなという作品。主人公の成長がストレートに描かれていていることに好感が持てます。介護職のやりがいが分かったと言ってしまうのは安易かもしれませんが、自分の仕事に対して責任を持っているというのが素晴らしいです。  社会状況のせいか暗い話が多い

          古賀コン4(私立古賀裕人文学祭) 作品全感想

          潰す(古賀コン4応募作品)

           ゆるやかな上り坂の途中に、「回収できません」という紙が貼られたマットレスが捨ててある。それを避けて前を向くと、見覚えがある黄色いトレーナーが見えた。  イートンだ。  黒縁メガネと緑の短パン。教室にいる時と同じ服装をしている。  いつも黄色いトレーナーを着て、ブタみたいな雰囲気だから、イエローの豚を略してイートン。ピッタリな名前だ。  イートンは車道に何かを投げている。緑や茶色の跡が道にある。草とかワラに見える。  もう少し近づくと、イートンが投げているのがバッタだと分かっ

          潰す(古賀コン4応募作品)

          the 最上級 of the twoは間違いなのか

          はじめに  だいたいの参考書に、the 比較級 of the twoという文法が出ている。でも現実は、the 最上級 of the twoもよく使う、ということを説明する記事です。 基本説明  the 比較級 of the two「2つのうちでより~」は、最上級でないのにtheを使う、でもtheにつられて最上級にしてはいけない、というのがポイントだ。  The guitar is the better of the two.  2つの物を比べているので比較級。だけど

          the 最上級 of the twoは間違いなのか

          BFC5落選展感想「ダダダダダ」まか

          「鈍く汚れた鉛よりも美しくあたたかい言葉をたくさん撃ちたいよ」という一文の通り、言葉が濃密な作品。幻想的であると同時に力強い、原始的であると同時に電子的な描写が、現代社会の地獄につながっていく展開が素晴らしいです。これが、計算されたものだとしても、感覚的にできあがったものだとしても、すごい力量の方だなと思いました。  まかさんのX(旧Twitter)によると「ガザや戦争のことを取り込まずにはいられなくて途中で書き直した。 このタイミングで無視はできなくて」ということらしいです

          BFC5落選展感想「ダダダダダ」まか

          BFC5落選展感想「不夜城のサングラス」+「火はどこに消えるのだろう」吉美駿一郎

           ハードボイルドな雰囲気がある作品。不夜城といえば、馳星周さんの作品が思い浮かびますが、関係あるのでしょうか。  この作品ではバッティングセンターやラウンドワンが不夜城なのかなと思いましたが、サングラスは?というのが初読時の感想でした。読み返すと、「適切な色眼鏡がないからだ」という一文があり、ここがサングラス要素なのかな、と考えました。「五十代で打撃に開眼した」藤田を適切にカテゴライズする色眼鏡を人々は持っていない。  一方で藤田は「朝七時のラウンドワンには化粧をした十代の少

          BFC5落選展感想「不夜城のサングラス」+「火はどこに消えるのだろう」吉美駿一郎

          BFC5落選展感想「面影は消えない」蒼桐大紀

          「昔、すごく良い文章を書く人がいたんです」  春水朔夜のことを話すとき、私はいつもこう始める。上手いではなく良い。すなわち私の主観に寄った見解を口にする。    という冒頭で世界観に引き込まれました。  蒼桐さんの作品を読むのは「面影は消えない」がはじめてで、この感想を書く前に「春の風とはじまりの音」も読んだのですが、人と人の出会いを書くのが上手い作家さんだなという印象を受けました。  また、西崎さんもコメントしているように構成がすばらしい。六枚の作品は自分でも何度も書いてい

          BFC5落選展感想「面影は消えない」蒼桐大紀

          残り火(BFC一次予選通過作品)

           もう乾いていると思っていた片手鍋の底に一滴だけ水が残っていた。鍋を揺らすと水滴は引っかき傷の上を流れ、薄くなった。  物音がした。振り向くと、昼寝をしていた直也が、腹をかきながら立ち上がっていた。白いTシャツにはオレンジ色の染みがついている。昨日の夜の、体臭とバターチキンカレーの混ざったニオイを思い出す。 「オレも行く」 「買いたいものがあるの」 「別に、なんとなく」  直也はTシャツを脱ぐと、部屋の隅にある洗濯籠に投げ入れた。白い肌の中でみぞおちの辺りに生えた毛が目立って

          残り火(BFC一次予選通過作品)