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旅する写真

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たくさんある画像の中から、写真を見つけ、そして使って下さって有難うございます! 「みんなのフォトギャラリー」から色々なところへ旅している写真を、嬉しくて集めてしまいました。 同じ…
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#ショートショート

カレーうどんの攻防 [ショートショート]

昼下がり、私は玄関の方から妙な音を聞いた。音の主は庭にいるはずの秋田犬、名前はタマだ。普段はおとなしいタマだが、ここ数日、気まぐれに玄関の戸を叩くようになった。今日もまた戸の向こうから低いうなり声が聞こえ、私は玄関へと足を向けた。 玄関の扉を開けると、タマはすぐに私の手元をじっと見つめた。実は私が手にしているのは、湯気を上げるカレーうどん。昼食の途中だったが、あまりにもタマの主張が強いので、仕方なく席を立ったのだ。 「タマ、これはあげられないよ」と私は言った。しかし、タマ

節分

鬼は〜外、福は〜内。 私は節分が好きだ。 私が小さい頃からの我が家の毎年恒例行事。 いつもその日は父が家にいなかった。 母と2人、豆を撒く準備をする。 準備が整った頃、鬼が家に入ってきた。 この鬼こそが父なのである。 私と母は、鬼の格好をした父に向かって一生懸命豆を撒いた。 鬼は〜外!福は〜内! 楽しそうな声と豆を撒く音が家の中に響く。 最後の一掴み、母と一緒に投げた。 その豆を投げられた父は家を出て行った。 そんな私ももう大きくなった。 今年もまた

掲示板に貼られたうどん [ショートショート]

学級会が終わった。教室の壁に掛けられた掲示板の前で、私はふと足を止めた。無数のプリントやポスターが貼られているが、その中に一枚、目を引くものがあった。「うどん会のお知らせ」と書かれた小さな紙だ。手書きの文字で、来週の土曜日、近くの公民館でうどんを作る会があるという内容だった。 私はその紙をじっと見つめた。うどん。別に特別好きなわけではないけれど、その単語が目に入ると何となくお腹が空いた気がした。学級会で話し合われた内容は、ほとんど頭に入っていない。次の行事についてだったと思

「落ちた燕は何を運ぶ」

こんにちは。りとです! ツバメって、可愛いですよね。 サービスエリアのトイレの出入り口なんかでよく見ます。 可愛いなって思いますけど、向かってくるとちょっとびっくりしちゃいます笑 今回もショートショート作品です。 __入学式。私たちは友達になった。 一年後、私たちは友達じゃなくなった__

橋渡しーたった1分で読める1分小説ー

橋は、この三年間やきもきしていた。 毎朝登校時間になると、ある男子高生と女子高生が橋の上ですれ違う。 「ああ、どうしよ。名前聞いたら、気味わるがられるだろうな……」 「毎朝橋の上で一緒ですね。そう気楽に声をかければいいのよ……ダメ、恥ずかしくってそんなのできない!」 橋は、橋の上を通る者の心の声が聞こえる。二人はいつもこんなことを考えているが、どちらも極度の奥手だ。 結局勇気が出せず、すれ違い続けた。そしてとうとう卒業式を迎えてしまった。 もう、人間ってのはイライラ

太陽の椅子

 連休に訪れたとある小さな村。私は普段の喧騒から離れ、静かな時間を求めてこの場所を選んだ。宿は古びた木造の建物で、温かみのある雰囲気が心地よい。宿の主人は無口だが、どこか親しみやすい笑顔を浮かべていた。  宿の一室に落ち着いた私は、持参したミステリー小説を読み始めた。しかし、窓の外から聞こえる鳥のさえずりや風の音に心が落ち着き、いつの間にか本を閉じて窓辺に腰掛けていた。そんな中、ふと村の伝説を思い出した。昔、この村には不思議な椅子があり、座った者は心の中で最も強く願ったこと

山岳カルマ

本文山脈の深淵。 それを知る者は誰一人いない。 山岳部先代顧問の手記だ。 何が起きているのだろう。 山岳部が怪異に巻き込まれたことに由来しているようだ。 山岳部員が初めて怪異に巻き込まれたのは、20年前である。 高校からほど近い、標高1000mにも満たない山でのことだ。 山道に沿って歩いていたのだが、1週間も行方不明になった。 山道からそれないように目印があるため、迷うとは無縁だという。 念のため、捜索隊による捜索が行われたが、何の手掛かりも見つからなかった。 何も

【ショートショート】旅の不思議

 まなじりを決した侍がふたり、ススキ野に入ってきた。  入口のあたりで茅を刈っていた百姓の権兵衛が顔を上げて、 「お侍様がた」  と呼びかけた。 「なんだ」  若いほうの侍が振り返る。 「このあたりは奇怪ヶ原と呼ばれております。深くお入りになって、戻れなくなる方が多うごございます」 「なにをバカな。一本道ではないか」  ふたりはずんずんとそのままススキ野のなかに足を踏み入れていった。  すこし開けた場所に出る。 「ここらでいいか」  剣客風のしぶい男性が立ち止まると、ふたりは

文学トリマー #毎週ショートショートnote

「今回は521文字か」 髭を撫で付けながら男はモニターに出力された結果を見て呟く。 習慣になった毎週ショートショートの執筆作業だが、ここからが腕の見せどころだ。 多種多様な作家が参加するこの企画の主なルールは、毎週発表されるテーマと文字数制限。テーマに則して粗く文章を組み立てた後で、制限に合わせて文字を削るのが男の普段のやり方だ。その工程は、さながら文学トリマーといったところか。 今回は100文字近く削らないといけない。さあて、と男は作業に取り掛かる。 「この『無精髭を触って

【短編小説】猫の流動性に関する調査記録

 皆さんご存知の通り、宇宙の遥か彼方に“ネコリス”という惑星があった。“あった”ということは、既に存在しないという意味だ。まずはこの“惑星ネコリス”の消滅について話をしようと思う。  ネコリスの主成分は水であり、陸地になるような物は存在しない。  ネコリスを有名にしたのは、その水の特異性にあった。人類がネコリスに降り立って以降、今日で言うところの猫の姿をその水がとり、人類の前に現れるようになった。  初めは、現地調査チームが設計した居住スペース外の海上にそれらしい、しかし歪な

彼女は、自分の人生を歩めと言った

はぁ、、、 どうにも最近しんどい。 4月から突然別の案件にアサインされ、断ることもできず担当になった。 かといって前の案件も完全に引き継げた訳ではなく、今も半分くらいやっている。 体感覚としては、完全に1.5人分くらい働いてる。 上司に掛け合おうとしたら、 「いやー、気持ちは分かるけどこっちも人がいないからさ、なんとか頑張ってよ!何かあったら言ってね!」 としか言われなかった。 何かあったら言ってね、じゃねーよ! 今しんどいんだよ! メンバーも仕事ができないし、上司も

「塩すっぱい」に関する考察

テレビを付けると、若い女子アナウンサーが近頃新しくできたラーメン屋で醤油ラーメンを食べていた。 感想は「美味しいですね〜」というのは当たり前で、その他には「懐かしいのに新しい」だの「斬新」だのよくわからないことを言っていた。 別に私はアナウンサーでも無ければグルメブロガーでもないので、料理の味に対して精緻な感想を述べる必要は無い。特に一人で食べる場合には美味ければまた訪れればよいし、不味ければ次には行かなければよいだけである。 実際、本当に美味しいものを食べた時の感想とい

意外な終わり方

私がこれからみなさんにお話しするお話は、実際に私の身に起こったことであり、意外な終わり方をします。 先日、電車に乗っていましたところ、外を眺める形で扉の前に立っていましたところ、私の左隣の、シートの端っこに座っている小汚めなジジイが、スマートフォンで卑猥な画像を見だしたのです。 少しでも隠しながらの角度で見ればいいものを、膝の上に置いて真上なものですから私はもちろん周囲からは筒抜けでした。 アダルトビデオの真っ最中のところの画像。 動画ではなく、画像でした。(静止画と

【ショートショート】巨大猫

 前に飼っていた猫が亡くなってから半年。  妻が新しい猫をもらってきた。  今度は雄の赤ちゃんで、茶トラだ。毛並みがとても美しい。  猫の成長は早い。半年もすればもう大人だ。  つい先日まで掌に乗っていたと思うのに、もういまでは本棚の上やカーテンレールの上を歩いて、私たちを見おろして威張っている。  五年たった。  我が家の猫はまだ成長を続けている。体長は三メートルくらい。  リビングの床にのび、だらんと身体をひろげるとまるでペルシア絨毯である。  私も妻もよく猫の上で昼寝を