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【短編小説】猫の流動性に関する調査記録

 皆さんご存知の通り、宇宙の遥か彼方に“ネコリス”という惑星があった。“あった”ということは、既に存在しないという意味だ。まずはこの“惑星ネコリス”の消滅について話をしようと思う。
 ネコリスの主成分は水であり、陸地になるような物は存在しない。
 ネコリスを有名にしたのは、その水の特異性にあった。人類がネコリスに降り立って以降、今日で言うところの猫の姿をその水がとり、人類の前に現れるようになった。
 初めは、現地調査チームが設計した居住スペース外の海上にそれらしい、しかし歪な大小の建造物が現れたかと思うと、いつの間にか居住スペース内に猫が姿を表すようになった。
 猫は人類の前に現れた惑星のメッセンジャーなのか?答えは未だわかっていない。
 猫達は人間に干渉するような、はたまたしないような微妙な距離感で存在し続けた。あっちのベッドで寝ているかと思えば、こっちの資料室で紙の資料を爪でばりばりと引き裂いていたりと、行動に一貫性がまるでなかった。
 言葉も「にゃー」としか発せず、会話は難しいと判断された。
 そうこうしている内に居住スペース内は猫で溢れかえるようになった。このことで現地に滞在する調査員の中に、今で言う猫アレルギーの症状を示す者が現れるようになったのは、有名な話であろう。
 猫の無目的さと新たなアレルゲンの発見は人類を不安に陥れたが、それ以上にネコリスは大変な自体に陥っていた。なんとネコリスの構成成分である水がどんどん減少していたのだ。
 これはネコの出現の時期と一致していた。恐らく猫達があまりに気ままなせいで本来惑星に戻るはずだった水分が戻らず、一方で猫がどんどん生まれていた為であろうと推測される。

 ともあれ、人類は大慌てでネコリスを離れる準備をした。人類の不用意な接触がネコリスを滅亡に追いやったのではないか?このネコリス調査プロジェクトは非難の的となったことは、言うまでもない。
 誰にもネコリスの猫化を止める手立てはなく、人類が見守る中で、ネコリスは消滅した。
 そして、猫が宇宙に散らばったのである。

 こうして未知のー今日では当たり前の様にその辺にいる生物、猫は地球に住み着くようになった。
 しかし、一体どうやって猫達はネコリスから地球へやってきたか?
 宇宙飛行士は現状復帰へのわずかな望みのもと、居住スペースに居着いた猫達を残らず惑星に放した為、連れ帰ってはいない。
 答えは、ワープである。詳しくは「猫の移動に関する調査記録」を参照してほしい。
 持ち前のワープ技術を使い、猫達は住み良い環境ーつまり地球にやってきたのである。

 ここで本題に入ろう。
 何故猫は液体に如き柔軟性と流動性を持っているのか?
 皆さんも1度はご覧になったことがあるだろう。体よりも明らかに小さな箱に収まる猫を。狭い通路をぬるりと通り抜けていく猫を。
 答えは1つ。猫は本来、水だからである。
 猫達は、人類に怪しまれない様、最低限の猫の姿は保ちつつ、必要とあれば水としての柔軟性と流動性を活用して生活しているということになる。
 ただし、狭い場所を通ることはさておき、小さな箱や入れ物に自身の体を入れ込もうとする理由は分かっていない。液体故の形の不安定さを隠すためかもしれない。

 また、これは上記記録内にもある“猫量保存の法則”にも触れておきたい。
 ネコリスの水から生まれた存在である猫は、ネコリスの体積分しか存在しない。したがって世界、いや宇宙における猫の量は一定である。という説だ。
 ただし、宇宙全体に散らばった全ての猫を観測することができない今、この猫量保存の法則は未だ賛否を生んでいる。

 今日の記録はここまでとしよう。
 猫研究に更なる発展があることを、願うばかりだ。


※前編です。ゆるく繋がってます。

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