サルバドール

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静けさの中で

母が亡くなった。突然だった。 連絡を受けた翌日、眠れない夜が明けぬうちに飛行機に乗り地元へと帰った。 1ヶ月半振りに母の顔を見た。母は、冷たく硬い頬のまま棺桶に眠っていた。 母とはあまり気が合わず、衝突することが多かった。それでも、一人暮らしを始めてからは母に感謝の気持ちでいっぱいになり、自分の過去が間違いではなかったと思えるようになった。 母に約束したことは何も果たせないままでいた。 伝えたかったことも伝えられていなかった。 耳からお経が聞こえるが、頭の中は後悔の念で

    • [インドネシアソング翻訳]Hati dan Paru-Paru-Lomba Sihir

      今回、Lomba SihirのHati dan Paru-Paruを翻訳しました。Lomba Sihirは、Hindiaとしても活躍するBaskara Putra所属のバンドで、日本語に訳すと呪術コンテスト! 今回紹介する曲は、まさにバンド名のように魔法にかかったようにネガティブなこともポジティブになっちゃう、「なんだかいけそうな気がする!」と思える曲だと思います。 Hati dan Paru-Paru 心臓と肺 Melesat di jantung Nusantara

      • 研究の端しっこで[発話と推論]

        コミュニケーションが上手くいかない場合、発話に問題があるよりも心情だったり発話意図に問題があることがほとんどだ。 人が何かを伝えるとき、そこには「伝達の内容」と「伝達達成のプロセス」が関わる。 そのため、伝達には発話者の意図や効力があると考えられ、聞き手はその伝達(発話内容)をコンテキストに依存しながら推論していく。 例えば、「コーヒーを飲みに行きましょう」という発話があったとする。それを聞いた人の思考は以下のようになる。 a. その発話の意図は話し手がコーヒー好きであ

        • [インドネシアソング翻訳] Awal & Akhir -Arah

          Akankah kita selalu ada Bernapas dalam ruang yang sama Akankah kita selalu satu Bertukar aksara tak berucap ずっといれるだろうか 同じ部屋で息をして ずっと一緒にいれるだろうか 口にしない文字を交わして Pastikan satu dalam rasa Pastikan setiap maknanya Pastikan satu dalam jiwa Meski t

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        • インドネシアポップス
          8本
        • インドネシア映画
          2本

        記事

          [インドネシアソング翻訳] Si Lemah -RAN feat. Hindia

          Hai kau si lemah dalam cermin Mari beradu mata dan mulai bicara Tentang pijar resah yang menyala おい、鏡の中の弱虫 目を合わせて話そう 燃え盛る不安の炎について Benarkah ini yang kau ingin Pura-pura sempurna, kelabui cela Demi aman, nyamanmu tersia これが自分の求めるものだろう 完璧な振

          [インドネシアソング翻訳] Si Lemah -RAN feat. Hindia

          【インドネシア映画】27 Steps of May

          強姦の被害にあった娘(メイ)とその父の話、2019年公開のインドネシア映画“27 Steps of May”がNetflixで公開されたので、さっそく観てみました。 この映画は、スハルト体制末期に起こった、華人に対する人種差別暴動「1998年5月暴動(“Kerusuhan Mei 1998”)」におけるレイプ事件の被害者に焦点を当てた物語となっています。 スハルト体制期のインドネシア経済は華人企業家との結びつきが強く、政府は華人がいなくなると経済が回らなくなることを危惧し

          【インドネシア映画】27 Steps of May

          [インドネシアソング翻訳] Untuk Apa/Untuk Apa? -Hindia

          今回はHindiaの“Untuk apa/UntukApa?”をご紹介したいと思います。 この曲はHindiaのデビューアルバム“Menari Dengan Bayangan” (2019)に収録された曲ですが、2021年8月21日にYouTubeにミュージックビデオがアップロードされてから、話題の曲となっています。 なぜ、2019年に出した曲が今話題かと言うと、ミュージックビデオではインドネシアの新型コロナウイルスのニュースや医療現場などを映しており、その映像と歌詞がイン

          [インドネシアソング翻訳] Untuk Apa/Untuk Apa? -Hindia

          誰もが苦しんでいるという事実

          「多様性」という言葉を用いる時、覚悟が必要に思う。私の口にする「多様性」という言葉が、(無意識に)誰かを傷つけてしまうかもしれない。「知らなかった」だけでは許されない。 先日、シソンヌのライブ[dix]を観た時、ハッとさせられる言葉があった。 「今の時代、誰もが生きやすい分、誰もが苦しんでいるんじゃないのか?」 という言葉だ。 この言葉が出てくるコントは、ある女性社員が初めて役員に選ばれ「私が選ばれたのは、女性だからなのですか?」と聞くところから始まる。そして、実力何

          誰もが苦しんでいるという事実

          父の日

          先日、図書館に行った帰りのこと。空腹に襲われ、ポテトの香りに誘われるままマクドナルドへ入った。 店内はやはり若い人が多かった。学校帰りであろう高校生、ひとりでケータイ片手に過ごす人、カップル…など、コロナ禍であっても客層は以前と変わりないように思った。 そんな中、ある親子の姿が目に入った。小学生くらいの女の子を連れたお父さん、親子だ。 ふと、自分が小学生の頃を思い出した。 日曜日には父とよく映画へ行っていた。映画が始まる前には必ずマクドナルドで食事をし、ハッピーセット

          私の好きなインドネシアポップス

          今回は私の好きなインドネシアポップスについて書きたいと思う。 インドネシアの音楽といえばバリのガムランなどが有名だろう。インドネシアポップスを聞いたことのない人やインドネシアをあまり知らない人からすればどれほど独特な音楽なのだろうと思うかもしれない。しかし、インドネシアポップスは日本人にとって言葉の壁はあるものの楽しめる曲が多い。 今回紹介する曲は完全に私の個人的嗜好ではあるが、気に入ってくれると嬉しい。 Hindia -Secukupnya(必要なだけ)映画"Nant

          私の好きなインドネシアポップス

          コロナ禍、サリエンシーの重なりを考える

          先日、ある喫茶店のオーナーと会ったとき、「この1年(新型コロナウイルスが流行してから)はどうだったか」という話題になった。 聞けば、その方は営業時間短縮により、もともと夜営業のみのお店だったため通常の営業が出来なくなったり、ライブが出来なくなったりした。しかし、営業時間を昼に変更し、ランチを始め、時間ができた分、新しいことに挑戦したりしていた。 その話を聞きながら、「ああ、私の大好きなお店はとても素晴らしいオーナーによってつくられていたんだ」とハッとし、とても感動した。上

          コロナ禍、サリエンシーの重なりを考える

          「女性が活躍できる社会」に対するいくつかの違和感

          近年、「女性が活躍できる社会」という言葉をよく目にする。「能力があっても働けない」や「やりたいことを実現できない」という女性の境遇を変えるべく「女性が活躍できる社会」が主張されるようになった。 そして現在は、各企業が「女性が活躍できる社会」について真剣に考え、実現に向けて取り組んでいる。 就職活動や転職活動を考えている人向けに作られたサイトでは、どれだけ女性の活躍や働きやすさを重視しているかをアピールする会社も少なくない。 他方で、女性を卑下する発言にはとても敏感になった

          「女性が活躍できる社会」に対するいくつかの違和感

          【短編小説】キスをしよう

          終わらない夜など無い。そんなこと分かっている。 ただ、この最高の夜の終わりはまだ訪れて欲しくなかった。 「踏切の音ってファに聞こえますよね」 最初はそれが、独り言なのか僕に向けて発せられた言葉なのか分からなかった。なぜなら、そこには僕と彼女しかいなかったからだ。 僕の肩くらいの身長しかない彼女は、黒いワンピースを着て電車が過ぎるのを待っていた。 電車のライトに照らされた彼女の顔は純日本人のような古風な顔つきだった。電車が通り過ぎる時、彼女のワンピースが花柄だったこと

          【短編小説】キスをしよう

          [インドネシアソング翻訳] Membasuh -Hindia

          インドネシアのHindia (Baskara Putra) によるMembasuhという曲の翻訳をしました。 アルバム『Menari dengan Bayangan』に収録されている曲です。漂う寂しさ、だけど、希望へと導く歌詞の美しさに惹かれました。 Membasuh 洗い流す Selama ini Kunanti Yang kuberikan datang berbalik Tak kunjung pulang Apa pun yang terbilang Di da

          [インドネシアソング翻訳] Membasuh -Hindia

          忘れられない言葉

          高校の先生から頂いた忘れられない言葉がある。 吉田松陰の「夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし。故に、夢なき者に成功なし。」という言葉とともに、夢を語り大切に、と。 吉田松陰は武士であり、思想家であり、教育者であった。 「あなたは、何のために学問をするのか? そして、何をなそうとするのか?」と、松陰は入門を請いに来た若者に問いかけたそうだ。 彼は、「人曰く」でなく「自分はどう考えたらいいか、どう思うか、どう生きて行くか」

          忘れられない言葉

          本当はよく知っている街なのにどんどん知らない街になっていく

          お久しぶりです。少し日が空いてしまいました。 地元で1ヶ月以上過ごすのが約5年ぶり。 歩いていると知っている風景はかろうじてまだそこにある。 友達とふざけて落ちた川、長く通っていた音楽教室、好きな人を見かけたスーパーなど。どれも懐かしい。 それでも、知らないスーパーや家がたくさん建っている。 あれ、ここは前何だったっけ? 思い出せなくなっている。何度も通った道のはずなのに。 知らない風景と思い出せないことに悲しくなった。 スーパーへ向かう途中、見上げると山の方に小学校

          本当はよく知っている街なのにどんどん知らない街になっていく