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    私小説風の短いやつです。特に何も起こりません。

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ショートショート【野犬が減れば熊も出る】

熊に襲われた人が重傷を負う事件が多発している昨今、東北の或る自治体が住宅街で捕獲した熊を殺処分したとのニュースを首都高に乗れば都心から一時間半ほどで着く閑静な住宅街に建てられた一軒家のリビングに設置した65インチのテレビで見た園子はスマホで該自治体役所の電話番号を調べ、さっそくに電話をいれた。 「熊さんを殺処分するのは今すぐやめてください」 「……はい」 「熊さんが人間の生活圏内に姿を見せるようになったのはそもそも人間のせいじゃないですか。森林を伐採し彼らの棲家や餌を奪ったん

    • ショートショート【美しい国の美しい民、日本人】

      日本はいい国です。 蛇口から飲める水が出てきます。 夜道を一人で歩けます。 食べ物は美味しく、健康的です。 街には生活に必要なものは何でも売っています。 都会からであっても電車や車で二時間ほどいけば田園風景を楽しめます。 この素晴らしい国に最近外国人の不法滞在者が増えてきました。 彼らはパスポートを持って飛行機で日本に来ているのに日本についた途端「私は難民だ」と言い始めます。 難民申請をしている間に仕事をしてお金を稼いでも収入の申告はしません。税金を払わないのです。 仕事が

      • ショートショート【絶対に正しい信仰である自信】

        私は国家の転覆を企てたという罪で刑務所に入れられていた。この国では目に見えない神や仏の存在は政治的指導者によって否定されている。 信教の自由は憲法で認められているのだが、それは対外的に体裁を整えているだけだ。国が認めた宗教以外を信じることは基本的に禁じられている。 国が認めた宗教は現世利益を肯定し、死後の世界を否定する。何より国への忠誠を強制する。 私は国が認めない、ある一神教を信じていた。 この刑務所に入れられた者は基本的に死ぬまで拷問を受け続けるのだ。ただし生きて出られ

        • ショートショート【共に生きる社の会】

          A国から飛行機でB国にやってきた男性十人ほどが入管ゲートで騒ぎはじめた。 「わたしたち、じぶんくにかえる、ころされる、わたしたち、なんみーん、なんみーん」 B国代表である首相は彼らを難民として受け入れ都心に近いC街のアパートに入居させ補助金で生活できるようにした。 「彼らに殴られた」 しばらくするとC街の住民が被害を訴えはじめた。B国のルールがわからなくて困っているだろうとあれこれ難民に親切にしてあげると、彼らは、「ありがとー」と言いながら殴りかかってくるというのだ。それで

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          ショートショート【違う! ガシャン!】

          地方の私立芸術大学を卒業した彼は師匠を持たず独学で陶芸家を名乗り今では世界にも名の知れた陶芸家の一人となっていた。 四〇年前、彼は人生最後の個展を開いた。いつも通り彼の作品は一つも売れず最終日の閉展時間を迎えた。彼は売れ残った作品ひとつひとつを床に叩きつけて割った。 「違う! 駄目だ! 色が! 風味が! 僕の求めているものはこんなものじゃない!」 違う! ガシャン! 駄目だ! ガシャン! 彼は思った。叫んで、叩きつけて、割る。この一連の作業こそ大御所陶芸家っぽくないか

          ショートショート【違う! ガシャン!】

          ショートショート【たくさん】

          うちのとなりでひとり暮らしていたおじいさんが昨日から眠ったまま動かない。おじいさんの顔や手はしわくちゃで少ないかみの毛はまっ白で、お昼もほとんど座ったまま寝てて、何を聞いても答えてくれて、面白い話しをたくさん知ってて、楽しい遊びを教えてくれた。 お母さんは、「おじいさんは死んだのよ」といった。 「死ぬってどういうこと?」 「死ぬっていうのはこの世界から別の世界にいくってことよ」 「なぜおじいさんは死んでしまったの?」 「おじいさんはたくさんの朝と夜を見たの。雪がふり、雪がとけ

          ショートショート【たくさん】

          みんな純粋なんだ

          〜タケルくんの最期の気持ち さっきまであれだけ苦しかったに、急に息をするのが楽になってきた。なんだかねむたくなってきちゃった。お母さんの友だちだというサトシおにいちゃんの鬼のような顔がうっすら見える。ああ、僕はこのサトシおにいちゃんによく殴られたなあ。火のついたタバコを手に当たられたこともあったし、寒い日にパンツだけでベランダに出されてホースで水をかけられたりもした。プロレスだと言って投げられたこともあった。ご飯ぬきにされるなんてしょっちゅうだった。シツケだという理由でほんと

          みんな純粋なんだ

          掌外沿を黒く塗れ

          ボールペンを持つ手を止めてはじめて、ラジオの深夜放送が終わり、スピーカーからは微かなノイズが流れていることに気付いた。日曜日の夜、正確に言えば月曜日の早朝は番組の終わる時間が早い。僕はラジオの電源を切った。カーテンの隙間から寒そうな暗闇が見える。大学入試まであと二ヶ月を切っていた。 机の上のノートには yield という単語が並んでいる。頭の中で 「ホイールどうぞと明け渡す」と語呂合わせをしながらボールペンで書いたものだ。筆記と語呂合わせが自分にとっては一番合う記憶方法だと

          掌外沿を黒く塗れ

          短編【あれ以上のもの】

          二九歳の今年、俺は不動産会社を解雇された。 新卒採用で営業職として七年間勤めた。会社は二年連続の赤字決算でリストラ開始が噂されていたけど俺がそのリストに入れられているとは思ってもみなかった。 大学時代はバンド活動にあけくれた。二年生のときに大学内で出会ったメンバーと組んだバンドでプロを目指し積極的にライブ活動を行った。俺はギター・ボーカルだった。ワンマンではなかったが夏休みには主要都市のライブハウスを回るツアーの真似事もした。 四年生になったころからメンバー間に微妙な齟齬

          短編【あれ以上のもの】

          ショートショート【熱いアーティスト】

          「本当はこんなこと言うのはかっこ悪いんだけど」 そのアーティストはギターを担ぎマイクを握りながら、このステージに立たせてもらえたのはファンのみんなのおかげであり、心から感謝していると言った。 「言葉より次の曲は音でみんなにありがとうを伝えるぜ!」 ギンギンガンガンロックフェス。略してギンガンロック三日目の今日、五バンド目にステージに立ったバンド「アディオスンニ」のボーカル、コモヤンが一曲目を終えた際のMCだ。 三曲目が終わりコモヤンがまたマイクを握った。 「俺たちアーティ

          ショートショート【熱いアーティスト】

          ショートショート【死後の保険】

          死ぬのが恐い。 死んだらどうなるのだろう。 もしあの世があって、地獄に落ちるようなことになったら。 そう考えると夜も眠れない。 宗教に救いを求めようと思った。 厳しい修行を積んで悟りを開くというのは私の能力では限界があり無理だ。 凡人の自分でも簡単に救われる教えはないものか。 できるなら二つか三つ信仰しておきたい。 はずれを無くすために。 しばらくして素敵な教えを二つ見つけた。 ひとつはキリスト教だ。 イエスを救い主として受け入れるなら、特別な努力をすることなしに罪は滅

          ショートショート【死後の保険】

          短編小説【大御所とはいえ、その攻め方は難しい】

          七五歳にして三〇回目の来日。 その大御所アーティストは何度も武道館でコンサートを行ってきた。 年齢のこともあり、これがいよいよ本当に最後の来日公演になるだろうと言われている。会場は満席だった。 私は友人とともに正面から少しはずれた二階席の真中あたりで開演を待った。 ステージが明るくなり歓声があがる。ギターが鳴り響いた。 大御所アーティストはいつものようにステージ中央にギターを抱えて立っている。 聞いたことのないイントロだった。きっと新曲だ。二週間後に新しいアルバムが発

          短編小説【大御所とはいえ、その攻め方は難しい】

          ショートショート【作品として】

          「娘にしたい子役ナンバーワン」と呼ばれ、清純派女優として活躍してきた装脱衣子(そうだよりこ)三〇歳がついに作品のなかで脱いだ。 映画『愛。追う。烈号』の上映試写会の日。衣子は舞台挨拶に立った。 「みなさま、本日は私が主演をつとめました映画『愛。追う。烈号』の試写会にお運びいただきまして、まことにありがとうございました。 一部では清純派女優がついに脱いだということで話題になっているようではございますが、そういったことより何よりも私が演じます主人公、ストリッパー桃子の生き様

          ショートショート【作品として】

          ショートショート【こんなはずじゃ】

          右へならえが耐えられなかった。 みんなと同じことを、そつなくこなす。 それができたら褒められる。 何かがおかしい。 息苦しい。 そう思いながらも、自分の感じている疑問にどんな意味があるのかわからず悶々としていたある日、ラジオから聞こえてくる音楽にすべてを持っていかれた。 歪んだギター、タイトでスピード感のあるドラム、重いベース、ハイトーンのボーカル。 これだ、と思った。 感じていた窮屈さの意味がわかった。 人と同じである必要はない。自分らしく生きるんだ。 俺は

          ショートショート【こんなはずじゃ】

          ショートショート【悪いんです】

          知名度だけで選挙に当選し話題作りばかりでまっとうな活動をしない議員が増えていることに対して政治評論家はいう。 「本気で任せたい人がいない。それこそが問題です。政治が悪いんです」 強盗殺人やオレオレ詐欺など若者が凶悪な犯罪に手を染める事件が増えていることに対して政治評論家はいう。 「短絡的にしか自分の人生を考えれない。将来に希望が持てないんです。政治が悪いんです」 貧困層が増えていることに対して政治評論家はいう。 「一億総中流時代なんて遠い昔の話しです。政治が悪いんで

          ショートショート【悪いんです】

          ショートショート【潔い釈明】

          オリンピック金メダリストで現在ではテレビのコメンテーターとして活躍する不破倫子が既婚者の男性と手をつないで歩いているところを写真週刊誌に撮られた。 その写真が撮られたあと、二人は近くのビジネスホテルに五時間ほど滞在して出てきたという。 不破倫子にも旦那がいる。子どももいる。ダブル不倫である。 不破倫子は以前ある既婚男性芸能人が二人の女性と浮気をしていた件に関してテレビ番組で舌鋒するどく批判したことがあった。 曰く「女の敵」「ケダモノ」「公の場所に二度と顔を出すな」「歩く○○

          ショートショート【潔い釈明】