ショートショート【共に生きる社の会】
A国から飛行機でB国にやってきた男性十人ほどが入管ゲートで騒ぎはじめた。
「わたしたち、じぶんくにかえる、ころされる、わたしたち、なんみーん、なんみーん」
B国代表である首相は彼らを難民として受け入れ都心に近いC街のアパートに入居させ補助金で生活できるようにした。
「彼らに殴られた」
しばらくするとC街の住民が被害を訴えはじめた。B国のルールがわからなくて困っているだろうとあれこれ難民に親切にしてあげると、彼らは、「ありがとー」と言いながら殴りかかってくるというのだ。それでC街の住人は何人か怪我をしたという。
「わたしたち、ありがというとき、なぐるです、ぶんかちがう、たよーせー、きょーせーしゃかい、わたしたちかわいそーなひとたち」
難民たちがそういってもB国で暮らす以上、B国のルールは守ってもらわなくてはならない。B国首相は声明を発表した。
「昨今は多様性社会でありますから、A国難民の方々の文化を尊重しつつ共生するために、まず何よりも我が国ではどんな理由があっても一切の暴力は容認できないということをA国難民の方々に訴えさせていただきたいと思わせていただいた次第でございます。同時に我が国の国民には難民の方々の文化を尊重するよう強く強く求めます」
そのうち難民によるC街の未成年女性に対する暴行事件が相次ぐようになった。
「なぐったあと、せくす、する、『ありがとー』のいみ、たよーせー、きょーせーしゃかい、わたしたちかわいそーなひとたち」
C街の住民たちの我慢も限界に達した。住民たちは大挙して難民たちの暮らすアパートに押しかけた。
「あなたたちには出ていってもらうように国に訴えます」
「なぜ、どして、ありがとー、つたえたいだけ」
「私たちの国ではありがとうの気持ちを暴力では伝えないのです」
「たよーせー、あなたたち、りかいする、あなたわたしなぐってみる、わたしおこらない、ありがとーだとわかる、なぐてください、ありがとーのかわりに、わたしなぐてください、きょーせーしゃかい、わたしたちかわいそーなひとたち」
「ようし、わかった。本当にいいんだな。殴っても、ありがとうの意味として受け取るんだな」
C街住民の若い男が難民の前に飛び出してきた。
「なぐてください、ありがとー、だから」
パチン! 住民の若い男は難民の頬を平手で打った。
「お前は痛くないのか? ほんとにこれがお前たちの文化なのか?」
「おー、なぐりましたね、ありがとー、わたしたちもっともっとあなたたちに、ありがとー、つたえたくなりました」
平手をくらった難民の目が鋭く光った。その難民の後ろにいた九人の難民たちが一斉に立ち上がった。彼らの手には大小の刃物が握られていた。
「ありがとー、たよーせー、きょーせーしゃかい、わたしたちかわいーなひとたちー」
難民たちは一斉に住民たちに飛びかかった。
後日首相の声明があった。
「先日、C街においてA国難民の方一人が殴られ怪我をするという事件がおきました。A国難民の方を殴ったC街在住の男性はその場で殴られた難民男性の仲間から刺されて死亡、その他難民の方々の暮らすアパートに大挙して押しかけていたC街住民の十五人が怪我を負いました。A国難民の方々は大勢のC街住民が押し寄せてきたことに恐怖を感じていたところ刺殺された男性がいきなり難民の一人に殴りかかったことでパニックになったということです。難民の方を数で威圧し、いきなり暴力を振るうという野蛮な行為を我々は決して容認するものではありません。怪我を負った難民男性には深くお詫びいたします。多様性社会の共生でありまするから」
ー 終わり ー