ryutaro amano

天野龍太郎。1989年生まれ。東京都出身。音楽やポップカルチャーについての編集とライテ…

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天野龍太郎。1989年生まれ。東京都出身。音楽やポップカルチャーについての編集とライティング。アイドルは相米慎二と黒沢清。

記事一覧

内藤ゆき「炊飯器でお米を炊いて炊けたら終わる演劇『夏の毛になる』」普通炊き公演の感想

 盛夏火の『熱病夢見舞い』を8月9日に見た。もともとマーライオンや九龍ジョーさんが関わっている(?)こともあって、盛夏火という名前を知ってはいたものの、上演を見た…

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2週間前
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映画『彼方のうた』の感想|天使のまなざし

 ポレポレ東中野での上映の最終日に、『彼方のうた』をすべりこみで見た。  多摩川沿いの京王線沿線の風景も、キノコヤも、前作から続投した俳優たちも、ひとつの世界を…

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7か月前
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したため #8 『擬娩』の感想|他者の経験を想像し模倣してみること、あるいは演技についての演劇

 したため#8『擬娩』を見た。せりふにはユーモアと笑いがふんだんに含まれていたものの、緊張感のある演技と展開が常に、最後まで持続していて(それを象徴していたのが、…

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1年前
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ピーピング・トム『マザー』の感想|死の絶対性が生きる者を襲い、波打つ感情は激しいダンスへと変わる

 ベルギーのダンスカンパニー、ピーピング・トムの『マザー』を見た。  私は舞台芸術や演劇については素人なので、ピーピング・トムの公演を見るのは当然はじめて。まず…

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1年前
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額田大志演出、サミュエル・ベケット『いざ最悪の方へ』の感想|テクストと俳優の声、身体との死にものぐるいの格闘

 額田大志演出、サミュエル・ベケットの散文を用いた演劇……と言っていいのか、不思議な公演『いざ最悪の方へ』を神保町のPARA theaterで見た。  『いざ最悪の方へ』を…

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1年前
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屋根裏ハイツ7F公演『父の死と夜ノ森』の感想|生、死、暴力の偶然性、そして死の不可逆性

 STスポットで屋根裏ハイツ7F公演『父の死と夜ノ森』を見た(この上演も、岡崎藝術座の『イミグレ怪談』と同じく、ハスキーさんに教えてもらった)。おもしろかった。………

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1年前
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岡崎藝術座『イミグレ怪談』の感想|幽霊はボーダーを越えるのだろうか?

 岡崎藝術座の『イミグレ怪談』を見た(公演のことは、友人で戯曲を書いているハスキーさんに教えてもらった。わたしは演劇には疎いので、ハスキーさんや同級生の俳優、豊…

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1年前
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YPAM、ヤン・ジェン『ジャスミンタウン』の感想|輝くダンスと言葉が交差させるアイデンティティ、ルーツ、歴史、土地

 最近、演劇やダンス、舞台作品などを以前よりも見ています。わたしは公演を見た帰りに電車の中などでその感想をツイートすることが多いのですが、せっかくなので、それら…

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1年前
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「コンビニのコーヒーはうまいようでなんとなくさみしい」。サニーデイ・サービスの“コンビニのコーヒー”という曲について考え…

 サニーデイ・サービスのニューアルバム『DOKI DOKI』が、1か月ほど前にリリースされた。最高のアルバムだと思う。  もちろん、前作の『いいね!』も大好き。ただ、出た…

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1年前
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メタルを個人的に再考。2010〜2022年の私的メタル名盤30 その1

 なんとなくですが、じぶんのメタル観、メタルというジャンルやスタイルの好きなところ、あるいは好きなミュージシャンやバンドの作品への思いを一度、言語化しておきたい…

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2年前
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映画『春原さんのうた』の感想|「不在」を映す映画

 ない、ない、ない。  いない、いない、いない。  『春原さんのうた』は、端的に言って、「不在」についての映画だ。まかりまちがっても、「喪失」や「欠落」について…

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2年前
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2022年、個人的に勝手に活躍を期待している日本の新人(?)アーティスト17組(artists to watch in 2022)

この記事で紹介しようと思って原稿を書いたのですが、事情があってお蔵入りになってしまったものを、大幅にハイパー加筆修正したうえでここに掲載します。内容はタイトルに…

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2年前
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Roots of 電気グルーヴ ~俺っちの音故郷~(仮)#3: Daniel MillerとMute Recordsに登場した楽曲を紹介

電気グルーヴのYouTube番組『Roots of 電気グルーヴ ~俺っちの音故郷~(仮)』の第3回がアップされました。テーマは「Daniel MillerとMute Records」。 わたしは毎回QJW…

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3年前
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非英語圏/非西洋の音楽のオールタイム・フェイバリット・アルバム30について その1

 ここでは、タイトルにあるとおり、わたしの「非英語圏/非西洋の音楽のオールタイム・フェイバリット・アルバム30」について書きたいと思います。  そもそも、わたしは…

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3年前
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内藤ゆき「炊飯器でお米を炊いて炊けたら終わる演劇『夏の毛になる』」普通炊き公演の感想

内藤ゆき「炊飯器でお米を炊いて炊けたら終わる演劇『夏の毛になる』」普通炊き公演の感想

 盛夏火の『熱病夢見舞い』を8月9日に見た。もともとマーライオンや九龍ジョーさんが関わっている(?)こともあって、盛夏火という名前を知ってはいたものの、上演を見たのは初めてだった。
 いや、なんというか、すごかった。2019年に九龍さんが『夏アニメーション』について「巧拙を超えた演劇の魔法が降り注ぐ」と書いていたけれど、ほんとうに、まさにそんな感じだった。正直に言って、演技はバラバラで、なかなかめ

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映画『彼方のうた』の感想|天使のまなざし

映画『彼方のうた』の感想|天使のまなざし

 ポレポレ東中野での上映の最終日に、『彼方のうた』をすべりこみで見た。

 多摩川沿いの京王線沿線の風景も、キノコヤも、前作から続投した俳優たちも、ひとつの世界を完全に充足するかたちでなしていて、圧倒された。それは、さながら杉田協士ユニバースであって、画も、演出も、俳優たちの演技の間あいやテンポも、画面の中に漂い観客を包みこむ空気感も、すべてがどこまでも杉田の映画の世界だった。終映後のトークイベン

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したため #8 『擬娩』の感想|他者の経験を想像し模倣してみること、あるいは演技についての演劇

したため #8 『擬娩』の感想|他者の経験を想像し模倣してみること、あるいは演技についての演劇

 したため#8『擬娩』を見た。せりふにはユーモアと笑いがふんだんに含まれていたものの、緊張感のある演技と展開が常に、最後まで持続していて(それを象徴していたのが、ステージに張りめぐらされたテグスだろう)、笑っていいのやら、いけないのやら……と混乱しながら見ていた。中盤からは、めちゃくちゃ笑ってしまったけれど。

 擬娩。妻の出産を夫が模倣する習俗のこと、らしい。
 この変わった風習は、作品の主題で

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ピーピング・トム『マザー』の感想|死の絶対性が生きる者を襲い、波打つ感情は激しいダンスへと変わる

ピーピング・トム『マザー』の感想|死の絶対性が生きる者を襲い、波打つ感情は激しいダンスへと変わる

 ベルギーのダンスカンパニー、ピーピング・トムの『マザー』を見た。

 私は舞台芸術や演劇については素人なので、ピーピング・トムの公演を見るのは当然はじめて。まずは、ユーモアがふんだんに盛りこまれていたことに驚いた。
 けれども、それと同じくらいに悲痛な感情が詰めこまれた作品で、生と死をめぐる表現は、そういう表現に対して最近、特に敏感になっている自分にとって、心理的にけっこうしんどくもあった。それ

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額田大志演出、サミュエル・ベケット『いざ最悪の方へ』の感想|テクストと俳優の声、身体との死にものぐるいの格闘

額田大志演出、サミュエル・ベケット『いざ最悪の方へ』の感想|テクストと俳優の声、身体との死にものぐるいの格闘

 額田大志演出、サミュエル・ベケットの散文を用いた演劇……と言っていいのか、不思議な公演『いざ最悪の方へ』を神保町のPARA theaterで見た。

 『いざ最悪の方へ』を見て、もっとも強く感じたことは、ベケットによって書かれたテクスト、しかも翻訳されたテクストとの格闘だった。ベケットのテクストとの、くんずほぐれつの、死にものぐるいの、取っ組み合いの喧嘩が、ひたすら上演されていたのだ。
 『いざ

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屋根裏ハイツ7F公演『父の死と夜ノ森』の感想|生、死、暴力の偶然性、そして死の不可逆性

屋根裏ハイツ7F公演『父の死と夜ノ森』の感想|生、死、暴力の偶然性、そして死の不可逆性

 STスポットで屋根裏ハイツ7F公演『父の死と夜ノ森』を見た(この上演も、岡崎藝術座の『イミグレ怪談』と同じく、ハスキーさんに教えてもらった)。おもしろかった。……というか、ラストシーンがなんとも怖くて、鳥肌が立った。

 『父の死と夜ノ森』で語られたのは、生と静かに対峙する、いくつもの死や暴力だった。生がきわめてランダムで偶然であるように、生に振りかざされる暴力も、それによる(または、それによら

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岡崎藝術座『イミグレ怪談』の感想|幽霊はボーダーを越えるのだろうか?

岡崎藝術座『イミグレ怪談』の感想|幽霊はボーダーを越えるのだろうか?

 岡崎藝術座の『イミグレ怪談』を見た(公演のことは、友人で戯曲を書いているハスキーさんに教えてもらった。わたしは演劇には疎いので、ハスキーさんや同級生の俳優、豊島晴香さんに色々と教えてもらっている)。終始、なんだか軽薄で、おもしろおかしくて、かなりニヤニヤしてしまった。けれども、そのユーモアや軽さと裏腹に、劇のテーマは侵略と移民、植民、戦争などで、かなりヘビーかつアクチュアルだった(「最近、おんな

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YPAM、ヤン・ジェン『ジャスミンタウン』の感想|輝くダンスと言葉が交差させるアイデンティティ、ルーツ、歴史、土地

YPAM、ヤン・ジェン『ジャスミンタウン』の感想|輝くダンスと言葉が交差させるアイデンティティ、ルーツ、歴史、土地

 最近、演劇やダンス、舞台作品などを以前よりも見ています。わたしは公演を見た帰りに電車の中などでその感想をツイートすることが多いのですが、せっかくなので、それらをアーカイブしておこうと思いました。というのも、自分は過去のツイートをすぐに消してしまうくせがあるから。直近のもので無事に残っていたのは、2022年12月10日にKAAT 神奈川芸術劇場で見た『ジャスミンタウン』の感想でした。
 その前に、

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「コンビニのコーヒーはうまいようでなんとなくさみしい」。サニーデイ・サービスの“コンビニのコーヒー”という曲について考えること

「コンビニのコーヒーはうまいようでなんとなくさみしい」。サニーデイ・サービスの“コンビニのコーヒー”という曲について考えること

 サニーデイ・サービスのニューアルバム『DOKI DOKI』が、1か月ほど前にリリースされた。最高のアルバムだと思う。
 もちろん、前作の『いいね!』も大好き。ただ、出た当時は痛快で爽快なロックンロールレコードだという印象で驚いたけれど、もっと突き抜けた『DOKI DOKI』がリリースされた今になってみると、『いいね!』はブルーな陰りがある作品のようにも思える。新しいドラマーの大工原幹雄さんと録音

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メタルを個人的に再考。2010〜2022年の私的メタル名盤30 その1

メタルを個人的に再考。2010〜2022年の私的メタル名盤30 その1

 なんとなくですが、じぶんのメタル観、メタルというジャンルやスタイルの好きなところ、あるいは好きなミュージシャンやバンドの作品への思いを一度、言語化しておきたいと思いました。

 それには、いくつかの理由があります。
 まず、最近、キング・クリムゾンやラッシュの作品を聞き返していて(前者はYouTuberの動画、後者は『ムーヴィング・ピクチャーズ』の40周年盤のリイシューがきっかけでした)、そこか

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映画『春原さんのうた』の感想|「不在」を映す映画

映画『春原さんのうた』の感想|「不在」を映す映画

 ない、ない、ない。

 いない、いない、いない。

 『春原さんのうた』は、端的に言って、「不在」についての映画だ。まかりまちがっても、「喪失」や「欠落」についての映画では、けっしてないはず。なぜなら、過去に「あったもの」の「喪失」や「欠落」は、いつか埋めあわせられないといけないのであり、回復されたり、癒されたり、忘れられたりしないといけないからである(それこそ、『ドライブ・マイ・カー』のように

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2022年、個人的に勝手に活躍を期待している日本の新人(?)アーティスト17組(artists to watch in 2022)

2022年、個人的に勝手に活躍を期待している日本の新人(?)アーティスト17組(artists to watch in 2022)

この記事で紹介しようと思って原稿を書いたのですが、事情があってお蔵入りになってしまったものを、大幅にハイパー加筆修正したうえでここに掲載します。内容はタイトルにあるとおり(17って中途半端な数字だな~)! 以下、順不同で敬称略。

あと、これを読んだみなさんのおすすめのアーティストも、ぜひ教えてください。

Yank!
2016年に結成された東京の4人組、Yank!。サイケデリックロック、ポストパ

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Roots of 電気グルーヴ ~俺っちの音故郷~(仮)#3: Daniel MillerとMute Recordsに登場した楽曲を紹介

Roots of 電気グルーヴ ~俺っちの音故郷~(仮)#3: Daniel MillerとMute Recordsに登場した楽曲を紹介

電気グルーヴのYouTube番組『Roots of 電気グルーヴ ~俺っちの音故郷~(仮)』の第3回がアップされました。テーマは「Daniel MillerとMute Records」。

わたしは毎回QJWebでそのテキスト版を担当しているのですが、今回、原稿に仕込んでおいたアンオフィシャルなYouTube動画がすべてカットされてしまったので、ここではそれらと記事に掲載された楽曲をあらためて紹介

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非英語圏/非西洋の音楽のオールタイム・フェイバリット・アルバム30について その1

非英語圏/非西洋の音楽のオールタイム・フェイバリット・アルバム30について その1

 ここでは、タイトルにあるとおり、わたしの「非英語圏/非西洋の音楽のオールタイム・フェイバリット・アルバム30」について書きたいと思います。

 そもそも、わたしは、noteというか、ブログですらきちんと続けたり、使いこなしたりできたことがないわけですが、最近のあれやこれやで、noteをつかうのが早くもいやになってきました(そう思っているひとも多いのでは)。とはいえ、代替のプラットフォームも思いつ

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