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【書評】オスカー・ワイルド『ドリアン・グレイの肖像』は、イケメンが過度な承認欲求で身を滅ぼす話
ロッシーです。
オスカー・ワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』を読みました。
想像以上に面白い作品でした!
130年前の作品だとは思えません。
ざっくりとしたあらすじは、以下のとおりです。
「美しい青年ドリアン・グレイが、自身の肖像画に老いや罪を負わせ、自身は永遠の若さを保つが、彼は堕落した生活を送り、自らの美に執着する。自分の罪が刻まれた肖像画に耐えきれなくなり破壊しようとした瞬間、彼は命を落とし、醜く老いた姿で発見される。」
この作品を読んで、「まさに現代に通じる話だ!」と思いました。今のSNS時代に生きる私たちにとって、ドリアンの破滅は他人事ではないと思うのです。他人からの評価に依存することがどれほど危険か、そしてそのリスクはSNSによって、人類史上かつてないほど高まっているからです。
ドリアンは、最初は画家バジルに美しい肖像画を描いてもらったことで、ますます自分の外見に夢中になります。彼は自分の美を永遠に保ちたいと願い、肖像画が年老いていく代わりに、彼自身はずっと若く美しいままでいられることを望みます(実際そのとおりになります)。
今の時代で言うと、SNSで「完璧な自分」を作り上げて、それを他人に見せるようなものです。肖像画は自分の投稿画面のようなものですね。
ドリアンは、友人のヘンリー卿から「美こそが人生の本質だ」と教えられ、その言葉に従って快楽を追い求め、周りを傷つけながらも自分の美を守り続けます。これは、現代で言うと、他人からの承認を求めすぎることと同じです。
SNSでは、たくさんの「いいね」やフォロワー数が、まるで自分の価値を証明するような感覚を与えてくれます。そういうものを追い求め、それを得ることの満足感に頼っていると、次第にもっともっと承認を求めるようになり、最終的には自分を見失ってしまうのでしょう。ドリアンが快楽に溺れ、どんどん内面が空虚になっていったのと同じように、過度な承認欲求は身を滅ぼすわけです。
SNSの発達により、現代のドリアンはいたるところに存在しているのではないでしょうか。
しかも、ドリアンの場合はルッキズムを追い求めるだけでしたが、現代のドリアンにとっては、もはやそれだけが外見ではありません。自分のライフスタイル、仕事、生活水準、年収など、様々なものも含めて「外見」に含まれているわけです。つまり承認欲求の対象となる「外見」の定義が、さらに拡大しているわけです。
どんな人であっても、自分にとっての「外見」が見つかる時代。そして、SNSを使って承認欲求を満たせる時代になっているのです。
でも、そのような「外見」を追求しても、本当の自分自身の内面が充実していなければ、結局は空虚感に悩むことになるわけです。
本書を読んで、改めて自分自身を見失わないようにしたいものだと思いました。誰もが現代のドリアンになってしまう可能性がありますからね。
まあ、そういった教訓めいた部分もありますが、本書の面白さは、ストーリーよりも会話にあると個人的には思いました。
主人公ドリアン・グレイの友人にヘンリー卿という登場人物がいるのですが、この人物のセリフが機知、逆説、皮肉に満ちていて面白いのなんのって。完全に主役を食ってしまっています。
以下、いくつかヘンリー卿のセリフを挙げてみます。
「良心と臆病とは、結局は同じものだよ、バジル。世間じゃ、良心という屋号で通っているがね。それだけのことだ。」
「結婚生活の一つの魅力は、虚偽の生活がお互いに絶対必要になることだ。」
「ああ、兄弟! 兄弟ってのは気に入らないね。私の兄はなかなか死んでくれないし、弟たちは、死ぬこと以外なにもしやしないし」
「(アメリカは)天国ですよ。だからこそ、(アメリカの女性は)イヴのように外に出たがっているのです」
「慈善家は人間の気持ちなんてすっかりわからなくなっていますからね。それが慈善家の顕著な特徴です」
「男はどんな女性とも幸せになれるんです、愛してさえいなければ」
「世間が不道徳と呼ぶ本は、世間自身の恥を世間に示している本にすぎない。」
「生涯で一度しか恋をしないような人間は浅薄な人間だ。忠誠心、誠実さなんて呼ばれているものは、私に言わせれば、習慣の惰性ないしは想像力の欠如だ。」
こういうセリフがいたるところに出てきます。個人的にはヘンリー卿の会話ばかりのスピンオフ作品を作ってもらいたかったですね(笑)。
ヘンリー卿のセリフを読むだけの目的であっても、本書を手に取る価値はあると思います。
とにかく、『ドリアン・グレイの肖像』は現代に通じる作品です。楽しく読めると思いますのでぜひ興味のある方は一読をおすすめします!
「人生には選ばなければならない瞬間がある。自分自身の人生を充分に、完全に、徹底的に生きるか、社会が偽善から要求する偽の、浅薄な、堕落した人生をだらだらと続けるかの、どちらかを。」by オスカー・ワイルド
最後までお読みいただきありがとうございます。
Thank you for reading!