【書評】バルザック『ゴリオ爺さん』は、欲望・野心・お金・悪・出世を描いた現代に通じる作品。
ロッシーです。
バルザックの『ゴリオ爺さん』を再読しました。やはり、何度読んでも傑作です!
今回読んだのは新潮文庫版です。光文社古典新訳文庫だと、1386円もするんですね・・・びっくり。
最近は、文庫本もだいぶ値上がりしているようです。文庫なのに1000円越えも珍しくありません。インフレの波が本にも及んでいるのでしょうか。本好きにはなかなかツライですね(涙)。
世界の十大小説のひとつ
それはともかく、『ゴリオ爺さん』は本当に面白いです。
タイトルに「爺さん」とあるので、
「ん?どこかの爺さんの話?なんかつまらなそう」
という印象を与えるかもしれませんが、そんなことは全くありません!
日本では、元『週刊プレイボーイ』編集長の島地勝彦氏がイチオシですし、海外では、サマーセット・モームの『世界の十大小説』に挙げられています(私は、島地勝彦氏がおすすめしていたので読みました)。
だから、本書の面白さは折り紙付きといえるでしょう!
ただ、ひとつ注意点があります。
この『ゴリオ爺さん』は、最初の数十ページは「つまらない描写」が延々と続きます。
でも、あきらめたらそこで読書終了です。そこは頑張って読み進んでください。そうすれば、きっと楽しい読書体験が待っていることでしょう!
※以下ネタバレ注意
色んな読み方ができる懐の広さ
とにかく、この小説はいろんな読み方ができます。
「過度な父性愛により娘達を甘やかすが、結局娘達からはそれに見合う愛情を受け取れずに死んでいく親馬鹿のゴリオ氏の物語」
という悲劇(喜劇?)という読み方もできますし、
「パリの社交界で出世をしようと目論む若き学生のラスティニャックが、偽善と虚栄にまみれた世界を知っていくことで、成長していく物語」
というビルドゥングスロマンでもあり、
「いくら頑張って働いても、資本を保有し労働する必要がない者達には勝てない。という階級社会の現実を描いた作品。」
という社会構造に切り込んだ読み方もできるでしょう。
とにかく懐が広い!
また、当時のパリや貴族社会の様子も描かれているので、そういう風俗・習慣を知ることができるのも楽しいです。
細かい部分も興味深いです。ゴリオ爺さんが、「ウクライナで小麦を仕入れるんじゃ」みたいなことを言っていて、「ああ、やっぱりウクライナは昔から穀倉地帯だったんだなぁ」なんていう気付きが得られたりもします。
登場人物(特に悪役)が魅力的
さて、『ゴリオ爺さん』は、出てくる登場人物もそれぞれクセが強いです。その中でも特に魅力的なのが「ヴォートラン」です。
ヴォートランは大悪党で、裏の世界の親分のような存在です。彼はラスティニャックに対して、
「自分の言うとおりにすれば、大金持ちの令嬢と結婚して一気に金持ちになることができるぞ。」
と、メフィストフェレスのごとく、悪魔のささやき的な取引をもちかけます。
その際にヴォートランが語る悪徳哲学が非常に面白いんですよね。
ざっくり書くとこんな感じです。
「人間は誰もかれも多かれ少なくて悪事に無関係のやつなどいない。金持ちだって、どこかで過去に悪いことをしたから金持ちになっている。だから金持ちから金を奪うことをためらう必要はない。」
「金持ちになりたいなら、お前さんのように勉学に励み、一生懸命働いたってたかが知れているだろう。そんなことより、金持ちの女を見つけて結婚するのが一番近道だ。」
「原理原則なんてものはない。あるのは出来事だけだ。法則なんてものはない。あるのは状況だけだ。」
などなど・・・その他にも読んでいて「ハッとする」内容を語ります。
いや~悪い奴ほど魅力的といいますが、このヴォートランはまさにそのとおりです。作者のバルザックが最も愛した登場人物だといわれていますが、それも分かります。
とにかく、個人的にはヴォートランを知るためだけにでも読んでもらいたい作品ですね。悪の魅力にぜひ触れてほしいと思います。
あなたの野心・出世欲を刺激する
最後に、ラスティニャックはパリを見下ろして
「さあ今度は、おれとお前の勝負だ!」
と叫びます。印象的なシーンです。
小説はそこで終わりますが、バルザックの『人間喜劇』というシリーズ作品において、ラスティニャックはその後出世していき、最後は大臣にまで昇りつめるようです。
青年ラスティニャックが『ゴリオ爺さん』において得た教訓を、彼はしっかりと血肉にし、見事にパリという社会に勝利したのかもしれませんね。
ただ、本当にラスティニャックは勝負に勝ったのでしょうか?
そもそも人生は勝ち負けの話なのでしょうか?
なんて私は考えてしまいますが、これから社会に出て働こうとする若い学生には、本当におすすめです。本書を読めば、
「絶対に出世してやる!」
というあなたの野心に、おおいに火をつけてくれるでしょう!!
もちろん、サラリーマンの方にもおすすめです。本書を読んだサラリーマンは、出世欲に火が付き、
「さあ今度は、おれとお前の勝負だ!」
と会社に向かって叫んでいるはずです(笑)。
そんな皆様の出世を祈りつつ・・・。
とにかくぜひ一読してみてください!
最後までお読みいただきありがとうございます。
Thank you for reading!