吉本 俊二

最近は読書感想文が多いです。ごくたまに時事問題、映画・アートなどの話題も取り上げます。…

吉本 俊二

最近は読書感想文が多いです。ごくたまに時事問題、映画・アートなどの話題も取り上げます。趣味で撮っている写真も時々アップします。

マガジン

  • 本読みの記録(2024)

    ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2024年刊行の書籍。

  • 本読みの記録(2023)

    ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2023年刊行の書籍。

  • エセー

    社会の出来事について、身辺の些事について、おりおりに思ったことを綴っていきます。

  • そして映画はつづく

    ZAQブログ『コラムニスト宣言』に発表した映画レビュー記事がベース。ZAQ-BLOGariのサービス停止に伴い、記事に加筆修正をほどこしたうえでこちらに移行しました。DVD化されている作品に関するテキストを収録しています。封切り作品に関するレビューも随時加えていきます。

  • フォト・アルバム『非決定的瞬間』(2023-)

    私が撮った写真あれこれ。なおマガジンのカバー画像は、2023年2~5月に大阪・国立国際美術館で開催された「特集展示:メル・ボックナー」の作品展示の一部を撮影したものです。

最近の記事

破壊と創造の日々を振り返る〜『イーロン・ショック』

◆笹本裕著『イーロン・ショック 元Twitterジャパン社長が見た「破壊と創造」の215日』 出版社:文藝春秋 発売時期:2024年8月 著者はイーロン・マスクによってTwitter Japan社長の座を追われた人物。イーロンが乗り込んできて退職するまでを綴っています。騒動の渦中にいた当事者の手記ですから、当然、読み物としての面白さを期待したのですが、具体的なファクトの記述は断片的で、おまけに主観的な寸評が入り混じっているため、イーロンの人物像が明瞭に立ち上がってきません。

    • ひとりひとりのささやきは無力ではない〜『彼女たちの戦争』

      ◆小林エリカ著『彼女たちの戦争 嵐の中のささやきよ!』 出版社:筑摩書房 発売時期:2024年2月 様々な分野で活動した女性たちの〈戦い〉の軌跡を列伝の形で素描した本です。登場人物はまことに多彩。アナキストの伊藤野枝。DNAの二重らせん構造のX線写真撮影に成功したロザリンド・フランクリン。パリで物理学を研究した湯浅年子。芸姑から女優になった貞奴。彫刻家のカミーユ・クローデール……。 彼女たちにはそれぞれにそれぞれの「戦い」がありました。その戦いのあらましが簡潔に記されてい

      • 風景画がもたらした美しい景色への感動〜『名画の力』

        ◆宮下規久朗著『名画の力』 出版社:光文社 発売時期:2024年7月 美術史家によるエッセイ集で、産経新聞に連載しているエッセイを中心にまとめたものです。同紙連載からの書籍化としては五冊目になるらしい。 基本的には著者自身が観た展覧会のレビューが軸になっていますが、テーマやコンセプトごとに編集に工夫を凝らしているので、単調な感じはしません。古代エジプトの「死者の書」から現代アートまで、文字どおり世界の美術史をざっくりとカバーした内容です。 とりわけ印象深かったのは〈知ら

        • 人生のやめどきは別のもののはじめどき!?〜『最期はひとり』

          ◆上野千鶴子、樋口恵子著『最期はひとり 80歳からの人生のやめどき』 出版社:マガジンハウス 発売時期:2023年7月 NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」理事長の樋口恵子と社会学者・上野千鶴子の二人が様々なやめどきを語り合いました。家族のやめどき。人間関係のやめどき。仕事のやめどき。自立のやめどき。人生のやめどき。 本書は2020年に刊行された単行本『人生のやめどき』の増補版。新たに行われた対談が一篇追加されています。 例によって年長者にも遠慮のない上野の姿勢が対

        破壊と創造の日々を振り返る〜『イーロン・ショック』

        マガジン

        • 本読みの記録(2024)
          30本
        • 本読みの記録(2023)
          42本
        • エセー
          5本
        • そして映画はつづく
          78本
        • フォト・アルバム『非決定的瞬間』(2023-)
          6本
        • 本読みの記録(2021-2022)
          8本

        記事

          悪政に利用されないための議論〜『スポーツウォッシング』

          ◆西村章著『スポーツウォッシング なぜ〈勇気と感動〉は利用されるのか』 出版社:集英社 発売時期:2023年11月 スポーツウォッシング。「為政者などに都合の悪い社会の歪みや矛盾を、スポーツを使うことで人々の気をそらせて覆い隠す行為」を指します。 なるほど2021年の東京五輪開催時には、そのような言葉こそ使われなかったものの、五輪の目眩まし的な性格を指摘する声は少なくありませんでした。国際的なスポーツイベントが悪政の隠蔽に利用されることは人々の実感としてもよく理解できるこ

          悪政に利用されないための議論〜『スポーツウォッシング』

          私たち自身の問題として考える〜『中学生から知りたいパレスチナのこと』

          ◆岡真理、小山哲、藤原辰史著『中学生から知りたいパレスチナのこと』 出版社:ミシマ社 発売時期:2024年7月 パレスチナの問題は素人にはわかりにくい。わからないので関連のニュースからも遠ざかり、ますます他人事になってしまう。そうした悪循環は何もパレスチナ問題に限らないのですが、本書に展開される議論を読めばそのような悪循環を断ち切る一つの契機になりうるかもしれません。 アラブ、ポーランド、ドイツを専門とする三人の研究者が登場します。三者の視点によって「パレスチナ問題」がよ

          私たち自身の問題として考える〜『中学生から知りたいパレスチナのこと』

          いつまでも迷子であり続けるために〜『迷子手帳』

          ◆穂村弘著『迷子手帳』 出版社:講談社 発売時期:2024年5月 「いつまでも迷子であり続ける人のための手帳」という触れ込みのエッセイ集。不本意ながら迷子になっている人を勇気づけるような本ならふつうに存在するでしょうが、「迷子であり続ける人のため」の本というコンセプトは貴重かもしれません。 クリスマスに自分へのご褒美として銀座の高級時計店でチュードル・クロノタイムを買った日のこと。離婚した友人から聞かされた元妻の秘密。……様々な思い出がときに悔恨や苦い思いを伴って綴られて

          いつまでも迷子であり続けるために〜『迷子手帳』

          経済・政治・教育の三分野を考える〜『日本の未来、本当に大丈夫なんですか会議』

          ◆西田亮介、安田洋祐著『経済学✕社会学で社会課題を解決する 日本の未来、本当に大丈夫なんですか会議』 出版社:日本実業出版社 発売時期:2024年6月 日本の未来を考えるとき、今やあまり楽観的になれる材料は見当たりません。経済は長らく低空飛行が続いている。政治も腐敗や不正がいっこうにただされる気配がない。天然資源がないのでマンパワーでやっていくしかないのに、肝心の教育も冴えない──。バブルという過去の成功体験にすがったまま、気づけば半世紀近く。「日本、本当に大丈夫?」。そこ

          経済・政治・教育の三分野を考える〜『日本の未来、本当に大丈夫なんですか会議』

          多彩な宮内ワールドを楽しむ〜『国歌を作った男』

          ◆宮内悠介著『国歌を作った男』 出版社:講談社 発売時期:2024年2月 宮内悠介の短編集。13篇が収録されていますが、SF、ミステリ、名作のパロディ、純文学的作品とテイストはバラエティに富んでいます。 とりわけ「歴史改変SF」に宮内の才気がいかんなく発揮されているように思いました。 たとえば〈パニック──一九六五年のSNS〉は、実在した作家・開高健が戦時下のベトナムに従軍特派員として赴いた際に、一時「行方不明」と報道された事実をベースにした作品。世間から「自己責任」なる

          多彩な宮内ワールドを楽しむ〜『国歌を作った男』

          アニミズムに基づく社会へ〜『資本主義の次に来る世界』

          ◆ジェイソン・ヒッケル著『資本主義の次に来る世界』(野中香方子訳) 出版社:東洋経済新報社 発売時期:2023年3月 資本主義の問題点を指摘する書物はすでに多く刊行されていますが、本書は経済人類学者によるポスト資本主義の書です。 誰もが指摘してきたように、資本主義を駆動する成長志向のメカニズムは人間のニーズを満たすのではなく、満たさないようにすることが目的です。あれを買えば次はこれを、これを買えば次はあれを、という具合に。ゆえに人の欲望は際限なく膨張させられ、消費へと導か

          アニミズムに基づく社会へ〜『資本主義の次に来る世界』

          歌姫と孤独な男の物語〜『青い煮凝り』

          ◆エドワード・ゴーリー著『青い煮凝り』(柴田元幸訳) 出版社:河出書房新社 発売時期:2024年4月 不思議な味わいのある絵本です。歌姫カヴィッリアとその狂信的なファンである孤独な男ジャスパーの悲劇的な運命を、簡潔な文章と「細密な線画」で表現しています。 作者エドワード・ゴーリーはアメリカの絵本作家。1925年シカゴ生まれで2000年に他界しました。独特の韻を踏んだ文章とモノクローム線画でユニークな作品を数多く遺しました。サミュエル・ベケットの作品の挿画のほか劇場の舞台美

          歌姫と孤独な男の物語〜『青い煮凝り』

          源ちゃん節を味わうには適切な一冊!?〜『「不適切」ってなんだっけ』

          ◆高橋源一郎著『「不適切」ってなんだっけ これは、アレじゃない』 出版社:毎日新聞出版 発売時期:2024年5月 高橋源一郎がサンデー毎日に連載しているエッセイの単行本化。 『これは、アレだな』 『だいたい夫が先に死ぬ これも、アレだな』につづく第三弾です。 テレビドラマ『不適切にもほどがある!』への言及に始まって、「不適切」とされた大江健三郎や深沢七郎の小説へと話をすすめる冒頭の一篇から源ちゃん節が全開。「倍速」視聴の時代にあえて宮沢章夫の『時間のかかる読書』を取り出し

          源ちゃん節を味わうには適切な一冊!?〜『「不適切」ってなんだっけ』

          人類社会の平和を考えるための鍵言葉!?〜『共感革命』

          ◆山極壽一著『共感革命 社交する人類の進化と未来』 出版社:河出書房新社 発売時期:2023年10月 共感力。これが本書のキーワード。人類の歴史において「認知革命」の前に起きた「共感革命」こそがその後の人類史に大きな影響を与えたというのが本書の基本認識です。 共感革命とは何でしょうか。 人類は言葉の発明以前に共感する力を身につけた。共感によって仲間とつながり、大きな集団を形成し、強大な力を手にした──。その一連の過程を本書では共感革命と呼びます。 人類が二足歩行を選択し

          人類社会の平和を考えるための鍵言葉!?〜『共感革命』

          思想史の大きな流れから学ぶ〜『自由とセキュリティ』

          ◆杉田敦著『自由とセキュリティ』 出版社:集英社 発売時期:2024年5月 新型コロナウイルスによるパンデミックでは、世界各国で感染症対策として種々の行動制限が行われました。それは現代社会の普遍的価値となった個人の自由と衝突する場面を増やすことになりました。もっとも日本では公衆衛生の観点から個人の自由がある程度制限されるのはやむを得ないという認識が広く共有されていたように感じられます。セキュリティを重視し個人の自由を制限する方向に一定の理解が集まったのです。 政治学者の杉

          思想史の大きな流れから学ぶ〜『自由とセキュリティ』

          安心を求めてはいけない!?〜『嘘の真理』

          ◆ジャン=リュック・ナンシー著『嘘の真理』(柿並良佑訳) 出版社:講談社 発売時期:2024年5月 「なぜ嘘をついてはいけないの?」と子どもに聞かれたら何と答えたらいいでしょうか。そもそも嘘はすべていけないものだと言い切れるでしょうか。そういえば日本では「嘘も方便」という格言がありますね。 フランスの哲学者ジャン=リュック・ナンシーが「嘘」について哲学する。哲学といっても本書は子どもを対象にした講演と質疑応答から構成されているので、字面的には難しいところはまったくありませ

          安心を求めてはいけない!?〜『嘘の真理』

          惨状の背景を理解するために〜『なるほどそうだったのか! ハマスとガザ戦争』

          ◆高橋和夫著『なるほどそうだったのか! ハマスとガザ戦争』 出版社:幻冬舎 発売時期:2024年4月 独特の語り口で人気を集める研究者が錯綜した中東情勢をわかりやすく解説した本です。 なぜ、産業のないガザ地区で、ハマスが生き延びてこられたのか? なぜ、タイ人の人質が多く取られたのか? ハマスはどれくらい民衆の支持を得ているのか? ……一見素朴な疑問にも答えるべく、簡にして要を得た説明で読者を引っ張っていく。例によってパレスチナの問題を宗教的な側面にのみスポットをあてて考

          惨状の背景を理解するために〜『なるほどそうだったのか! ハマスとガザ戦争』