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給料は国の経済を映し出す〜『データで見る日本経済の現在地』

◆明石順平著『データで見る日本経済の現在地 働くときに知っておきたい「自分ごと」のお金の話』
出版社:大和書房
発売時期:2023年5月

経済にも詳しい弁護士の明石順平が、日本経済の現状についてわかりやすく解説しています。標題どおりデータに基づいた分析なので説得力充分、『アベノミクスによろしく』で安倍政権の金融政策を批判した人であるからして、行政への苦言も容赦ありません。

その意味では過去十年の経済政策の成果を検証する2章が本書の読みどころの一つといっていいでしょう。ここでももっぱらアベノミクスが主要な論題になっているのですが、失業率改善や株価上昇といった安倍政権のプラスの成果と評されている問題についても手厳しい評価を下しているのが目を引きます。

失業率の改善については、民主党政権時から続いている改善傾向が継続しているだけで、アベノミクスとは無関係であることを統計に基づいて立証しています。株価上昇に関しては、日本銀行とGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が大量に株を買い支えてきた事実を指摘して、株価が暴落した場合、日銀もGPIFも莫大な損失を出すことになると注意を喚起しています。

さらに安倍政権の問題として、データの取り扱いに関して疑義を呈しているのも『アベノミクスによろしく』でもおなじみの論点です。虚言の多いことで知られた宰相ですが、行政の統計に関しても同様のいかがわしさが見られます。一例だけ挙げると、GDPの算出方法の変更です。詳細は省きますが、この変更によってGDPが大きくかさ上げされました。GDP改定要因については最新の国民経済計算という基準で算出することにしたことになっていますが、それに加えて「その他」という曖昧な要因も挙げられていて実態は不透明なのです。

国民の貧富と租税負担の関係をみると、そもそも日本は他の先進国と比べると租税負担は軽い。また他の国のデータをみれば、消費税負担が重くても賃金が上がっていれば経済成長することがわかります。与野党間の論戦では相変わらず消費税をめぐって熱い論戦が繰り広げられていますが、本書の立場はそれよりもっと議論すべき問題があるというものです。

……重要なのは賃金だ。「悪いのは消費税」という主張は、事実に反するうえ、「賃金低迷」という真の経済停滞要因を隠してしまう。(p150)

この箇所は本書の見識を明快に示すものとして、とりわけ注目に値するでしょう。

生産年齢人口が減って高齢者が増えるという人口問題については、その対策に「一発逆転の名案」はないとはっきり述べています。そういう時、「一番危険なのは、思考停止し、一発逆転を期待して極端な思想の政治家に任せてしまうこと」。今後の展望はけっして明るいものではないけれど、だからこそ国民としての知的成熟度が問われるのです。

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