未来に光はあるのか!?〜『人類の終着点』
◆エマニュエル・トッド、マルクス・ガブリエル、フランシス・フクヤマほか著『人類の終着点 戦争、AI、ヒューマニティの未来』
出版社:朝日新聞出版
発売時期:2024年2月
朝日地球会議での議論を書籍化したものです。エマニュエル・トッド、フランシス・フクヤマ、マルクス・ガブリエル、スティーブ・ローのインタビュー、メレディス・ウィテカー+安宅和人+手塚眞の鼎談、岩間陽子+中島隆博の対談で構成されています。
国際安全保障とAIが本書の二大テーマ。
トッドの議論はいかにも「親ロ派」の論客らしく、ウクライナに侵攻したロシアに甘い見方を示しますが、論拠が曖昧で説得力を感じる読者はほとんどいないでしょう。加えて日本は核武装すべきという持論を性懲りもなく繰り返していて、途中で投げ出したくなりました。
フクヤマの意見で興味深いのはリベラルに対する独特の認識でしょうか。彼はそれを「政府の権限を制限するもの」と定義づけます。いわば立憲主義と言い換えられるような概念として捉えるのです。トランプなどポピュリストの台頭は、自由民主主義的な部分が「リベラルな部分を攻撃して」いると見なします。フクヤマはいいます。「自由な社会がもたらす肯定的な美徳」を普通に感じたり、当たり前のものだと感じるとき、われわれはその価値を見失いがちになってしまうのだと。
ガブリエルの倫理資本主義論は私には最も承服しがたい議論です。大企業の独占など現代の問題は「資本主義が十分に足りていない」からと言うのですが、資本主義における市場は放置すれば独占状態を生み出してしまう。だからこそどこでも市場外部の力=立法機関による独占禁止法などの法規制が必要になるわけです。資本主義それ自体に自己修正力があるとは到底考えられません。
AIをめぐる議論の方は、ウィテカーの意見が鮮明で印象に残りました。AIとはもともとマーケティングの用語であることを指摘したうえで、現状は「AIの看板をかぶった米中のテック企業の支配力」と言い切ります。それは「誰もが同じ条件下で利用できるような民主的なツールではない」。
ここで重要なのは、彼女はAIという技術そのものではなく、技術の背後にある権力を問題にしている点です。AIの普及じたいは不可逆的に進んでいます。ゆえにウィテカーのように、技術をめぐる権力関係について警戒感を維持しておくのは賢明な態度だと思います。
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