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【詩】夜の市営バス

【詩】夜の市営バス

夜道をわたる市営のバスよ
尋常でなく鄙びた姿で
排気の様子が徐々におかしく
彗星のごとくなれば
懐かしい人を乗せて
空へ空へ
てんてんと
かけてゆくだろう

【詩】石讃歌

【詩】石讃歌

石よ
時の流れ
大地の変遷
げに重々しいものが
濃縮されてそこにあるのに
どうしてかそんなにぽっかりとしているのだ
山や岩のように
おどろしいすがたで畏敬を集めるがよいものを
どうしてかそんなに小ぶりに丸くなっているのだ

石よ
私の旅に黙って伴われる石よ
動力も持たぬのに
どうしてそんなに自由なのか
私を経由して
どこへゆくのか

嗚呼、私の血潮にも
石と同じ元素が流れているではないか
石のよう

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【詩】夏山

【詩】夏山

あの素晴らしい山肌に
私の魂は吸いついてしまった
りんりんと
夏が更けてゆく

〖詩〗言葉

昨夜 雨が降った
今朝の 眩しい 庭の葉を

陽に透かし

肌色のハサミで
スック スックと
切り取っていく

世界は
こんなにも美しい と
知らせるために

葉は 手元から
零れながら
還っていく

光の中へ
還っていく

澄んだ空気に
輝きながら
還っていく

〖詩〗レモン

〖詩〗レモン

若い君の涙が
瞳に溜まった涙が
この夜をこらえて
明日

明日の朝陽に溢れれば

ひとつのつややなレモンとなって
まばゆく光るのだろう

〖詩〗モンシロチョウ

〖詩〗モンシロチョウ

ぺりり
剥がれた地球

ぴゅるる
風が注がれて

ひらり
モンシロチョウ
飛んでいった

〖詩〗夕暮れ

〖詩〗夕暮れ

京都ステイションの
美しい夕暮れに
浮かべる
金曜の

〖詩〗戦後78

〖詩〗戦後78

アスファルトの傷口に咲いた
ささやかな花が
まるで
異国のさみしい歌だった

私の及ばぬ
時代と場所で
流れたにがい潮だった

ひっこ抜くな
それは
まぎれもなく母の
くらしに芽吹いた
花かもしらず

踏みにじるな
それは
まぎれもなく私の
未来にひらく
花かもしらず

〖短篇小説〗ラッコ

〖短篇小説〗ラッコ

某氏は、ラッコである。一見、ヒトである。顔立ちも、ラッコ風ではない。あえて言うならば、猫風である。目はやや吊っていて、鼻はスンともフンとも鳴りそうな様子である。でも、自分はラッコなのだという。本人がそう言うならラッコなのだろう、と思いながら、普段は忘れている。ただ、ときどき某氏が「私、ラッコなので」なんて、話の合間に、ふいに、自然と言うものだから、そんな時には、そういえばそうだった、くらいの感じで

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〖詩〗ひとり

〖詩〗ひとり

一人でいると

言葉が 寄ってくる
闇が 寄ってくる

私はいつも
居心地のいい椅子に
もたれながら
しおからい夜の海で
さみしさをいじくっている

〖詩〗春の日

〖詩〗春の日

ひゅるり
風が吹き

茶ばんだ心の
剝ける気がした 

〖詩〗 ひかり

〖詩〗 ひかり

車体の曲線に降りて
星のように笑っては
進みに合わせて滑ったりする

前髪にとまったら
虹の泡になって
透きとおっている

木々の上では冠のまねごと
葉は 黄色に喜んで
幹は 隠した宝石をチラチカさせる

人は
虹彩と産毛が美しく
いつもより天使に近づいたりする

〖詩〗若者

〖詩〗若者

いつかわかるでしょうか
かつてわたしが
あんなにも単純に
青一色で描いていた空は
またたくまに汚れていった

いつかわかるでしょうか
いま わたしたちは
不気味な静寂を航る
重い曇天
それすら泣かせまいで
どうにか錨を下ろそうと

さあ
あなたの目には
光が乱反射している
あなたの中で生まれた光が
心身を泳いで

外へ出てゆこうとしている

批判されても
無視されても
光は光
闇を切り裂いていく

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