【エッセイ】幸せな発熱
熱を出すと、浮かび上がってくる記憶がある。
あるクリスマス。私たちの家族は兵庫のマンションで暮らしていた。このマンションからはすぐに引っ越すことになるけれど、これまで住んだ家で一番いい家だった。私はまだ4歳の幼稚園児で、同じマンションの一室でピアノを習っていた。
そのクリスマスに、私は熱を出した。母は子どもを甘やかす質ではなかったけど、私がまだ小さい頃は叱った後と病気の時はいつもよりうんと優しかった。特に病気の時には、りんごをすってくれて、私はそれがとても好きだった。
その冬