汐見りん
朝起きると泣いていた。なぜかものすごく辛い夢を見ていた記憶がある。夢の中で大きな声で叫んでいたような気がする。普段は一言を話すにもとんでもなく時間がかかるのに、夢の中の自分はいつも流暢に話していて、起きたときにふと病気が治った気になってしまうが、いざ声を出そうとすると 「え、あ、ん。。。あ、お!おは、よ、う、おは、よ、う。」 こんな具合で、あれは夢でやっぱり話せないんだったんだと悲しくなる。夢の中で辛くて、起きてなお悲しいなんて最悪な一日の始まりだと思いながら出かける準備をす
「おじいちゃん。氷もうとれないかな?あーあ溶けちゃた。」 机にこぼれたかき氷の粒はみるみるうちに溶けて、ただの青い水になっていた。 僕はカバンからティッシュを取り出し、その水を吹いた。 「あ、かき氷が青い紙になっちゃったね。キレイ〜。」 よっくんは、崩れてしまったかき氷が青いティッシュになったことにまた目を輝かせていた。 「よっくん。こ、お、り、とけちゃうよ。」 僕が言うと、あ!そうだったと、再びかき氷をスプーンですくって食べ始めた。 器の底には溶けた氷がたまってきていた。
27歳。社会人から再び学生になって2年目の夏。寝転びながら勉強してて、何か胸が痛いな!と思ったトコから始まった違和感は、結局の所乳頭から血が出てるやん!という事態に発展し、検査の末に実習期間中に乳癌がわかり入院し手術することになった。 その日程が、乳腺外科医と形成外科医と調整が必要となった為、残りの実習が受けられなくなる事に。そして結果として、私は国家試験までに卒業試験を受けることがかなわず留年することになった。 病気になっても片方のおっぱいが無くなると聞いても泣かなかったけ
よっくんの前には目の覚めるようなブルーのかき氷があって、 「つめた〜い!」 口に放り込む度に顔をしかめて、目をつぶり、次の瞬間はキラキラした目で氷の山を崩しては、口に入れる。 コロコロと変わる表情が何とも言えなくて、かわいくて、僕はそんなよっくんをじっと見つめていた。 ゴールデンウィーク。母の日も近いせいで、仕事は大忙しだったが、合間の休みに孫と近くのスーパーのフードコートに来ていた。よっくんは、母の日に自分のお母さんにバラをプレゼントしたいと、この間バラ園に息子と来ていた
今日は受診日でした 乳がんの22年目の検診 毎日忙しくてドタバタしすぎで、検査を受けたのは私の誕生日の日でした。 うん。色々ありつつ半世紀生きた記念の日に検診もありかなと。 ところがどっこい、その検診結果を聞く日に別件で体調が悪くなり、急遽入院するという事態に(^_^;) まあ、色々あります で、まあそちらは大したことなく事なきを得て退院。今日二週間遅れで検査結果を聞きに行ってきました。 無事にパス! ありがたいことだなーと。 私のオペをしてくれた主治医は14年前に他界
お盆休みは沢山のお客さんと天気に恵まれて、瞬く間に過ぎていった。 ひとつ動く事に噴き出る汗。知らぬ間に5キロは痩せただろう。へばりながら、すぎたような1日がおわると、夜には毎日ぐったりで、布団に横になると秒で寝てしまうほどに疲れていた。 ふと気づけば、この島にいられるタイムリミットが近づいていた。送別会と言う名の飲み会を繰り返しては、一人また一人と島から去るメンバーを送り出し、いつの間にか8月は駆け足で過ぎていった。そして訪れた9月。 島の人口減りすぎだと思うんだけど。と思
大好きな小さな島に ええかんじの ビールやさん を作ることなんや! しっとったか? と思わず言いたくなった あまりに嵐のひどいから ならば とーの昔にしっとるわ そやからまかしとけ と前も見えないのに自信満々に 船長さんは言うので は? は? は? と三度聞き返したら ちゃんと聞いとけ! 大事なことやぞ! と おもいきりビンタされた いたいよ でも めげずに 目的地につくまでずっといいつづけたるねん 諦めたくない夢やから 船長のビンタでちょっと目
やりたい気持ちのその先へ踏み出した。ずっと誰かに道筋をつけてもらった所を歩き、受け身だった毎日から、主体的に動かねばならない「働く」という感覚。週に3回薔薇園で出荷作業の手伝いをする。納品書を印刷してチェックして、出荷する花をピックアップして発送する。なんでもない作業に馬鹿みたいに時間がかかる。仕事が終われば、頭は疲れるわ、身体は重いわで、家の玄関にたどり着いたら崩れ落ちてしばらく立ち上がれない。そのままご飯を食べることもせずに寝てしまったこともある。夢に仕事が出てきてうなさ
「いい後ろ姿や」 僕の薔薇が飛び出てるリュックサックを見て正人は言った。ちょっと写真取らせてよ。と、携帯を出して、僕とよっくんが並んで歩いている姿を後ろから撮っていた。 「いいの撮れた。見る?」 差し出された携帯をよっくんと覗きこむ。杖を持って歩く薔薇を背負った僕と、大事に薔薇を抱えて歩くよっくん。 「うん。いい。」 と思わず大きな声がでる。 「うん。いい。」 真似するよっくんの声がコロコロしててかわいい。 「うん。いい。我ながらいい。お父さん写
サッポロポテトをみる度に思い出す人がいる。 その頃の私はNewがんっていう病気がある28歳にして学生で。某リハビリ関係の勉強をしていた。国家試験の少し前。彼女が星になってしまった事を知る。最後まで疾走感にあふれた素敵な文章はブログの一部分のみ書籍化され発売された。 彼女が、このウソッぽい味と飲むビールがうまいんだよね。と言っていたことを知った日から、私にとってサッポロポテトをアテに飲むビールは、彼女を思う日で、自分の病気を思う日で、そして沢山の仲間に気持ちを馳せる日だ。
長〜いこと使っていたお風呂用の身体を洗うタオルを新調した。肌触りが気に入りすぎて、なかなか同じものが見当たらずで決心がつかなかったのだ。だが、実は恥ずかしながらタオルにはもう穴があきはじめているし、いい加減買わないと!と気合いを入れて買ってみた。 しかし、違うんだよ!違うんだな。肌触りが。やっぱりあのボロ(!!!)タオルがいい。いや、使っていけばあの感触になるかもしれない。うーん。やっぱり100歩譲ってもきっとならないだろうな。しかし、今卒業せずにいつこのタオルを捨てるのだ
黄色い薔薇の花は訓練室に通う僕をしばらく迎えてくれていたのだが、暑さが和らぎ、やがて木の葉が色づき始めると、花芽はつかなくなった。花が咲いていなくても、緑は生き生きしていてその葉は生命力にあふれていた。けれど花のついていない薔薇はどこか寂しかった。 「薔薇。咲かなくなっちゃいましたね。そう言えば、私が良く行くお店にはいつもきれいな薔薇が飾られてるんですよ。一年中薔薇が見られるってことは、ハウス栽培なのかなー。どうなんでしょうね。」 花のない薔薇を見ながら佐々井さんは言った
昨日の本祭りは、職場のクラフトビールやさんのイベントが某所であったため、田舎からいそいそ出ていく。私は完全プライベート参加。いやはや盛況で何よりどした。久々に会う呑み友と、4軒はしご酒。幸せかよ。幸せすぎかよ。 で、最後は最寄り駅までの道に迷子になりタクシーワンメーターオセワにならはました。 んで、今朝は朝から子供会行事。二日酔い身体をひきずって参加。いや。水がうめー。二日酔い明けのむずはうめー。 ん?むず? そして、本日は父の日の為、うちの小6女子達は手作りデナーを。
言語訓練室に入ると、黄色い花が咲いていた。尚子が持ってきたという薔薇。前に来たときにはまだ蕾だったはずだが。花が開くとこんなにも印象がかわるものか。白い殺風景な空間に華やかな空気が漂う。 「こ、ん、に、ち、わ。」 いつもと違う部屋の雰囲気に少しとまどいながら、だからと言って僕は変わることなく、いつものようにゆっくり挨拶をする。 「こんにちわ。」 白衣の先生が迎えてくれた。僕の視線の先にある花を見て 「咲いてきましたよ。尚子さんの薔薇。キレイ
とうとうその時が来てしまったんだな。私は尚子さんの言葉を思い出していた。 突然彼女が病院に来たのは、いつの事だったか。「私には新しい家庭もあるから、行くことは出来ないですし、もう連絡しないで下さい。」電話越しに言い放たれてから10日程たった日の事だったと思う。 優子さんから内線がかかってきたのは、お昼前で、午前中の訓練を終えた直後だった。 「あなたと話がしたいという人が来てるのよ。相談室に来てくれる?」 私は午前中最後の患者さんを病室まで送っていき、その足で相談室に向か
溢れ出した涙は一体どこへ行くのか。とめどない悲しみはどこへ向かうのか。悲しみの重さは僕の持てる限界を超えてしまい、起き上がることすらも出来なくなってしまった。この感覚はいつぶりだろう。絶望に打ちひしがれて、病院のベッドで泣きはらしたいくつもの夜。あれは随分前のような気がする。 今、病院のベッドにいるのは僕の元嫁。そして僕は、自分の部屋で押しつぶされそうな悲しみの重さと戦っていた。今、必死に生きようとしているのは尚子であり僕ではない。今できること。それは、祈るしかなくて。ただひ