七色の涙 14
お盆休みは沢山のお客さんと天気に恵まれて、瞬く間に過ぎていった。
ひとつ動く事に噴き出る汗。知らぬ間に5キロは痩せただろう。へばりながら、すぎたような1日がおわると、夜には毎日ぐったりで、布団に横になると秒で寝てしまうほどに疲れていた。
ふと気づけば、この島にいられるタイムリミットが近づいていた。送別会と言う名の飲み会を繰り返しては、一人また一人と島から去るメンバーを送り出し、いつの間にか8月は駆け足で過ぎていった。そして訪れた9月。
島の人口減りすぎだと思うんだけど。と思いながら今日も朝から港で船を待つ。あれだけ沢山いたバイトメンバーのほとんどは帰ってしまっていた。昨日、和人からエアメイルが届いた。差出人の欄にはアルファベッㇳが並んでいる。癖の多い文字をひろって読み取った異国の住所はカナダのバンクーバー。
「仕事頑張ってるか?」から始まって、カナダで友達の家に滞在しているという内容の葉書。彼が島を立ってから2週間が過ぎていた。ひと月あまりをカナダで過ごした後、大学に戻ると話していたっけな。私が今この葉書に返信したところで、バンクーバーに届く頃には相手は帰国している頃だろう。そしてその頃には私もこの島を出て、次の目的地に向かう予定だ。いつか私達が再び出会うことがあるのだろうか。と想う。
「また会うことがあるのかはわからないけど、元気でな。」
船に乗る前に和人は言って、私に手を差し出した。差し出された手はごつごつとして真っ黒に日焼けしていた。差し出した私の手をギュッと握って離れてから、私に向かって手を振るその手の平は思いの外白くて。なんだよ手の平は白いんじゃん。と、思ったら、何だか急に悲しくなってきて涙がポロポロと溢れた。涙のせいなのか白い手の平はずっとぼやけてみえて、夏の終わりの光に反射してキラキラしていた。手の平をヒラヒラさせながら小さくなっていくその姿を、ポロポロ泣きながら見えなくなるまで追い続けた。
※※※
分厚いアルバムに貼られた写真の日付は1995年8月28日
黄ばんだアルバムと写真が過ぎた時の長さを思わせる。
あれから30年。
アルバムに出てくるメンバーの数人には数年に一度会っては一緒に飲んだし、その何人かは連絡先も知らない。
世の中にインターネットという便利なものが出来て、SNSの中で再会出来たり、近況が知れたり。
でもリアルに会うことはできないままの時間。
手紙や葉書でやりとりしていたあの頃と違って、今は離れた場所で簡単に顔をみながら話が出来たり情報交換ができたり。
なのにもかかわらず、律儀に年賀状を手書きで毎年くれる和ちゃん。めぐちゃん。その文字をみるだけで何故かあの頃を思い出す。
皆からもらった手紙は捨ててしまったけど、あの頃の日記もとうとう捨ててしまったけど、思い出は消えない。書いた言葉は忘れない。
近くに出張で行くからさーと連絡をくれる友達。なかなか予定はあわないけど、話しだしたら止まらないかもなー。
自分の思い出。大切な思い出。今の自分に確実につながる出来事。振り返るのは怖いような、嬉しいような。
だけど、大好きな青い海はいつも変わらずそこにあって、だから私は何かあるたびに、一人でも友達とでも何度もその島に行った。
あの夏以来、もう島には来てないってメンバーも沢山いて、でも何故かつながってる気がして、なんだろうなーこの気持ち。って夏がくる度に思った。
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