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「独ソ戦 絶滅戦争の惨禍」 △読書感想:歴史△(0017)

まさに泥沼の戦いとなり、イデオロギー的な絶滅戦争へと展開した独ソ戦(第二次世界大戦)を時系列で戦史として語るだけでなく、その思想面にも分析や考察を加えた一冊です。

独ソ戦 絶滅戦争の惨禍」
著 者: 大木毅
出版社: 岩波書店(岩波新書)
出版年: 2019年

<趣意>
歴史に関する書籍の読書感想です。 対象は日本の歴史が中心になりますが世界史も範囲内です。 新刊・旧刊も含めて広く取上げております。

 

※一部、本書本旨に触れている部分があるかもしれません。ご容赦ください

<概要>
ナチスドイツがいわゆる電撃戦で実質1ヶ月あまりでフランスを掌握しました。 これにはドイツ自らを含めすべての国が驚愕したと思われます。
この成果に自信を深めたドイツとヒトラーはかねてからの野心であった東方拡大、最終的にはヨーロッパロシアの征服に乗り出すことになります。

こうして史上まれにみる、人、国土、文化あらゆるものが収奪され、破壊され、無残にも虐殺される独ソ戦の幕が開きます。

 

<構成>
全体は6つの章で構成されています。
第1章ではナチスドイツのソビエト侵略までの経緯。
第2章では独ソ戦の開戦とソビエトの大敗北。
第3章ではドイツとソビエトそれぞれの立場での独ソ戦のイデオロギー的論理。
第4章では独ソ戦の象徴的な転換点となるスターリングラード攻防戦に至るまでのソビエトの大反攻の始まり。
第5章ではドイツの敗退とベルリン陥落まで。そしてそのなかでの戦争の実態。
終章ではイデオロギー戦争としての絶滅戦争である独ソ戦の総括。
これらについてそれぞれ説明と考察が重ねられています。

 

<ポイント>
1つは、ドイツとソビエトそれぞれの内情を踏まえた独ソ戦開戦にいたるまでの分析がなされています。
2つめには、独ソ戦の時系列的な戦史の解説がなされています。
そして3つめには、イデオロギー戦争として相互に妥協の余地がない相手を絶滅させることが目的である独ソ戦の特徴が考察されています。

本書でも触れられていますが、独ソ戦は人類史上最大の犠牲者を生み出した戦争といえるのかもしれません。
独ソ戦におけるソビエト側だけの犠牲でも、人口1億9千万人に対して、軍人で860万人~1140万人そして民間人は1200万人~2000万人、合わせておよそ3000万人に至るのではないかとも考えられています(正確な数字は算出できないようです)。 人口比率で15%になります。

日本の第二次世界大戦における犠牲は、当時の人口7000万人に対して軍人で200万人強、民間人で50万~100万人程度ともされています(人口比率で約5%)のでケタが違います。 ※数字は調査により異なります。

単純に戦闘だけでなく、戦争に伴う理不尽な虐殺、飢餓や負傷・病気、強制労働など多くの災厄により命が無残に奪われました。

日本人にはあまりなじみのない歴史の教科書の1ページ的な出来事かもしれません(少なくとも私の学生時代はあまり取り上げられませんでした)が、戦争における史上最大の惨禍といえるかもしれません。

この戦争の本質を、前述の3つの大きなポイントから読み解こうとする試みであるかと思われます。

 

<補足>
ナチスドイツ (Wikipedia)
ヒトラー (Wikipedia)
スターリン (Wikipedia)
第二次世界大戦 (Wikipedia)
独ソ不可侵条約 (Wikipedia)
大粛清 (Wikipedia)
独ソ戦 (Wikipedia)

 

<著者紹介>
大木 毅 (おおき たけし)
軍事史研究者。 千葉大学等で非常勤講師を務めた。 海外文献の翻訳も手掛ける。 小説の執筆も行っており、フィクション作品での名義は「赤城 毅」(あかぎ つよし)。
そのほかの著作:
『日独伊三国同盟 「根拠なき確信」と「無責任」の果てに』(KADOKAWA)
『 「砂漠の狐」ロンメル』(KADOKAWA)
『ドイツ軍事史』(作品社)
など。
ツイッター:
https://twitter.com/akagitsuyoshi?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor

 

私的雑感_読書感想

<私的な雑感>
悲惨すぎます…。
独ソ戦は戦争がもたらすまたは戦争が人間に対して惹起する、あらゆる不合理・理不尽・非道などが凝縮された戦争であったのかもしれません。

たんに軍事的な戦闘による兵隊同士の殺し合いだけではなく、それに巻き込まれる一般民間人の悲劇がやりきれません。 家族を殺され、性被害を受け、家屋を焼かれ、家財や農作物なども収奪され、強制労働のために連行された挙句に邪魔になって殺され、またはやっと撤退してくれると思えば報復をおそれて虐殺される。

ほかの戦争でも同様でしょうが、独ソ戦ではこれにイデオロギー的な相手への差別や弾圧が正当化されて加わり、殺戮と破壊がハイパーインフレ化して歯止めが利かなくなったようです。 そして、やられたりやり返すという無限ループ。

もちろんナチスドイツの非道さは言うまでもありませんが、ソビエトもけして一方的な被害者であったわけではありませんでした。 独ソ戦が始まるまではいわばドイツと手を組んで東欧や北欧の他国を侵略していました。

だからといって、独ソ戦は両者痛み分けとかお互いに自業自得などといって終わらせて済ませることができる問題ではないのではないでしょうか。
「戦争は悲劇しか生まない」という一般論で片づけるには、この戦争はインパクトが強すぎるように感じます。
ここから、より有意義な教訓を得る必要があるのではないかと思われます。

いま現在の日本そして世界はどのような示唆を受け取るべきでしょうか…。

たいへん勉強になりました!!

 

<備考>
岩波新書『独ソ戦』が「新書大賞2020」第1位に (PR TIMES)

<本書詳細>
「独ソ戦 絶滅戦争の惨禍」 (岩波書店)

<参考リンク>
書籍「スターリングラード 運命の攻囲戦1942-1943」 (朝日新聞社)
書籍「[新版]独ソ戦史 ヒトラーVSスターリン、死闘1416日の全貌」 (朝日新聞社)
書籍「ナチスの戦争 1918-1949 民族と人種の戦い」 (中央公論新社)
書籍「戦争は女の顔をしていない」 (岩波書店)
コミック「戦争は女の顔をしていない」 (KADOKAWA)
映画「スターリングラード」 (角川映画)
Webサイト記事「人類史上最悪…犠牲者3000万人「独ソ戦」で出現した、この世の地獄」 (現代ビジネス)
Webサイト記事「独ソ戦線」 (NHK放送史)
Webサイト記事「第二次世界大戦、日本にも響いた独ソ戦の要諦」 (東洋経済オンライン)
Webサイト記事「『世界遺産の都市で人肉食が横行』独ソ戦の悲劇」 (プレジデントオンライン)

 

敬称略
情報は2021年12月時点のものです。
内容は2019年初版に基づいています。

 

高札場

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(2022/03/03 上町嵩広)

 

<バックナンバー>
バックナンバーはnote内のマガジン「読書感想文(歴史)」にまとめています。

0001 「室町の覇者 足利義満」
0002 「ナチスの財宝」
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0004 「幕末単身赴任 下級武士の食日記」
0005 「織田信忠」
0006 「流浪の戦国貴族 近衛前久」
0007 「江戸の妖怪事件簿」
0008 「被差別の食卓」
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0013 「アレクサンドロスの征服と神話」(興亡の世界史)
0014 「天正伊賀の乱 信長を本気にさせた伊賀衆の意地」
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