大阪翻訳ミステリー読書会(『殺人は太陽の下で』)レポート掲載と続刊『Death at Paradise Palms』について&『この密やかな森の奥で』のご紹介
私が世話人を務めている大阪翻訳ミステリー読書会のレポートが、翻訳ミステリーシンジケートのサイトに掲載されました。(一文のなかで翻訳ミステリーを連呼してしまったが、名称なのでお許しください)
今回の課題書は、ステフ・ブロードリブ『殺人は太陽の下で—フロリダ・シニア探偵クラブ―』(安達眞弓訳 二見書房)でした。
リタイアしたシニアたちが暮らすフロリダの住宅地で、若い女の死体がプールに浮いているのが発見された。こんな平和な場所でいったいなぜ? どういうわけだか腰が重い警察にかわって、モイラをはじめとする元刑事の住人たちが捜査に乗り出す。しかし、モイラには誰にも言えない過去があった……というミステリー。
この本のおもしろさは、殺人事件の捜査のみならず、58歳で警察を早期退職したワケありのモイラ、モイラと恋におちる予感がビンビンのリック(68歳)、〈昭和のおじさん〉仕草で周囲の人間をウンザリさせる最年長のフィリップ(71歳)、フィリップの良き妻でありつつも疑心暗鬼に苛まれるリジー(64歳)がくり広げる人間模様。気になるかたは、ぜひ上記の記事を読んで本を手に取ってみてください(順番は逆でも可)。
このフロリダ・シニア探偵クラブの原書は、現在のところ第3巻まで出版されています。第2巻の『Death at Paradise Palms』は、どういう物語かというと、
モイラとリックはフロリダのパラダイス・パームへ向かう。パラダイス・パームはセレブな高齢者たちが住んでいる土地であり、そこに暮らす女優のオリヴィアから、映画プロデューサーをしている夫のコーディーが行方不明になったと依頼を受けていた。オリヴィアは警察にも相談したが、警察は夫が自分の意志で家を出たのだろうと取りあおうとしない。
モイラはコーディーの身を案じるオリヴィアに親身になって寄り添いつつも、この夫婦にはなにか隠していることがあると直感する。自分と同じように、他人には言えない過去があるのだろうか?
一方、フィリップとリジーの夫婦関係はぎくしゃくしたままで、カップル・カウンセリングを受けても改善する気配はない。モイラとリックとともに事件を解決しようと捜査に参加するが、夫婦の溝があまりにもあきらかなので、捜査会議も微妙な雰囲気に……
というストーリーで、四人の人間関係の妙にくわえて、オリヴィアとコーディーの夫婦生活も興味深く、事件の捜査自体も前作よりパワーアップしています。こちらは訳書が出るのかどうか未定ですが、刊行されることを願いましょう。
さて、上記のレポートを読んで、読書会に参加してみたいな~と思われたかたに朗報です。11月25日(土)に福井読書会が開催されます。
こちらの課題書は、キミ・カニンガム・グラント『この密やかな森の奥で』(山﨑美紀訳 二見書房)。
アパラチア山脈の奥深くに、アフガニスタンからの帰還兵であるクーパーは、8歳の娘のフィンチと暮らしている。仕事や学校はもちろん、買い物にすらめったに行かずに、世間から身を隠して暮らしている。
自分たちがここにいることは誰も知らない。親友のジェイク以外は。もし誰かに知られたならば、ここでの生活は失われてしまう。
だが、ある日突然、スコットランドと名乗る隣人が姿をあらわし、それ以降、時おり訪ねてくるようになった。いったい何者なんだ? まさか自分が過去に犯した罪を知っているわけではないだろうが……
フィンチとともに永遠に身を隠し続けることなんてできない。
そんなことは最初からわかっていた。けれども、頼みの綱のジェイクが姿をを見せなくなり、さらに森で起こったある事件によって、クーパーはふたりきりの生活が失われるのではないかと苦悩する。自分たちがここにいることが知られてしまったら、フィンチを手放さなければならない……
というストーリーからは、物騒な話だと思われるかもしれませんが、小島秀夫さんによる〈善良なハードボイルド〉という帯文句のとおり、ある意味で現代のおとぎ話とも言える物語でした。
もちろん、クーパーの苦悩の原点にアフガニスタンでの過酷な任務があるように、登場人物はすべて過去の傷を抱えているのですが、喪失があるからこそ互いを思い遣るやさしさが生まれるのだと納得しました。
そしてなにより強く印象に残るのが、フィンチの利発さ。常日頃から詩を愛唱し(猫の名前はウォルト・ホイットマン)、人を信じる心を持ち、なにが正しいことかをきちんと理解している。フィンチの純粋で瑞々しい感性が、この小説全体を象徴していると感じました。
でもやっぱり、福井は遠くて行かれへん~というかた(私もそうですが)、11月26日(日)に、大阪ノンジャンル読書会が開催されます。
今回の課題書、デイヴィッド・グラン『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン: オセージ族連続怪死事件とFBIの誕生』(倉田真木訳 早川書房)は、レオナルド・ディカプリオ&マーティン・スコセッシによって映画化された話題作。こちらの読書会には私も参加する予定ですので、また報告したいと思います。
で、次回の大阪翻訳ミステリー読書会は、下記のポストのとおり、2024年2月24日(土)に、ミン・ジン・リー『パチンコ』(池田真紀子訳 文春文庫)を課題書として開催します。
受付は1月中旬ごろに開始する予定です。ご興味のあるかたは、私のX(Twitter)か、翻訳ミステリーシンジケートのサイトをチェックしてください。読書会初心者のかたも大歓迎ですので、お気軽にご参加を!