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創作

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小説・短編・エッセイなど
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記事一覧

拝啓、人生に絶望していたころの俺へ

拝啓、人生に絶望していたころの俺へ

俺には人生がどうしようもなく絶望感にあふれていた頃が2回ある。
1度目は16歳、高校1年生の頃だ。
俺はいわゆる高校デビューに失敗し、ほとんど一人ぼっちになってしまった。
そんな俺にも楽しみがあった。それは、当時発売された「スプラトゥーン」というゲームである。
夏休みに高校の目を搔い潜って必死にバイトで金をためた俺は、クラスメイトと仲良くなれるきっかけの一心でWiiUと一緒にそいつを買ったのだ。

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ホウキに乗って 第一話

第一話 セキニンを取って
「この子の成績が伸びなかったら、どう責任取ってくれるんですか?」
閑静な住宅街の一室で、その怒号は静かにこだました。

優二が家庭教師のアルバイトを始めてから約一年ほどが経過していたが、この地区の教育ママというのはこんな人種ばかりのようで、正直辟易していた。
訪問が終了した旨を事務所に連絡すると、優二はいつも通り駅前のチェーンの喫茶店に入りホットコーヒーを注文し席に着く。

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記号になるということ

記号になるということ

「かなえたい夢」というタグを見たとき、俺はすぐに筆が進むであろうと考えていた。しかしその考えはあまりにも軽率であったということを、執筆し始めてすぐに痛感することになった。

夢の言語化は難しい俺にはなりたい自分像が確実にある。街ゆくサラリーマンと同じ人生など歩みたくない。うだつの上がらない人生などまっぴらごめんだ。
そう考えている人間は決して少なくないと思う。
しかし実際に

どう言った未来を作り

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ひとりごと惑星

ひとりごと惑星

僕は星、何処にでもある名も無き星。
今日も今日とて廻るよ廻る。
息を揃えてただただ廻る。
ある時僕は、遠くの星に恋をした。
廻っているだけでは決して追いつけない。
だってその星も廻ってるんだもの。
だから僕は廻ることを辞めてみた。
もっともっと外の軌道に近づこうと努力した。
そうすればきっとあの星に近づける気がしたから。
でもね、気づいたら誰もいなくなっちゃった。
恒星の引力から外れちゃったみたい

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ないものねだり

ないものねだり

お盆休み明け出社すると、沢山のお土産を貰った。
毎年のことだが、いろいろな人から異郷の特産品を貰うのは楽しい反面、お返しのできない申し訳なさを感じてしまう。
俺は埼玉県で生まれ埼玉県で育った。地元から電車一本、一時間と掛からず池袋に出れてしまう。だからお盆などの長期休みを利用して地元に帰る、所謂帰省をすることもないのだ。
俺は小さい頃、地方に帰省するというイベントをとても羨ましく感じていたことを思

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ステレオタイプな操りドール

ステレオタイプな操りドール

俺は明るい。初めましての人でも、年に数回程度しか会わない人でも"それなり"の会話ができる。
多人数が集まる場ではあまり話していない人に対して声をかけに行く。
空気を読んで話題を振り、相槌を打ち、60点切らない位の盛り上がりをキープするのが得意だ。
上の人には低姿勢ながら少し舐めた態度を取るいい後輩になるし、年下にはちゃんとものを言いながらも優しく諭す先輩になる。
しかし俺の本心はこの真逆である。

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夜景とは集合してこそ体をなす

夜景とは集合してこそ体をなす

一つの疑問
俺はいつも部屋のベランダでタバコを吸うのだが、都会暮らしゆえ夜になるとビルのネオンを楽しむことができる。昨晩もいつも通り何の気なしにそれを見ながらタバコをふかしていたところ、ふと一つの疑問が生まれた。
「高層ビルの上にある赤いライトって、高層ビル群ではどうなってたっけな」
ベランダからは一つの高層ビルが煌々と聳え立つ姿しか拝めないため、少し考えてみることにした。

より高いやつ一つだけ

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新しいことへの挑戦は常に初心者狩りと共に

新しいことへの挑戦は常に初心者狩りと共に

"初心者狩り"という言葉を耳にしたことはあるだろうか?日々オンラインゲームに研鑽を欠かさない方であればすぐにピンとくる言葉であろう。
"初心者狩り"というのは、対人(実際に人間同士で戦う)ゲームにおいて中・上級レベルのプレイヤーが、はじめて日が浅い初心者をターゲットにハメ技(対策を知らなければ何もできないまま負けになるような技)や裏技を用いて完膚なきまでに叩き撫すという慣習・文化である。
俺は社会

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ジャングルの鬩ぎ合い

ジャングルの鬩ぎ合い

突然だが、この写真は何県何市の写真だろうか?

おそらく写っている電車から分かってしまった方もいるだろうが、これは東京都新宿区市ヶ谷で撮った写真だ。市ヶ谷はうちの近所で、今日も散歩がてらうろうろ散策していたのだが、ふと気づいたことがあるので語らせてほしい。俺は埼玉の片田舎で生まれ、大学時代に神奈川県厚木市で4年間を過ごし、今は東京23区内で暮らしている。つまり俺は"田舎→地方都市→都会"と国内にお

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漂流は、夕立の公園でも発生する

漂流は、夕立の公園でも発生する

漂流の始まり「急に降ってきましたね、結構強いっすね」「やられたなぁ」
ボディラインがはっきりわかるスポーツウェアを着た二人組が空を見上げながらぼやく。それを横目に何食わぬ顔で読書をしている俺。
ここは公園の東屋である。先ほどまで日向のベンチで読書をしていた俺は、雨の予感を察知し数分前にいそいそとこの東屋に退避していた。
スポーツ青年二人組も、とりわけ同じような経緯でこの東屋に逃げ込んできたのであろ

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エッセイは人生の小さなショールーム

エッセイは人生の小さなショールーム

俺は小さいころから読書が好きだ。13歳でスマートフォンが買い与えられるまで(当時にしてはかなり早かった)暇さえあれば、小説・マンガ・雑誌、、、とにかく本媒体のものばかり読んでいる子供だった。となれば、さぞたくさんのジャンルに明るいと思うだろう。ところがどっこい、俺は本に関してかなりの食わず嫌いを発揮していた。端的に言えば、「ミステリー・サスペンス」と「物語」しか読まないのだ。他代表的なジャンルで言

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人生にも道路標識があったらな【欲しい標識3選】

人生にも道路標識があったらな【欲しい標識3選】

最近手術を受けたので、術後の健康を気遣うため毎日近所の公園を散歩している。そんな今日、出会ったのがひとつの道路標識である。そいつは園の看板もないひっそりとした入り口と、日に十人と人が通らなそうな細い細い道路を繋ぐ場所に仁王立ちしていた。その堂々たる風格とは裏腹に、自慢の顔は錆に覆いつくされ、もはや何を標しているのか存在意義を失っていた。でも俺はそいつの顔が何であれ、役を成してきたことを何となく感じ

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人間も食べ物みたいに朽ちてゆく

人間も食べ物みたいに朽ちてゆく

食べ物は質が落ちるし腐る我が家のナチュラルチーズが冷蔵庫でカビていた。
賞味期限は全くオーバーしていないのになぜ?と思ったが、パッケージには「開封後は2~3日以内にお召し上がりください」と書かれていた。
しまった、完全に俺の不手際だ。ぐうの音も出ない、、、
俺はうなだれながら、ふと考えた。なぜ賞味期限と消費期限があるのか。
「食べ物は有機物だから、腐るし酸化するし萎むし湿気るしカビる、、、」まぁ当

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1984

1984

気づくと私は知らない家の布団の上に寝かされていた。
状況を把握するため、首だけ持ち上げ周囲を見回した。ああ、少し古い家だ。直感でそう思った。どれくらい過去のものだろうか、少なくとも平成の時代にできたものでないような気がする。
そんなことを考えていると不意に障子が開き、年若い女が立っていた。
「あ、起きてる」彼女は小さな声でつぶやく。
私は困惑した。彼女はおそらく私とそうは変わらない位の年であろうに

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