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短編小説1000字

100
大体1000字くらいの短編小説です
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2020年4月の記事一覧

短編小説 流れ星

今、さっと星が流れたような気がした。祐太は窓に駆け寄ろうと、急いで歩いて行って椅子の脚に靴下ごと指をぶつけた。あーっ、と声が出てその場に座り込む。
窓を見上げる。星は流れたか。じんじんとしみるように痛む足の指をそっと撫でる。
きっと星は流れた。願い事を華がしたに違いなかった。  

華に電話をかける。華は出ない。塾の日かな?と一瞬迷う。流れ星見えた?用件はそれだけである。しかしこの奇跡を見つけた気

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短編小説 パーティー

お菓子を食べたくて食べたくて仕方ない日があって、それが今日だった。
カフェでパフェを一つ、というわけにいかないのがこの感情の厄介なところで詩乃はコンビニに寄った。買い物かごを持つとスイーツコーナーにあるシュークリームやチーズケーキ、大福などを一つづつ全てカゴに入れた。お菓子のコーナーに行ってチョコレートと書いてあるものもカゴに入れた。ついでに甘いカフェオレと炭酸飲料も。五千円弱、これが今日の夕飯に

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短編小説 コメディ

着信音が聞こえる。風呂から上がったばかりで髪を拭いていた昌也はそれを無視した。水を飲む。相手が誰かはわかっている。恋人の奈実か、その友達である。別れは近い。ぐしゃぐしゃとタオルで乱暴にかいた。  

リモコンをとってテレビをつけると、一緒に行こうと約束していた映画が映った。結局タイミングが合わず行くことがなかった映画を、ぼんやり眺めながら髪の毛が乾くのを待った。着信音が鳴る。一度スマホの方へ視線を

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短編小説 海からやって来る

赤ん坊がいた。赤ん坊は月のカプセルで育てられた。海のような乗り物に乗って、子供のいないつがいのもとに届けられるのである。種族差別が存在するので、一つに限って嫌いな種族を選べる。赤ん坊がやってきた後は両親が祝福をして、カプセルは海のように帰る。  

熊と人間のつがいが居た。一緒に暮らすうち子供のいないことが哀しくなり月にお願いをした。しかし赤ん坊は一向にやって来ない。熊は伏せり、人間は不幸を嘆いた

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短編小説 Haircut

ハサミを持った妻が鼻歌を歌っている。椅子に腰かけた俺に頭から真ん中をくり抜いたゴミ袋をかける。床にはもう新聞を一面に敷いてある。  

妻に髪を切ってもらうのは初めてだ。妻の方は幼い娘の髪を切っているので自信満々である。だから良いかな、と軽い気持ちで頼む気になった。
ザシュッ、と背中で音がした。
「なに、今の」
「断髪式よ、おすもうさんだって最初は長いところから切るでしょ?」
妻の鼻歌は止まらない

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短編小説 ふたり

瑞穂は洗い物をする手をとめて美紀を呼んだ。洗剤を付けすぎてシャボンがふわふわと浮いている。瑞穂があまりにはしゃいでいるので美紀はこらー、と声を出した。
「洗剤、もったいないでしょー」
「出しすぎちゃったんだもん」
瑞穂は軽く舌を出す。美紀は瑞穂の頭をぽんぽんと撫でた。
「でも洗い物すぐやって偉い」
「溜まってるの気持ち悪いから」  

お昼はツナのトマトソースパスタ、レタスと卵のサラダ、じゃがいも

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短編小説 ニブンノイチ

悠は瑞希の咥えているポッキーを反対側から摘んで折った。瑞希のポッキーは半分悠のものとなる。二人は咀嚼し、同時に飲み込んだ。
「のどがかわいた」
甘いものが苦手な悠は瑞希の前からキッチンに向かって歩き出す。
「一本の半分だよ?」
信じられないといった声で瑞希が返すと小さく笑って悠はマグカップを二つ取り出す。悠はブラックコーヒー、瑞希は砂糖を入れないソイラテがいつものやつだった。  

「一緒に暮らし

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