短編小説 パーティー
お菓子を食べたくて食べたくて仕方ない日があって、それが今日だった。
カフェでパフェを一つ、というわけにいかないのがこの感情の厄介なところで詩乃はコンビニに寄った。買い物かごを持つとスイーツコーナーにあるシュークリームやチーズケーキ、大福などを一つづつ全てカゴに入れた。お菓子のコーナーに行ってチョコレートと書いてあるものもカゴに入れた。ついでに甘いカフェオレと炭酸飲料も。五千円弱、これが今日の夕飯になる。
原因は何となくわかっている。普段の食事の不摂生だとか、夜遅くまでスマホが手放せないとか、職場での人間関係だとか。しかし、どうにもできないのである。
コンビニを出ると詩乃は早速ひとつ、チョコレートをつまんだ。
考え方を変えるのが一番手っ取り早いとわかっている。他人は変えられない。だったら環境にうまく順応するのが一番良いのだ。ただ、うまくはいかない。嫌味のひとつでも言われたらカチンと来るし、愚痴を吐かれたら同じように、いや、それ以上に気分は沈む。だからこうして甘いものに沢山囲まれる気分転換は必要だし、何より全て自分のものなのだと思うと心は晴れる。
家に着いた詩乃は着替えもそこそこにカフェオレを一気に飲んだ。味わっているのでは無い。流し込んだのだ。
メイクをクレンジングシートで適当に落としながらチョコスナックを咀嚼する。甘い、安っぽい味がする。カロリーは気になるがやめられない。
エクレアの包装をはがしてかぶりつく。口元についたクリームをなめとると、もうお菓子の事しか考えられなくなる。
同僚の声が、頭の中で聞こえる気がする。あの時もっと上手くやれたんじゃないかと思う。こんなの全部食べたら太る。頭の中がグルグルするほど、咀嚼の速度は早くなる。
お腹が苦しくなる前に胸焼けがする。それでも食べなくては。詩乃は急いで炭酸飲料を流し込む。
涙が滲んできそうで、涙は出てこない。誰かに頼りたい。だけどこんな変な女に恋愛が出来るわけがない。詩乃は大福を半分に割った。中からみかんの房が一つでてくる。くじに当たったようで嬉しくなる。誰かに言いたかった。この大福、みかんが入ってたよ!と。
深刻でなければないほど、詩乃には話す相手がいなかった。みかんを口に含む。甘いものばかりとっていたので酸っぱかった。
明日からまたダイエットしなくてはならないと詩乃は思った。大福の餡を舐めた。甘い。とても甘いと詩乃は思い、同時にコンビニに寄って新製品をチェックしなくてはならないとも思った。人生は来月もあるのだ。