短編小説 海からやって来る

赤ん坊がいた。赤ん坊は月のカプセルで育てられた。海のような乗り物に乗って、子供のいないつがいのもとに届けられるのである。種族差別が存在するので、一つに限って嫌いな種族を選べる。赤ん坊がやってきた後は両親が祝福をして、カプセルは海のように帰る。  

熊と人間のつがいが居た。一緒に暮らすうち子供のいないことが哀しくなり月にお願いをした。しかし赤ん坊は一向にやって来ない。熊は伏せり、人間は不幸を嘆いた。
ある日ウサギと犬の夫婦に人間の子供がやってきたと、街の噂で聞いた。熊と人間の夫婦はさっそくお祝いに行った。ウサギは赤ん坊に寄り添い、犬は顔を舐め夫婦は幸せそうに見えた。熊と人間の夫婦は、赤ん坊を抱っこさせてもらう。赤ん坊は小さく、ドワーフのようだった。熊は赤ん坊にキスをする。人間はぼくもこんな子が欲しいと言った。  

帰り道熊は人間にどんな子が欲しいの、と聞いた。人間はもちろん人間の赤ん坊が欲しいと即答した。熊は黙り、赤ん坊を諦めた。どんな子が来ても慈しんでそだてるつもりだった。しかし人間の望みがあれでは子供は持てそうにない。少しづつ熊は人間の事が嫌になり、人間はそんな熊に不信感を抱くようになった。二人はそっと離れて暮らすようになった。  

熊は馴染みのスーパーマーケットでよく出会うのが縁で宇宙人のような軟体動物と一緒に暮らすようになった。宇宙人は働き者で熊とはすぐに子供の話になった。熊はどんな子でも慈しんで育てたい、と正直に言った。しかし軟体動物のほうは、人間だけはどうしても嫌だと言った。熊は頷いた。やがて、熊と軟体動物の元には小さな魚がやってきた。熊は慈しんで育て、軟体動物はことあるごとにキスをしたりして魚はどんどん大きくなっていった。  

海に遊びに行った帰り道、夫婦と子供はかつての人間に出会った。熊はごきげんようと挨拶をしたが、人間は軟体動物と魚を見て、そらみたことかと言った。熊には意味がわからなかったが軟体動物が、うわっ人間だと行ったので帰ることにした。
人間は軟体動物と魚を口汚く罵った。軟体動物は人間とすれ違う時、何かを呟いた。すると人間は激昴し、軟体動物に殴りかかろうとした。反射的に熊は人間を叩いた。人間は熊のよく手入れされた爪のお陰で助かった。
少し離れてから熊は軟体動物に、さっきは何を言ったの?と聞いた。軟体動物はニヤニヤするばかりで何も答えなかった。水槽で子供が跳ねた。熊は魚がもうこんなに大きくなった事に感謝した。
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