短編小説 ニブンノイチ

悠は瑞希の咥えているポッキーを反対側から摘んで折った。瑞希のポッキーは半分悠のものとなる。二人は咀嚼し、同時に飲み込んだ。
「のどがかわいた」
甘いものが苦手な悠は瑞希の前からキッチンに向かって歩き出す。
「一本の半分だよ?」
信じられないといった声で瑞希が返すと小さく笑って悠はマグカップを二つ取り出す。悠はブラックコーヒー、瑞希は砂糖を入れないソイラテがいつものやつだった。  

「一緒に暮らしてもうどの位かな?」
ソファに二人で腰掛けながら午後のコーヒーを楽しむ。これがいつもの二人の休日だった。
「暮らし始めたのは三年くらいじゃない?」
「まだそんなに経ってないね」
「そうだね、ずっと一緒にいる気がする」
二人はふふっ、と微笑み合った。
「これからもずっと一緒にいようね」
悠は瑞希の手に指を絡ませる。瑞希は黙っている。考え事をするように。
「あのね、こないだ言われたの。母親に」
瑞希は悠に指を絡め返しながら言いにくそうに言った。
「ルームシェアなんてしてるから、彼氏が出来ないんじゃないかって」
悠は瑞希を見つめた。長いまつ毛、大きな目。これが私だけをずっと映していてほしかった。
瑞希は一度目をつむり、絡んだ指を持ち上げてキスをした。
「私には悠しかいない、でもどうやって打ち明けていいかわからないの」
悠は瑞希の唇に触れた。深いものにするつもりはなかった。ただ、そんな言葉を全部悠の中に移してしまいたかった。瑞希が辛い思いをするのは嫌だ、でも離れられない。お互いに同じ思いでいる事は明らかだった。
「打ち明けるの、まだいいよ」
瑞希はゆるゆる首を振った。母親を信頼しているのか。悠はまだ早いと思っている。社会には私たちを受け入れる用意がまだない。
瑞希は悠に抱きついて豊かな胸に顔を埋めた。悠は抱き返す。さらさらの長髪からシャンプーのいい匂いがする。目を閉じる。お互いの体温がお互いを癒していくのが分かる。彼女なら居るのにね。悠は少し腹立たしくなった。
「瑞希が打ち明けたいなら、私行こうか?」
二人揃っていれば、どんな事でもきっと乗り越えていける。悠はそう伝えたかった。茨の道は嫌だけれど、これが私たちなのだし瑞希と離れるほうが嫌だった。
「ひとりじゃないのはわかってるの」
ぽつりと瑞希が呟いた。
「悠がいて、私がいる。それは同じだと思ってるよ」
胸の柔らかさを確かめるように瑞希は顔をずらす。
「私たちは同じだけど、伝わらないこともあるから」
悠は瑞希の髪をすく。私たちが分かり合えたのは奇跡なのかもしれない。奇跡は二度あるだろうか?祈るような気持ちで悠は瑞希にキスをした。
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