短編小説 ふたり
瑞穂は洗い物をする手をとめて美紀を呼んだ。洗剤を付けすぎてシャボンがふわふわと浮いている。瑞穂があまりにはしゃいでいるので美紀はこらー、と声を出した。
「洗剤、もったいないでしょー」
「出しすぎちゃったんだもん」
瑞穂は軽く舌を出す。美紀は瑞穂の頭をぽんぽんと撫でた。
「でも洗い物すぐやって偉い」
「溜まってるの気持ち悪いから」
お昼はツナのトマトソースパスタ、レタスと卵のサラダ、じゃがいものコンソメスープだった。美紀であればワンプレートに盛りかねない料理を、ひと皿ひと皿丁寧に瑞穂は片付ける。瑞穂は家事が好きらしい。
素晴らしいパートナーだと美紀は思う。自分が男ならとっくに結婚しているとも。
ただ、私たちのゴールは結婚ではない。だから、居心地がよくて、同時に不安の塊でもあった。
瑞穂にいい人が他に現れたらと思うと美紀はとたんに苦しくなり、瑞穂に少し意地悪をしたくなる。
洗い終わり、手を拭く瑞穂からタオルを奪い取るとそのタオルで目隠しした。
「えっ、何で?濡れてて気持ち悪い」
慌てる瑞穂が可愛らしくて、どこにもやりたくなくて、私のものだと証明したくて美紀は瑞穂を抱きしめる。強く。
「タオル取ってー」
身体が動かなくなった瑞穂は頭を振る。それでも離さない。胸に顔を埋める。
「好きっ」
美紀は瑞穂に抱き返されるのを待っている。しかしそれは己のせいでかなわない。瑞穂の耳たぶを食んだ。
「ひゃっ」
瑞穂は耳が弱い。知ってるから食んだ。
「イチャイチャするならベッドに行こうよ」
瑞穂は顔を赤くする。美紀は耳たぶにキスをして満足する。
「瑞穂のエッチ」
「えっ?えっ…」
瑞穂は目隠しまでされているのである。タオルをゆっくり外すと瑞穂は両手で顔を隠す。それが愛らしくて美紀は瑞穂を再び抱きしめる。強く、強く。
ふっ、と息を吐いて瑞穂も美紀を抱き返すと肩に顔を埋める。
「かなわないなぁ、もう。美紀ちゃんには」
美紀は瑞穂の髪を撫でる。真っ赤な顔から体温が伝わる。守りたい、なにもかもから。頬を寄せる。二人は頬をつけたままお互いを見つめる。
「一緒に、いようね」
美紀は呟く。瑞穂は頷いて目を閉じる。
「でも濡れたタオルはやめてね?」
二人は吹き出す。美紀の気持ちに瑞穂もきっと勘づいている。
タオルを持って瑞穂はキッチンへと戻っていく。そして小走りで戻ると美紀を背中から抱きしめた。
「さっきの、おかえし」
抱きしめたまま、美紀の脇腹を指でくすぐる。
「いやぁ、やめてえー」
身をよじる美紀を離さないように瑞穂は美紀を抱く手に力を込めた。
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