短編小説 流れ星
今、さっと星が流れたような気がした。祐太は窓に駆け寄ろうと、急いで歩いて行って椅子の脚に靴下ごと指をぶつけた。あーっ、と声が出てその場に座り込む。
窓を見上げる。星は流れたか。じんじんとしみるように痛む足の指をそっと撫でる。
きっと星は流れた。願い事を華がしたに違いなかった。
華に電話をかける。華は出ない。塾の日かな?と一瞬迷う。流れ星見えた?用件はそれだけである。しかしこの奇跡を見つけた気分を共有したかった。足は痛いから華の家まで自転車を漕ぐ気にはなれない。
「今日、大きな月だね」と電話をかけたことがある。祐太と華は自分の家の窓から月を見た。そして祐太は堪えきれなくなりその日華に会いに行った。華は玄関先まで出てきてそこでまた二人は月を見た。月ばかり見ていた。華がいない時も夜空が気になるようになった。
「今、すごい音したけど何?」
ノックもせず妹が部屋に入ってくる。
「うるせえなぁ、勝手に入るなよ」
胡座をかく祐太と派手にずれた椅子を見て、妹の祐菜は首を傾げる。片方の耳にはイヤホンを付けている。どうせ声優の歌でも聴いているのだろう。
祐菜は遠慮もせずに部屋に進み入り、窓から空を見上げた。
「きれいな星だね」
祐太は足の指を撫でながらさっき見た流れ星の事を言おうかと思った。祐菜を見た。少し悲しそうに見えた。
「今日、好きな人が友達と帰ってるの見ちゃった」
窓から目を離さずに妹は呟く。何が言いたいのか分からなかった。友達と下校することくらい祐太にだってある。
「お兄ちゃん、足ぶつけたんだね」
クスッと祐菜は笑う。ぶつけてないと言うと、嘘つきとまた笑われた。
着信音が鳴る。祐太は慌てて画面を見た。華である。妹を部屋から出したくてしっしっ、と手を振った。
祐菜は祐太のスマホを一度眺め、また窓の外を見た。着信音が切れる。
「お前、出てけって」
「電話出て良かったのに」
華と話したかったのだ。祐太はいらいらしながらスマホを握りしめる。
「彼女?」
「そうだよ、だから出てけ」
祐菜は困ったような顔をして呟いた。
「一人になりたくない」
何かあったのかもしれないが、祐太は華と話したかった。流れ星見えた?と華に聞きたかった。
「みんなたのしそうに こいをしてていいね」
祐菜はロボットみたいに喋った。祐太は首を傾げたがあまりに妹が寂しそうに言ったので、仕方なく呟いた。
「さっき、そこから流れ星が見えた」