英語 | 方言と標準語
(1)日本の翻訳文化
日本の翻訳文化は、漢文で書かれた仏典を書き下し文(かきくだしぶん)として読む頃から始まる。また、江戸時代には、前野良沢・杉田玄白らによって「ターヘル・アナトミア」が「解体新書」として出版されたが、和漢混淆文ではなく漢文で邦訳された。
言ってみれば、日本の翻訳文化は古くは飛鳥時代からあった。イソップ物語など欧米諸国の物語が訳されたのは、安土桃山時代の頃だが、現代に至るまで日本人は、「翻訳」を通して外国の文化を吸収してきたと言えるだろう。
現代においても、海外の文学を知るならば、日本語を学べと言う人もいるほど、日本の翻訳文化は多様性を持っていて、その質も高い。しかし、そうは言ってもやはり翻訳には限界があり、原文を読んでみないことには分からないこともある。
その1つに、「方言」の問題がある。邦訳で文学作品を読むときには忘れがちであるが、英語にだって日本語と同じように方言がある。例えば、方言を駆使したことで知られる有名な文学作品に、スタインベック「怒りの葡萄」(John Steinbeck, The Grapes of Wrath)がある。
(2) 方言と「怒りの葡萄」
スタインベック「怒りの葡萄」は不当に安い賃金で働かされた農民の話だが、この小説は、構成上、特異な形式で書かれている。
「怒りの葡萄」には、全部で30章あるが、奇数の章では「標準語」が多用された平叙文が多いのに対して、偶数の章では「方言」が多用された会話文が多い。
⚠️内容は読まなくてもけっこうです。ざっと目を通すだけで、明らかに文体が異なることが分かると思います。
例えば、第1章の書き出し(奇数章、標準語・平叙文が多め)は、次のような感じである。
To the red country and part of the gray country of Oklahoma, the last rains came gentry, and they did not cut the scarred earth. The plows crossed and recrossed the rivulet marks. The last rains lifted the corn quickly and scattered weed colonies and grass along the sides of the roads so that the gray country and the dark red country began to dissapear under a green cover.
第2章(方言・会話文が多め)の終わり近くはこんな感じ。
"The hell you ain't," said Joad. "That big old nose of yours been stickin' out eight miles ahead of your face. You had that big nose goin' over me like a sheep in a vegetable patch."
The driver's face tightened. "You got me all wrong--" he began weakly.
Joad laughed at him. "You been a good guy. You give me a lift. Well, hell ! I done time. So what ! You want to know what I done time for, don't you ?"
"That ain't none of my affair."
"Nothin' ain't none of your affair except skinnin' this here bull-bitch along, an' that's the least thing you work at. Now look. See that road up ahead."
⚠️ain'tは教養のある人が用いる言葉ではないとされています。また、文中で、doneやbeenが使われていますが、受け身でも、完了形でもないのに、を動詞として過去分詞を使用するのは標準的な語法ではありません。
(3) 英語学習としての多読
よく書店のコーナーの洋書には、「TOEIC○○点レベル」という帯が巻かれている。ハッキリ言おう。その基準はおかしい。TOEICなんか勉強したって、スタインベックは決して読めるようにはならない。
スタインベックは偉大な文豪なのだが、標準語からかけ離れた「方言」が多い。なので、英語初級者には、私はオススメできない。
最低限しっかりと高校生レベルの英文法をマスターしていないと、間違った表現を覚えることに繋がると考える。
英語学習という意味では、私はスタインベックではなく、コナン・ドイルのシャーロック・ホームズをすすめたい。標準的な英語で書かれていて、そのまま高校生の英語教材として使える。
スタインベックを英語で読むのは上級者。翻訳も工夫されているが、原文で味わいたいならば。。。
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