俳句のための古典文法
俳句は5-7-5のリズムに言葉をのせる。口語でも文語でもよいが、文語のほうが格調高く響く。
古典文法は、高校生の頃、ほとんどの人が習っているはずだが、もっぱら書かれた古典を「読む」ために学んだものである。
古語を使って俳句を「作る」際に使えそうな文法をまとめてみる。
①動詞の活用
現代語の「五段活用」のように、古語にも「○○活用」は様々あるが、とくによく使いそうな「ラ行変格活用」と「サ行変格活用」を覚えよう。
「ラ行変格活用」
「ラ行変格活用」の動詞は「あり」「居り(をり)」「侍り(はべり)」「いますがり」があるが、とりあえず「あり」をしっかり覚えよう。主な用法とともに、丸暗記すると使いやすくなる。「未然形」のような「○○形」という文法用語は覚えなくてもよい。
「あらず」「ありたり」「あり」「あるとき」「あれども」「あれ」
現代語と同様に一般に動詞は「ウ段」が終止形(言い切る形)になるが、「ラ変」のみ、「イ段」で終止する!
「サ行変格活用」
「せず」「したり」「~す」「するとき」「すれども」「せよ」
「サ変」は使い勝手がよい。前に「漢語」や「和語の名詞」をくっつければ応用しやすい。
例えば「心」(こころ)を前につければ、
「心せず」「心したり」「心す」「心するとき」「心すれども」「心せよ」。
なお、濁音になる場合もある。例えば、
「信ぜず」「信じたり」「信ず」「信ずるとき」「信ずれども」「信ぜよ」。
②形容詞・形容動詞の活用(*変化)
形容詞
連用形の活用語尾が
「く」になるもの(『ク活用』)と
「しく」(『シク活用』)になるものがある。
とりあえず、「清し」(ク活用)と「美し」だけ覚えておこう。
「清からず」「清くなる」「清かりかり」「清し」「清きとき」「清かるべし」「清けれども」「清かれ」
「美しからず」「美しくなる」「美しかりけり」「美し」「美しきとき」「美しかるべし」「美しけれども」「美しかれ」
形容動詞
終止形の活用語尾が「なり」になるものと「たり」になるものがある。
とりあえず、「静か」(ナリ活用)と「堂々」(タリ活用)を覚えよう!
「静かならず」「静かなりけり」「静かなり」「静かなるとき」「静かなれども」「静かなれ」
「堂々たらず」「堂々たりけり」「堂々たり」「堂々たるとき」「堂々たれども」「堂々たれ」
*「タリ活用」は使い勝手がよい。「たり」の前に「悠々」「悠然」「泰然」「朦朧」など、漢語を前につけるだけでよい。
③付属語 ( 助動詞 )
「付属語」とは、単独では用いることができず、かつ、活用(形が変わる)がある言葉である。
現代語の「れる、られる」に対応する古語は「る、らる」である。意味は現代語と同じで、「受け身」「尊敬」「自発」「可能」である。
「呼ぶ」に「る」をつけると、
「呼ばれず」「呼ばれけり」「呼ばる」「呼ばるるとき」「呼るれば」「呼ばれよ」
「試みる」に「らる」をつけると、
「試みられず」「試みられけり」「試みらる」「試みらるるとき」「試みらるれば」「試みられよ」
◎助動詞は、数が多く、この記事ではカバーしきれない。必要に応じてひとつひとつ学んでいくしかないだろう。
④係り結びの法則 ( 上級者向け )
文はふつう、動詞や形容詞などの終止形で言い切る。「係り結び」とは、「ぞ、なむ(なん)」などの係助詞(けいじょし)が文中に用いられた場合は文末を特定の活用形で結ぶ、というきまりのことである。
「ぞ・なむ(なん)」は「強意」を表し、文末は連体形になる。
「や・か(やか・かは)」は「疑問・反語」を表し、文末は連体形になる。
「こそ」は「強意」を表し、文末は已然形(いぜんけい)になる。
例文ごと覚えておくとよいだろう。
☆
九重のうちに鳴かぬぞいとわろき。
「ぞ・・・わろき」の部分が係り結び。
「ぞ」がなければ「わろき」ではなく、「わろし」になるところだ。
(意味)
宮中で鳴かないのが、はなはだよくない。[枕草子・鳥は]
☆
もと光る竹なむ一筋ありける。
「なむ・・・ける」が係り結び。
「なむ」がなければ、「ける」ではなく、「けり」で終止する。
(意味)
根本の光る竹が一本あった。
[竹取物語・かぐや姫の生ひ立ち]
☆
この女をこそ得め。
「こそ・・・め」が係り結び。
(意味)
この女を妻にしたい。[伊勢物語]
☆
たふとくこそおはしけれ。
「こそ・・・けれ」が係り結び。
(意味)
まことに尊くいらっしゃいました。
[徒然草・五十二段]
まとめ
ここに挙げたものは、古典文法のごく一部である。本格的にやるならば、一番分かりやすく、有用なのは、高校生の受験参考書だと思う。
「読む」ことではなく、「作る」という観点から古典文法を見ると、必ずしもすべて覚える必要はない。
英語の学習と同じで、文法は基本的なことを押さえたら、古典文学を多読して、体で文法や言葉をひとつひとつ覚えていくことが、遠回りのようでありながら、最も効率のよい方法だと思う。
古典を音読して、好きなフレーズを暗記していきたいところだ。