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友達が 1人もいない 魔の実家 ~帰省する際に疲れてしまう理由~

 私には友達が1人もいない。飲食店で働いているとお盆やら夏休みやらの夏の定番な出来事を味わうことなくささやかな浮世離れを味わうことになり私も帰省という概念を最近思い出した。というより堕落の限りを尽くした生活を無慈悲な土石流の如く止めることができない私のことを妹は恥辱の化身として侮蔑し、祖母および田舎の親族たちは私のことを祟りそのものとして恐れおののいているため身の危険を感じ帰省を諦めている。

 ただお盆と違い正月はまあまあ大変だ。当然帰省しないのだが職場は休みのため強制的にいつも通りの空豆二粒分のカロリーしか消費しない生活を送ることを余儀なくされ、鏡に向かって出来立てホヤホヤの己の人間性を正当化する主義主張を熱く語り、思想が桃色に染まってくればネットの酒池肉林のノウハウに目を通すどこの文明にも属さない新年が幕を開けている。

 ただ今年の正月はなぜだか分からないが「このまま歯がない歯車のような暮らしで満足か?」と歌詞の意味がよく分からない己のロックンローラーな部分がシャウトしなにかしなければと思い至り料理をしようと思い冷凍の餃子を久方ぶりに買ってきて調理を試みたのだが、餃子の皮をフライパンに火力を提供した利子の如くむしり取られたすえに心が折られ料理の道を諦めた。

 帰省の選択肢を失ったことでそんな絶望をギュッとした生活を送る羽目になってはいるが、かつて妹や親族から調和を目的とした立ち振る舞いをされていた私が許容されていた時代は何度か帰っていた。しかし実家とは本来心が安らぐ場所であり、寂しくなった口にナッツを運ぶぐらいの気軽さで冷蔵庫を勝手に漁っても許されるような愚息的治外法権が跋扈するサンクチュアリのはずなのだが一度だけなんとも気まずい時間を味合わされたことがある。

 私の親戚に戦争の関係で中国に移り住み、努力のすえ成り上がり大成功を収めた性別、年齢、人間性のすべてにおいて私のちょうど逆の人物がいる。祖父の妹にあたる人物なのだが当然の如く忙しい方なのでほとんど会ったことがないが一度だけ長期の休暇が取れたかなにかで実家に1週間ほど泊まっていたことがある。私の帰省中に・・・

 他の追随を許さない人見知りな私はそれを帰省する直前に聞かされた瞬間、実家という本来無痛が約束された場所でのんびりするというプランは息を引き取ったのだが幸い日本にいる間もその方はいろんな方に会ったり取材だったりで忙しいということで少しだけ安心し実家へと帰った。私の帰ったときはちょうど家族の全員が出かけていたのだがなぜか謎の女性がリビングにいた。

 どうやらその方は祖父の妹の中国でできた家族の1人らしい。おそらく娘さんだと思うのだが厄介なのは私がその人が来ることを知らずなんの心の準備もしていなかったこと。私以外の家族が誰もいなかったこと。そしてその方は日本語が全く喋れなかった。つまり私は実家で初対面の言葉の通じない異国の地の親戚の若い女性と二人きりにされたのだった。

 コミュニケーション能力が欠如した人間にとっての気まずい状況がアベンジャーズの如く総動員していた。とりあえずリビングの少し離れた位置の椅子に座り藁にも縋る思いでテレビをつけたものの画面の中の情景を題材にトークを繰り広げる話術など到底持ち合わせていないので体をねじり切るぐらいしつこく体をひねったり、ひねった拍子に脇に顔を近づけ己の体臭と向き合ってみたりと家族が帰ってくるまで地獄のような時間を過ごすはめになった。帰省なんてするもんじゃない。


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