ひきこもりから脱した先の社会に居場所はあるのか ~ひきこもったまま社会とつながる 手作りおやつ工房とさか~
ひきこもったまま始めた手作りおやつの店
まもなく2021年2月2日、工房開業から丸3年経ちます。先日夫と「3年続いた仕事は初めてだから記録更新だね~」と言って盛り上がりました。
ひきこもり状態にある時、精神障害者のための就労支援センターに行きましたが、夫と話し合って「私らしく生きて人の役に立てるように」と手作りおやつの店を始めようと決めました。
子どもの頃から好きだったお菓子作りがうつ状態から回復するきっかけになり、毎日作るようになって夫が職場に差し入れるようになりました。とても好評で「こんなにおいしいんだから店やればいいじゃん」の夫の同僚達の声も大きかったです。自宅で毎日お菓子作りできていれば私が精神的に安定し、夫も安心して仕事に出かけられる。利益が出たら地域福祉のために使えば、私が好きなことをして人の役に立てるじゃないかと、小さなマンションから戸建てに住み替えて、自宅の1階で工房を始めることにしました。
工房がまず私にとって安心安全な居場所であるように、「手作りおやつ工房とさかに行きたい」という方、応援してくれる方だけが来てくれたらいいと看板もない小さな店です。
ひきこもり状態から脱したら解決なのか
「一人でお店するなんてすごーい」
「どうやってひきこもりから回復したの?もっとお話ききたい!」
「とさかさんは本当素晴らしいわねー」
開業以来、自身の経験や想いを話す度に言われてきたことです。多くの方は悪気なんてこれっぽっちもないと思いますが、私はその度にチクチク、グサグサと傷ついてきました。
やっと地に根を伸ばし出した小さな芽が踏み潰されていくよう…。「あっ」と声を出した時には、踏みつけた人は過ぎ去っている。私はその度に駆け寄って、踏み潰された小さな芽が無事であるか確認し、時には覆いをかぶせて2、3日見守った。
傷ついた私を癒してくれるのは、ふらっと笑顔で立ち寄ってくれる地域の方々や子どもたちです。
「メロンパンクッキーあった~!」とドアを開けるなりクッキーにまっしぐらの子。
「今日お店あいてる?今から行きまーす」というリピーターさんからのお電話。
「プレゼントにお菓子を送ってほしいんだけど」と連絡を下さる遠方から応援して下さる方。
ひきこもりの理解が社会に広がり、たくさんのつながりを作って、ひきこもって苦しんでいる人が安心して出て行ける社会になるように。傷ついてひきこもる人を生み出さない社会になるように。
そんな想いで私は自身の辛い経験をわざわざ話しているのだけれど、一部の「ひきこもりに理解のある方々」は、上に書いたような言葉を私にかけてくる。そしてそのまま過ぎ去っていく。時には「波瀾万丈でドラマみたいでおもしろい!」なんて言われる。それが虐待やハラスメントを受け、死にたい思いを抱えて生きてきた人に対するコメントだろうか。
本当に応援して下さる方は、私の想いを知ったら私の活動を応援してくれています。根掘り葉掘り聞くことなく、ただ足を運んで「ありがとう」と笑顔で帰っていく。私が元気ない時はそっと耳を傾けてくれる。だから安心して1日を過ごせ、まごころ込めて手作りおやつを作ることができます。
応援して下さる方がいるから今度は私が、今ひきこもって苦しんでいたり、孤独や生きづらさを感じている人の力になることができます。自分の安心できる場所で自分の好きなことをして社会とつながるために。
傷つけられて不安や恐怖しかない社会にどうして戻らなければならないのか。ひきこもり人口は100万人以上と言われています。それは、ひきこもってしまう人が問題なのではなく、ひきこもらざるを得ない人たちを生み出す社会に問題があると思います。
じゃあ、そんな社会を変えていきたいと本気で思っている人たちが互いにつながり活動を支え合えばいい。社会は様々な活動、人、もの、お金がつながり合っている。
効率や経済、体裁ばかり追い求めるから、排除されてしまう人、傷つけられてしまう人がいる。だったらその逆で、応援し支え合いたい人同士がつながればやさしい社会になるんじゃないか。
私は手作りおやつを作りながらそんな社会を想い描いています。