『「いいね!」戦争』を読む(4) 「不倫サイト」と「ロシア軍」の共通性
▼『「いいね!」戦争 兵器化するソーシャルメディア』を読んで考えるシリーズの続き。
▼ちょっと驚いたのだが、2019年6月27日の21時の時点で、まだアマゾンのカスタマーレビューが1件もついていない。もうそろそろ誰か書き込むと思うが。
この本は必ず各詩誌の書評で取り上げられるから、楽しみに待っておこう。
▼今号は、第3章「いまや「真実」はない ソーシャルメディアと秘密の終わり」の前半から。適宜改行。本文傍点は
▼アメリカ軍の陸軍参謀長が「人類史上初めて、気づかれないことがほぼ不可能になっている」と言ったのは今から2年前、2017年のことだ。(99頁)
〈「アシュレイ・マディソン」は不倫を考えている既婚者向けの出会い系サイトだ。アルゴリズムがソーシャルメディア上から、出張者がホテルに到着する(つまり浮気しやすい)時間を探知する。
それと同じように、2014年にウクライナで始まった戦闘で、ロシア軍の情報機関は前線に配備されるウクライナ兵のスマートフォンを正確に特定した。
アシュレイ・マディソンが地域を限定したデータをもとに
「雪が解けるころにはおまえの死体が発見されるだろう」
といったメッセージを送信した。そのうえで、ウクライナで砲撃を開始したのだ。
とはいえ、以上の情報について際立っているのは、その規模の大きさや形態だけではない。そのほとんどが私たちに【関する】もので、私たちに【によって】送り出されている点だ。
すべての始まりはおそらく2006年、フェイスブックがデザインを更新して、小さなテキストボックスに簡単な質問が表示されるようになってからだろう。
「今なにしてる?」
以来、「近況アップデート」のおかげで、人生に望むことをソーシャルメディアで、何でもシェアできるようになった。考えていることや地理的にタグ付けした画像、ライブの動画フィードやAR(拡張現実)ステッカーまで何でもありだ。
その結果、私たちは今、自らの手に負えない最悪の怪物と化している。つまり、単に監視するだけではなく、常に自分から共有しすぎる状態に陥っているのだ。〉(100-101頁)
▼前々回、前回を読んだひとはもうわかったと思うが、この本は一つ一つの逸話のインパクトがとても強い。
アメリカの前大統領のバラク・オバマ氏いわく、「私が高校時代にしたことの写真が全部公開されていたら、たぶん私はアメリカ大統領になっていなかっただろう」(103頁)
30代以上の人には、「ああ、助かった」と思っている人も多いことだろう。
▼インターネットの中で、自分についての情報を自分から発信している、ということは、人間の情報がーーつまり人間そのものが「商品」になり、人間そのものが「兵器」になるのだ、ということがよくわかる。
この、個人がとてもついていけない変化に、国家や企業、つまり「法人」がすっかり主導権を握っている。
「今なにしてる?」に、ご用心。(つづく)
(2019年6月27日)