バーチャル プロダクション ICVFX 革命 ~レイトレーシングで勝利を!~
こんにちは。STUDIO55技術統括の入江です。
本日は、AIではなく本業であるCG、特にVFXに関するお話です。CGに詳しくない方でも、映画や映像に興味がある方はぜひお読みください。
今年(2024年)の8月と9月は、AIとCG業界にとって革命的な進展がありました。今年後半は、いよいよその変革が本格的に実現される段階に入ります。そこで、今何が起こっているのか、まずは押さえておきましょう。
CG制作の現場では、リアルタイムレンダリングが主流となり、制作スピードの短縮が当然視されるようになっています。
V-Ray や Corona を開発する Chaos(カオス) 社 は、この ”時短競争" でゲームエンジンに対して圧され気味で、長年これらのレンダラーを使用してきたCGクリエイターたちにとっても、従来の信頼あるパイプラインを維持できないことにストレスを感じてきました。
しかし、とうとう 我らが Chaos がこの状況に一石を投じてくれました。
Chaos のレイトレーシングテクノロジーが ハリウッドで重要な役割を果たす出来事に注目が集まっています。
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今回の出来事に触れる前に、これまでのCG(VFX)の背景についてお話しします。
※VFX撮影技術に詳しい方は、本編解説からご覧ください。
レイトレーシングの進化
「レイトレーシング(ray tracing)」は、CGレンダリング技術の一つで、光の反射や屈折をリアルに再現する手法として知られています。
CGアーティストにとっては、特にV-Rayレンダラーを通じて馴染み深い用語です。
レイトレーシングはChaos社のV-Rayによって普及し、現在ではNVIDIAのRTコアなどによりハードウェアにも組み込まれるまでに進化しました。特にNVIDIAのRTXシリーズに搭載されたRTコアのハードウェアアクセラレーションは、重要なマシンスペックの一つとなっています。
これらの技術進化により、ゲームエンジンはハリウッドのバーチャルプロダクションツールとして活用され、撮影コストやスケジュールを削減し、効率化を実現する革新的手法として導入されました。
ICVFX
その代表的な手法が、現在のハリウッドで注目を集める ICVFX(In-Camera Visual Effects)です。
スターウォーズ初のテレビドラマ作品「The Mandalorian(マンダロリアン)」(2019年) の制作で有名になり、主に Lucasfilm(ルーカスフィルム) の ILM(Industrial Light & Magic)が大きく関与してきました。
巨大なLEDパネルにリアルタイムレンダリングで背景を映し出し、その中で俳優が演技を行う「イン・カメラ」手法です。撮影と同時に視覚効果が実現されるため、合成技術がカメラ内で完結し、VFXアーティストにとっても作業効率が向上します。
バーチャル プロダクション ツール
先駆的テクノロジーを駆使するクリエイティブプロダクション 「Magnopus (マグノプス)」は、マンダロリアン の撮影開始前にあたる 2018年 から Unreal Engine を使った バーチャル プロダクション ツール を構築してきました。
今年4月から公開されている話題の Amazonプライムビデオ「Fallout(フォールアウト)」は、Magnopus が バーチャルプロダクションを手掛けている映像です。
「Fallout」は、人気ゲームシリーズ「Fallout」を原作としたシリーズもののドラマです。このドラマは、核戦争後の荒廃した未来のアメリカを舞台にしており、ゲームの設定やテーマをもとに新しいストーリーが展開されます。プロデューサーには「ウエストワールド」の Jonathan Nolan と Lisa Joy が関わっているため、高い期待が寄せられています。
ゲーム「Fallout」シリーズのファンにも楽しめるよう、ゲームの雰囲気や世界観を大切にしながら新しい視点を提供することが意図されています。
「Fallout」のバーチャル セットは、Magnopus と Kilter Films(キルターフィルムス) が連携して制作にあたっており、すべて Unreal Engine で構築されています。
Unreal と nDisplay を使用してシーンをレンダリングし、LiveLink でリアルタイムにエンジンに取り込み、そのデータを USDデータ にまとめるカスタムソフトウェアを作成して使用しています。
CGI映画の原点『ウエストワールド』
Magnopus と Kilter Films は、「ウエストワールド シーズン4」で、共同作業に取り組んできた実績があります。
SFドラマ「Westworld(ウエストワールド)」(2016 - 2022) は、J・J・エイブラムス制作総指揮で作られた HBO放映の人気テレビシリーズです。
すでにご存じの方も多いことと思います。
テレビドラマとは思えないほどの壮大なビジュアルや未来都市の描写が高く評価され、西部劇の舞台と高度な人工知能が共存する独自の世界観が視覚的に魅力でした。
また、多層的な物語が、視聴者に人間性、自由意志、AIの倫理といった哲学的な問いを投げかけた複雑なストーリー性でも話題になった作品です。
この2021年の「ウエストワールド」は、1973年の同名映画「ウエストワールド」に基づいて描かれています。
私は、子供の頃に観たこの映画のあまりの衝撃に、トラウマ的作品として強く記憶に残っています。
映画「ターミネーター」(1984年)は「ウエストワールド」と展開が重なる部分が多く、話題になった当時でもほとんど興味を感じなかったほどです。それほど「ウエストワールド」のインパクトは強烈でした。
※私のライブラリーにある名作映画の1本です(笑)
この元祖「ウエストワールド」こそ、CGI(コンピューター生成画像)を使用した最初の映画として広く認識されているものです。
特に注目すべきは、映画に登場するアンドロイドの視点を表現するシーン(その当時、ピクセル表現のアンドロイド目線が機械的で恐かったのを覚えています)で、この視点を表現するためにCGI技術が使用されました。
この技術は、コンピューターで生成されたデジタル画像を直接映画に取り入れた初めての例として評価されています。
YouTubeでも購入ができますので、興味のある方はご覧ください。
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「マンダロリアン」で注目を集めた ICVFX 技術の登場により、「ウエストワールド」や公開中の「フォールアウト」などのシリーズで、臨場感あふれる、限界を打ち破るストーリーテリングが可能になり、映画制作に革命をもたらしました。主に Unreal Engine で駆動されるこの技術により、ダイナミックなリアルタイムの仮想制作が可能になり、セットや環境の作成方法が一変したのです。
その結果、驚異的なビジュアル ストーリーテリングが実現するだけでなく、効率性と創造性も大幅に向上し、Unreal Engine はハリウッドの将来の制作における中核ツールとなりました。
短編映画『レイトレーシング FTW』
あれこれ前置きしましたが、これらの状況を踏まえた上で、次に何があったのかをお伝えします。
9月12日、『Ray Tracing FTW』とタイトルした短編映画が Chaos(カオス) からリリースされました。
下が、オフィシャルトレーラー映像です。
Unreal Engine にVFXの座を奪われた Chaos が、Project Arena(プロジェクト アリーナ) をひっさげて帰ってきた!
「FTW」とは、"For The Win" の略で、このタイトルを日本語直訳すると、「レイトレーシングで勝利を!」となります。
この短編では、レイトレーシング レンダリング を牽引してきた V-Ray を始め、Chaos Vantage と Projyect Arena が使用され、この短編映画そのものがリアルタイムシナリオのレトレーシング技法で反映されています。
まさに、Chaos社こそがレイトレーシング技法を牽引したソフトウェア開発と提供元であることが強く示され、Unreal Engine でしかできないと思われてきた ICVFX を、なんと、リアルタイム レイトレーシング レンダリング でやってのけています!
また、この短編映画撮影を行うことで集結した面々がスゴい!
”VFX業界で伝説的なスターたち” が演技の腕前を披露しています(笑)
錚々たるカメオ出演、内部ジョーク満載の短編映画です(笑)
V-Ray の ウラジミール "ヴラド" コイラゾフ 氏や、Arnold レンダー の マルコス・ファハルド 氏 も、列車の乗客としてスペインから駆けつけています! まさに感動。
いつもお世話になってま~す!
『RAY TRACING FTW』
話題の短編映画(約10分)本編は、こちらから。
映画解説 ~私の好きなシーン解説~
映像の内容は一見難解かもしれませんが、より理解しやすくするために、専門的な解説に加え、アーティスト独特のジョークや私自身の感想も交えながら解説します。本編映像と併せてお楽しみください。
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映画は、Chaos社の Chris Nichols(クリス ニコルス) 氏の挨拶から始まります。
クリスは、Chaos Innovation Lab の特別プロジェクト ディレクターであり、CG Garage ポッドキャストのホストとして有名です。
「V-Ray I.R.L.」というのは、2012年に公開された Chaos (旧 Chaos Group) の短編映画です。
この時期は V-Ray がCG業界で標準的なレンダリングエンジンとして広く認知され始めた頃です。
当時の建築パース制作の現場では、3ds Max と V-Ray を使う制作者はまだ少数派でした。私が勤務していた制作会社でも、 "Max & V-Rayの使い手" は私だけで、周囲から教えを求められることがよくあり、一度など他の大手制作会社の社員たちが揃って見学に訪れたこともあります(笑)。「この作品を作ったのは誰か」と、注目を集めていました。
「V-Ray I.R.L.」は、そのような V-Ray 黎明期に、短編映像として公開されたもので、V-Rayのレンダリング効率と、物理的に正確なライティングやマテリアル表現によるフォトリアリズムをアピールし、建築ビジュアライゼーションや映画制作など、幅広い業界での応用力と、その柔軟性や拡張性について強調されました。
レンダリングの時短競争における Chaos社 の現状から、課題を見失っていたのではないかと、反省を込めた述懐が吐露されます。
まったくその通りです! 私たちCGクリエイターが言いたかったことを、冒頭の短い挨拶の中で、はっきり伝えてくれました。
さて、ここから本編スタート。
クリスたち Chaos(カオス) 一味が銀行強盗に入ります。
この意味不明なやりとりは、銀行員の役を演じているのが、『アバター ウェイ・オブ・ウォーター』とその続編を手掛けた名 プロダクション デザイナー Ben Procter(ベン・プロクター) だからです。
映画「アバター」を観て、誰もが「なんでそんなに青いの?」と思ったことでしょう(笑)
逃走中の彼らが叫びます。
現在のハリウッドを席巻しているこれらの技術で、世界がすっかり変わってしまった! と叫びます。
逃走する Chaos一味を追いかける中に、緑色の衣装を着た『ジョン・ウィック3』のVFXスーパーバイザー Rob Nederhorst(ロブ・ネダーホルスト) がいます。
VFX撮影ならではのキャラクターは、見ているだけで吹き出しそうです。
この緑の衣装が如何に役に立たないものかといったアーティストたちの思いが込められ、モーション トラッキング ボール (ぶら下がっているボール)や、スカーフ、ホルスターを追加したギャグ仕立てにしています。
コンセプト & AIアーティスト、プロップマスター である Erick Schiele(エリック・シーレ) が緑の男を拳銃で狙っています。
VFXアーティストにとって、この厄介な作業の発生元である存在を真っ先に排除すべく狙っています(笑)
ここからの銃撃戦で、ピストルの弾に当たった荷物の中から、カラーチェッカーが転がり出てくるのも シャレてます(笑)
その下には、ミッドジャーニーで作成した表紙の ”VFX Gazette(VFX 広報誌)” があり、これまでのVFXの歴史を示す名作映画が掲載されています。
伝説的な映画監督であり、VFXの先駆者でもある Douglas Trumbull(ダグラス・トランブル)氏(1942–2022)への称賛は尽きません!
トランブル氏 が手掛けた作品は、「2001年 宇宙の旅」「スタートレック」「ブレードランナー」「バックトゥザフューチャー…ザ・ライド」など、数多くの特殊フォーマットの映画を監督しており、多大な貢献を映画界にもたらしました。
クリスが緑の衣装を撃ち抜き、古い技術のグリーンバックの頭からは ”青い血” が噴き出して落馬します(笑)。
追いかける銀行頭取(?) 役の親子のやりとりで、緑の衣装が死んだことを揶揄した こんなセリフが入れられます。
”PG” は、保護者同伴が望ましい区分のことです。
米国ではPG-13(13歳未満のこども鑑賞にはとくに注意が必要)となることを言っており、それに合わせた制作を、このような皮肉ったセリフにしています。
更に、クリスがコメントを追加します。
CG制作者の誰もが共感する不満と悩みです。
CGアーティストは ”他の人の問題を解決” する対応まで迫られることが多くあります。それは、CG制作への理解が 「CG=ビデオゲーム」で ”なんでもできる” と思っていることが起因します。
そのため、制作期間を始め、容赦ない問題を突きつけられることが、アーティストたちの日常になっているところがあります。
夢中になってトリンブル氏の業績に見入っていた 監督、脚本、VFXアーティストの Dan Thron(ダン・トロン) が撃たれてしまいます。
ダン は、これまで映画のキャラクターにCGの弾痕や傷、血を追加する仕事を主にやってきたことから、彼が撃たれると、VFXチームの エリック が弾痕を示す場所を把握できる トラッキングマーカー を追加して、致命的な箇所からズラします(笑)
Chaos一味の乗る列車に飛び乗った銀行頭取親子のセリフ。
お金を取り戻そうとして追いかけてきた彼らも、Chaos一味の狙いが、お金ではなく ”ハリウッドを変える” ことにあると気づきます。
カッチョイイ~!!!
そうです。いよいよ 王者Chaos がハリウッドを変えます!
このセリフを吐露する James Blevins(ジェームズ・ブレビンス) は、MESH のバーチャルプロダクションの大物プロデューサーです。
この撮影での彼の演技への情熱はすごいものがあります。気合が入ってます(笑)
もみあげのメイクアップもすごいですね(笑笑)
時間経過のBロールインサート後、Chaos一味がポーカーギャンブルをしている場面になります。
何故かそこに、銃弾に打たれて落馬して死んだ筈の 緑のキャラクター (ロブ・ネダーホルスト) がいます。頭に銃弾の痕、顔に草が貼り付いた状態で、平然と列車の椅子に座っています。
…と言って、テーブルに RTX 6000 をベットするシーンなど、大爆笑です。
最後まで、緑のキャラクターが何に差し替えられるのか分からないというのも、VFXアーティストたちの現場の大変さが伺えるセリフですね。
こういった現場のドタバタ劇が共感できるだけ笑えます。”この騒ぎから立ち去るつもり” とセリフを吐きたくなる場面は多々あります。NVIDIA Ada Lovelace GPU アーキテクチャ「RTX6000 Ada」 をベットしても、最後まで分からない仕事なんて、誰もやりたくないですよね~(笑)
ちなみに、このテーブルに座る画面右端の男性が、Arnold Renderer の Marcos Fajardo(マルコス・ファハルド)氏です。そして、それを眺める左側に位置する男性が、Scanline VFX および Eyeline のCTO(最高技術責任者) Sebastian Sylwan(セバスチャン・シルワン)氏です!
映画「Iron Man 3」(2013年) での Scanline VFX の素晴らしさはありませんでした。個人的に敬愛する技術トップが並ぶ姿にシビレます!
この後の、クリス のセリフがまた良いですね~
かっちょいい~。この劇的進化が、VFXアーティストやCGアーティストたちの助けになる日は近い!
ここのやりとりが、CGIを初めて使用した映画「ウェストワールド」へのオマージュとなっています。
元の映画「ウエストワールド」において、キャラクターがウィスキーの代わりにマティーニを注文して叱られるシーンがあり、これは西部劇の典型的なキャラクターに対する批判を表したものとして有名です。
ウィスキーはカウボーイの定番であり、マティーニはそのイメージから外れるため、その対比がユーモラスな要素になっています。
それも マティーニ ”特大” ですので笑えます(笑)
それに追い打ちをかけて、エリックがプロセッコを注文します(笑)
プロセッコ は、世界で一番多く飲まれるスパークリングワインのことです。いよいよもって西部劇にあるまじきお酒ですね(笑)
ちなみに、このバーテンダーに扮した Kevin Mack (ケビン マック)は、たんなるおじいちゃんじゃないんですよ(笑)。ハリウッドでは知らない人がいない VFX コンポジティング アーティストの先駆者です。この映画では ”夢の実現(What Dreams May Come VFX supervisor)” と紹介されています。
彼の顔のメイクや風変りな被り物は、マックのアートスタイルの反映でしょうか。アグレッシブな彼のアートスタイルが、メイクに表われているといった印象です。
先ほど銃弾に倒れたダンが、エリックに弾痕用のトラッキングマーカーを追加してもらったおかげで存命しており、酔いつぶれるようにテーブルにうっぷして寝言をつぶやきます。
西部劇でこだわりの ”ウィスキー” も、実は無糖のアイスティーなんですね(笑)
ダンがうなされている様子に、バーテンの ケビン が「Is your friend okay? (きみの友達は大丈夫か?)」と聞きます。
スーパーヒーローの映画撮影に飽きていないかとクリスが問いかけ、バーテンのケビンが、映画「ゴーストライダー」の撮影に関わったことを打ち明けます(笑)
すると、その話しに喰い付くように、エリックが身を乗り出します。
バーテンのケビンも思い出したように、「You were on Ghost Rider!(あなたはゴーストライダーに出演してましたね!)」と言います。
なかなかシュールな裏話の展開です(笑)
劇中に語られるこのエピソードは、映画「ゴーストライダー」で燃える頭蓋骨のシャドウマップを手作業でレンダリングするのに何時間も費やしたトラウマを語っているものです。
クリスはこの「ゴーストライダー」の制作でPTSDを患いました。そのため、彼は映画「トロン レガシー」や「オブビリオン」ではV-Rayレンダリングを推進しています。
クリスがため息をつきながら、この話しを打ち切ります。
VFXアーティスト兼XRテクニカルディレクターの Sally Slade(サリー・スレイド) が、「Skull's on fire, What shadows?(頭蓋骨が燃えている、何の影?)」と、話しをぶり返します。
シャドウマッピング はレイトレーシング以前から使用されている手法の一つで、物理的に正確な影のシミュレーションではなく、視点と光源の位置に依存した間接的な手法です。つまり、影を疑似的に描きます。
それに対し、レイトレーシング は正確な光と影をシュミレーションするもので、各ピクセルごとに光線を追跡し、複数回の反射や屈折、影の生成をシミュレーションします。そのため、リアルであると共に、特に高解像度や複雑なシーンでは多大なリソースが必要となります。
V-Rayなどのレイトレーシングレンダリングによってしばらくは忘れ去られていたシャドウマッピングも、現在のゲームエンジンなどのリアルタイムレンダリングにおいて再注目され、UE5のリリース当初も、シャドウマップの問題が注視されていたのは、まだ記憶に新しいところです。
最近では、シャドウマッピングの精度を向上させるための改善技術(カスケードシャドウマップやバイアス補正など)も開発されており、今のリアルタイムレンダリング(特にゲームやインタラクティブなアプリケーション)で役割を果たしています。
エリックも彼女の話しを打ち切り、” prosecco” を再オーダーします。
酔いたい気分ですよね。
追いかけてきた銀行頭取親子の気配をクリスが察知します。
そして、静かにドアに歩み寄りながら、つぶやきます。
ここから展開する銃撃戦を予感した緊張感のある空気が流れます。
まさに、リアルタイム撮影の銃撃戦が始まる!
と、突然、車掌が姿を現して、声をかけます。
この人物こそ、Vladimir "Vlado" Koylazov(ウラジミール・"ヴラド"・コイラゾフ) 氏ではありませんか!
Chaos の共同創設者でV-Ray を作った人物です。
列車がトンネルに入ると同時に、銃撃戦が ”リアルタイム” で展開されます。
このスローモーションのリアルタイム表示は、ジュークに満ち満ちた表現としての解釈でしょう。「RAYTRACING FTW GF240」は、古いNVIDIAの「GeForce GT 240」の型番を示唆していますが、現実のGF240はレイトレーシングをサポートしていないため、ここでは皮肉的・ユーモア的な意味で使われている可能性があります。つまり、古い技術を使いながらも未来的なことを表現しているかのような意図で、この「GF240」という表記を使っているのかもしれません。
ここの表記は、実際のハードウェアや技術スペックに基づいたものではなく、視聴者に対して「高度な技術が使われている」という印象を与える演出意図が感じられます。
なんと、流れ弾が 車掌の コイラゾフ氏 に当たってしまいます。
そのせいで、列車が大爆発!
鉄橋を見上げる川べりで、Digital Domain 共同創業者 Scott Ross(スコット・ロス)が、愛犬の Russell(ラッセル) くん と一緒に、その終焉となる光景を眺めて、一言。
スコット・ロス。カッコいいですね~
私もこんな ジジイ になりたいと思ってる今日この頃です。
いつも愛犬くんと一緒です(笑)
ちなみに、Digital Domain(デジタル ドメイン)は、アメリカ VFXど真ん中の会社です。元々 ILM(インダストリアル ライト&マジック) のゼネラル マネージャーだった スコット・ロスが、ルーカスフィルムの副社長も辞めて、ジェームズ・キャメロンと共に設立した会社で、数々のアカデミー賞を受賞している、泣く子も黙る 大手VFX制作会社です。
ラストシーン。
列車は爆発して橋梁から落下しましたが、Chaos一味が全員無事で、夕食につこうとしています。
”in camera” ICVFXのことを言っていますね。
撮影がラップ(終了)し、次々とシーンの環境ビジュアルが ”消されて” いきます。その様子は、知らない人が見ると、現実の景色が電気が消えるように消されていくようで、まるで魔法です。
最後は背景が真っ白。
現場撤収が始まる中、V-Rayの コイラゾフ氏 が腕組みして立っています。
この コイラゾフ氏 が、『Project Arena』 レイ トレーシング システム LED ウォール バーチャルプロダクション の イノベーション責任者です。
この映画における現場を、監修してきたといったところでしょうか。
おつかれさまです。
これで映画は終わり。
最後に、エンドロールとなります。
メイキング映像
レイ トレーシング システム の バーチャル プロダクションの制作過程を詳しく見ることができます!
これが CGなの!? と、改めて感動します。
Project Arena
VFXの大御所たちが手本を示すかのように、ハリウッド映画作品そのままの撮影をやってのけました。皆さんはこの映画の背景がすべてCGだと分かりましたか? ロケーションもなく、すべてが Chaos の新しい リアルタイム レイ トレーシング 技術を使った ICVFX で撮影されています。
彼らの演技も素人とは思えないほど素晴らしいものがありました。
本物のアクター顔負けです(笑)
Unreal Engine 4 では、レイトレーシングの導入と併用して、静的なシーンに対して GPU Lightmass を用いてライティングを事前に計算・ベイクしていました。そして、Unreal Engine 5 では新しい技術である Lumen が導入され、ベイクなしでリアルタイムのグローバルイルミネーションを実現しています。
Lumen は、レイトレーシングに完全に依存するのではなく、計算負荷を軽減するために Signed Distance Fields や Screen Space Global Illumination (SSGI) など他の手法も組み合わせて使用します。これにより、完全なレイトレーシングに比べて ”効率的に” リアルタイムレンダリングを行います。
効率化したレイトレーシング に対し、今回の Chaos社の ”完全なリアルタイム レイトレーシング システム” が驚異になることは論を待ちません。
まさに、『レイトレーシングで勝利を!』です。
より簡単に、より速く! そして、より確実なリアルを!
「マンダロリアン」の元ポストプロダクションスーパーバイザーであり、本作品で気合の入った銀行頭取役を演じた James Blevins(ジェームズ・ブレビンス)氏 は、次のようにコメントしています。
今後、Chaos Innovation labs チームによって、すべての生産段階で同じV-Rayアセットを使用し、作業の継続性を確保し、パイプラインを簡素化することが可能になります。
アメリカ映画撮影監督協会の元会長を6期務めた Richard Crudo(リチャード・クルード)氏 は、次のようにコメントしています。
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Chaos のイノベーション責任者であり、劇中では車掌役を演じた Vladimir Koylazov(ウラジミール・コイラゾフ)氏 は、Project Arena のレイトレーシングが、LED ウォールのバーチャル プロダクション ワークフローをどのように変革できるかについて、Chaos 最高技術責任者 Mihail Sergeev(ミハイル・セルゲエフ) 氏と、今年4月5日のビデオで語っています。
Project Arena(プロジェクト アリーナ) は、リアルタイム パス トレーシング用のスタンドアロン ツールである Chaos Vantage の修正バージョンに基づいています。
このシステムこそ、監督、撮影監督、バーチャル アート部門、VFX チームに LED ウォール用の完全なレイトレーシング環境を提供するものです。
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『Project Arena』 は、今年3月の Chaos Unboxed イベントで発表されたものです。その中で紹介されたこのツールセットは、従来のゲーム エンジンに代わる仮想制作ツールを提供し、アーティストが V-Ray アセットとアニメーションを約 10 分で LED ウォールに移動できるようにします。
Project Arena は、仮想制作プロセスの簡素化に重点を置いており、使い慣れたワークフローでリアルタイムのレイ トレーシングを可能にします。
これまで使い慣れたパプラインそのままに表現拡張ができることに、私たちCGクリエイターもワクワクが止まりません!