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龍馬が月夜に翔んだ

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#坂本龍馬

時代小説『龍馬が月夜に翔んだ』第2話「自由を求めて新天地へ」

時代小説『龍馬が月夜に翔んだ』第2話「自由を求めて新天地へ」

龍馬は、日記を書き終えると、そのまま仰向けに寝そべった。

目の前には、黒ずんだむき出しの梁が重くのしかかる。それに輪をかけるように、あたりに醤油の匂いが立ち込めている。狭くて息苦しい。ここに日中居たら気分は晴れない。

後藤(象二郎)は上手く容堂公(山内容堂)を説得出来るだろうか。あの大酒飲みの容堂公にへそを曲げられたら、元の木阿弥になる。小松帯刀は上手く、いごっそうの西郷さんを引っ張りだすこと

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時代小説『龍馬が月夜に翔んだ』第1話「やっぱり年上には逆らえない」

時代小説『龍馬が月夜に翔んだ』第1話「やっぱり年上には逆らえない」

お龍、

わしは今、33歳。もうじき、34歳になる。

最も頼りにしている後藤象二郎は30歳。将軍様(徳川慶喜)は31歳。二人ともわしよりも年下じゃ。大政奉還の建白書を後藤に託して将軍様に出したが、どうなるかのう。わしらだけでは、心配じゃき。早く容堂公に京に入ってもろうて、後押ししてもらわんことには心配じゃ。それも、西郷どんが京におらんうちにじゃ。早うせんといけん。

そういえば、西郷どんは40歳

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龍馬、月へ帰る

「お龍」

布団の中にいて寝つかれなかったお龍は、今確かに龍馬の声を聴いた。

はっきりと、龍馬から名前を呼ばれた。

夜明けのように障子から薄明かりが差し込んでいる。

お龍は、障子を開けた。

見事な満月。

何処から聞こえるのか、清らかな鐘の音が長く尾を引いて流れている。

向こうの山影から青白い光の玉がすっと上がった。

一直線に満月に向かって昇って行く。

そしてその青白い光は、満月の光

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月は見ていた(『龍馬が月夜に翔んだ』より)

ここを飛び降りるしかない。

龍馬は、欄干を跨ごうとするが力が出ない。

頭から乗り越えようとした瞬間。

龍馬に衝撃が走った。

背中を力任せにこん棒で打たれたような衝撃。

見ると、胸から角のようなものが飛び出した。

大石鍬次郎が背後から、龍馬を手槍で突いたのだ。

龍馬は、心臓を後ろから一息に差された。

心臓を貫いた穂先は、勢い余って龍馬の体を突き抜けた。

龍馬は、刺された衝撃で欄干か

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背を向けるものは、斬る!(『龍馬が月夜に翔んだ』より)

背を向けるものは、斬る!(『龍馬が月夜に翔んだ』より)

服部武雄が、龍馬の用心棒の藤吉の強烈な羽交い絞めで落とされようとした時、抜き身の手槍を手にした大石鍬次郎が、疾風のような速さで二階を駆け上がってきた。

「中岡慎太郎は何処じゃ。お前ら、ぶった斬られたくなけりゃ、大人しくしろ」

奥の部屋に入ろうとするが、行く手は服部を羽交い絞めしいる藤吉がふさいでいる。

「服部さん、ご無礼」

大石は、羽交い絞めしている状態のまま藤吉の脇腹に手槍を浅く突き刺し

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抜けば、斬る!(『龍馬が月夜に翔んだ』より)

抜けば、斬る!(『龍馬が月夜に翔んだ』より)

望月弥太郎が、こいつらによって無残に切り刻まれたのだ。

望月はもう帰ってこないのだ。

あの望月はいない。

もう夜明けが近いというのに、彼は永遠の夜に閉ざされたままだ。

藤堂平助の眉間の醜い傷は、望月の恨みだ。

あろうことか、いま望月が私に恨みを晴らして下さいと哀願している。

龍馬の目には、知らず知らずに涙が溢れてきた。

零れ落ちた涙が、心の傷からにじみ出た血液のように畳を濡らしてゆく

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御陵衛士、参上!(『龍馬が月夜に翔んだ』より)

御陵衛士、参上!(『龍馬が月夜に翔んだ』より)

龍馬の用心棒の藤吉は、二人の脇差の下げ緒がしっかり巻かれていて、すぐに抜けない状態にあるかを確認した。

「失礼しました」

しかし、二人の脇差は下げ緒がぐるぐる巻きにしているにも関わらず、すぐにでも抜けるようになっていた。

これも、永倉新八が考えた「永倉巻き」である。永倉は昔から、思想とか思考には全く関心を示さず、寝ても覚めても剣術、戦術の事ばかりを考えている。

実際に、新選組の戦闘の方法は

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近江屋、突入!(『龍馬が月夜に翔んだ』より)

近江屋、突入!(『龍馬が月夜に翔んだ』より)

齊藤一は、菊屋の峯吉から、坂本龍馬が今は隠し部屋寝ている。今入った三人組は、十津川郷士と名乗っていて、近江屋の二階にいるとの報告を受ける。

「よし、藤堂平助さんと服部武雄さんが中に入って、中岡慎太郎ら三人を外に出して下さい。あくまで、不法侵入した不逞浪士を排除するという形です」

藤堂が、

「もし、刃向かってきたら?」

「当然、応戦して下さい」

日頃無口な服部が口を開く、

「相手が三人、

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