龍馬、月へ帰る
「お龍」
布団の中にいて寝つかれなかったお龍は、今確かに龍馬の声を聴いた。
はっきりと、龍馬から名前を呼ばれた。
夜明けのように障子から薄明かりが差し込んでいる。
お龍は、障子を開けた。
見事な満月。
何処から聞こえるのか、清らかな鐘の音が長く尾を引いて流れている。
向こうの山影から青白い光の玉がすっと上がった。
一直線に満月に向かって昇って行く。
そしてその青白い光は、満月の光に照らし出されて龍に姿を変えた。
龍の首が一旦こちらに向いた。
そして天に向かって駆け上がって行った。
知らず知らずにあふれ出た涙が、視界をにじませて満月を二つにした。
お龍は、悟った。
「龍馬が死んだ」
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