もし松田聖子の「ガラスの林檎」が古典和歌だったら
引き続き、インスタのフォロワーさんからいただいたリクエスト曲を和歌にしていきます。
今回は歌の内容がちょっぴり抽象的で難しい「ガラスの林檎」。
ひとつ前にリリースされたシングル「天国のキッス」からは随分イメージが変わり、グッと大人っぽい雰囲気の漂う一曲です。
歌詞にも、ところどころ艶やかなフレーズが散りばめられているようで…。
愛し合う二人の濃密な時間
時間は夜にさしかかり、二人の濃密な時間が愛を深めてゆくさまが窺えます。
ここで“こわれそうな心”という表現が出てきました。
繊細で割れやすい“ガラス”を連想させますね…!
なぜこわれそうなのかは、2番の歌詞を聴くと少し分かる気がします。
二人が親密になってゆくと、それだけ互いを失うことへの恐怖も強くなります。
いつか別れてしまう日が来るのだろうか?
もし裏切られたらどうしよう?
幸せであればあるほど不安は募り、些細なことで心がこわれてしまいそうになるのでしょう。
“林檎”は成熟すると赤くなる
曲名にも入っている“林檎”といえば、旧約聖書の神話を思い出す方もいるのではないでしょうか。
アダムとイヴは、「禁断の果実」を食した瞬間から恥じらいを覚え、性の違いを意識し始めます。
愛を覚えた彼女に対し、からかっているのか知らない振りをする彼。
指を噛むところも、果実を口にするシーンを思わせます。
また、次のフレーズも印象的です。
ここで言う「紅を注す」とは化粧する、つまり異性を意識して美しく着飾ろうとすることを表しているのではないでしょうか。
“林檎”が成熟して赤くなることとも、なんとなく重なる気がしませんか…?
“果実”のイメージを縁語で添える
今回は、愛を確かめ合う二人が抱く“ガラス”のような心の脆さに着目。
せっかくなので縁語を使って、“果実”のイメージも添えてみることに。
縁語とは、密接に関連し合う語句を、和歌の主題とは関係なくこっそり入れ込む修辞技法です。
“こっそり”と言うからには、掛詞などを使って隠し方を工夫しなければなりません。
そこで「かなしみ」に「実」を掛け、その縁語として「色めく(=美しく色づく)」「熟れゆく(=成熟する)」「かるる(=枯れる)」を配置。
艶っぽく色めいては愛を成熟させてゆく二人の、“離れたくない”という切ない願いを、一首にまとめてみました…!
かなしみは 色めくほどに 熟れゆきて
かるる憂へも いとどまされり
※解説は冒頭のインスタ参照